高齢者の夜間頻尿に対する鍼灸症例

高齢者の夜間頻尿に対する鍼灸症例

少し前にNHKで東洋医学の番組が放送され、鍼灸治療の様々な効果が報告されました。
番組の反響は当院にも少なからずあり、今回の症例の患者さんはCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の諸症状の軽減を目的に来院されました。
「夜間頻尿」にも困っておられ、下記にその鍼灸症例を紹介いたします。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております 

患者:70代、男性
主訴:COPD(慢性閉塞性肺疾患)の諸症状・夜間頻尿

受診動機
COPD(慢性閉塞性肺疾患)に鍼治療が効果的だという内容のテレビ番組をみて来院。

現病歴

20年前に肺気腫と診断されるが、それほど症状が強くなく未治療のまま過ごす。
5年ほど前に転倒した後、坂道や長い距離の散歩などで息切れを感じ、呼吸器内科を受診。
COPDと診断され現在通院中。

呼吸器内科では肺の半分が機能してない状態と言われている。
近隣に出歩くのも歩くと息切れしてつらく、車での移動がほとんど。
入浴では湯舟は疲れるが、シャワーだと少し楽。
一方で、体力を落としたくないため、毎日夕方に決まった距離の散歩を休みながら行っている。食欲はあるが、少し食べると胃の圧迫感がある。

既往歴
COPD・前立腺肥大症・肋骨骨折

COPDに対する施術にあたって

施術をお引き受けするにあたり以下のことを伝えました。

・当院ではCOPDに対する施術経験は乏しいこと
(テレビ番組内での報告は大学病院での鍼施術)
・番組で紹介された内容の元になった論文・文献を参考にした施術になること
・効果が低いければ施術を中断する可能性があること

以上を患者さんからの了承を得て、週に1回、1か月間施術を行い、その経過をもとに、
その後を相談することにしました。(論文報告では3か月を施術期間の目安としています)

COPDの諸症状については、少しは楽にはなるものの、1.2回目での効果は限定的でした。

一方で施術中に、夜間頻尿が1晩に4回あり、非常に困っていることを患者さんから伝えられました。前立腺肥大症を数年前から指摘され、定期的に泌尿器科で経過観察をしています。

相談の結果、COPDの鍼施術を継続しつつ、夜間頻尿に対しても加療をすることといたしました。

施術とその経過(夜間頻尿)

1回目
第3・4仙骨孔と陰部神経に鍼通電を行う。同時に電気温灸器syoukiで同仙骨孔に温熱刺激を加える。

2回目(14日後)
前回の施術で顕著な効果が認められ、夜間頻尿は4回から1,2回に減少。眠れるのでかなり楽になったとのこと。

3回目(28日後)
2回目の施術でも夜間頻尿は平均1.5回、1回の日も多くなってきた。排尿時の勢いも改善されているとのこと。

夜間に何度もトイレで起きることがなくなり、体力的にも随分楽になったと喜んでおられました。

まとめ

「夜間頻尿」に対しての鍼施術の経験はありましたが、実際のところ効果が顕著に出る方とそうでない方がおられます。その見極めは比較的難しく、当院では3.4回の施術で改善が認められ、効果が持続し、患者さんの負担にならない施術頻度で拝見しているのが現状です。

この患者さんの「夜間頻尿」は前立腺肥大症の既往がありますので、「尿がためられない」
ご高齢であり、睡眠薬が処方されていることから「眠りが浅い」
COPD(慢性閉塞性肺疾患)のため、「夜間頻尿」を伴いやすい。

既往と年齢から「夜間頻尿」を起こしやすいと考えられます。

今回の症例の患者さんはその後も2週間に1回の施術頻度で夜間頻尿は1晩に1回程度にとどまっています。今後は夜間頻尿の回数の更なる軽減と安定化、施術間隔を伸ばした場合での効果の継続を目標に施術内容を改善したいと思っています。

COPDの患者さんは体力を消耗するため、夜間頻尿の改善で日常生活の質がみられた点は良かったと思われます。また夜間頻尿は骨折のリスクが高まるとの報告もあります。
生活への悪影響が多いことから、逆に改善すれば好循環につながります。
鍼灸が適応する場合、積極的にアプローチしていくべきと考えます。

参考文献

・「夜間頻尿診療ガイドライン 第2版」 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会 編
・「ねころんで読める 排尿障害」 高橋悟 著 メディカ出版 編
・夜間頻尿に対する温灸治療の効果 -ランダム化比較試験を用いた検討-
 全日本鍼灸学会雑誌,2009年第59巻2号,116-124

PAGE TOP