首肩こりが強い急性低音障害型感音難聴の鍼灸症例
*こちらの症例は患者さん個人が特定されないように変更を加えております。
患者:30代、女性
主訴:急性低音障害型感音難聴
現病歴
1か月前に急に両耳の聞こえにくさ、耳のつまりを感じ、近隣の耳鼻咽喉科を受診。
「急性低音障害型感音難聴」の診断を受ける。循環改善薬、抗めまい薬が処方される。
3週間後に同院を再受診。処方は前回と同様。その3日後に耳鳴りを感じ受診、ストミンを処方される。次の受診は2週間後。少しずつ良くなっていたが、急に耳鳴りが出たことで不安になった。他に何かできることはないかと考え、当院を受診した。耳のこと、病院でステロイドを処方されなかったことに不安がある。
現在、聞こえにくさ、耳のつまり、耳鳴りがある。めまいはない。耳鳴りは5年前にもあったが、耳鼻科を受診し回復している。
平日は仕事で非常に多忙。睡眠も6時間程度。入眠に時間がかかり、中途覚醒もある。食欲はあるが、忙しい時は簡単にすませることも。
普段から疲れやすく、首肩こりが強く、マッサージに行く習慣あり。
くいしばりを歯科で指摘されている。鍼治療は未経験。
オージオグラムでは周波数125から500 Hzまでの低音部で左が30dB、右が25dBとなっている。
施術とその経過
1週間に1回の頻度でまず1か月施術することを提案
初診
鍼・電気ていしん・電気温灸器で循環改善を促し耳症状の改善を図る。
耳周囲・頸部・顎に施術。くいしばりがある方は、耳周囲、頸部の緊張が強くなることが多い。
回復傾向ではあるが発症して1か月が経過している。
現在も多忙のようで、安静にできる環境ではないのが気になるところ。
水分摂取と入浴、軽い散歩、可能な限り睡眠をしっかりとることを勧める。
第2回(7日目)
耳鳴りは以前と大きく変わらず、夜になると耳のつまりが気になる。
疲労時の耳のつまりが最も気になる。
自覚症状の左右差はなし。オージオグラムでは右耳が左耳よりも聴力の改善がみられる。
前回の施術内容に加え、背部・肩甲骨周囲の強い筋緊張を緩和するよう手技を行い、不安も強いことから「百会-神庭」への鍼通電を行う。
第3回(14日目)
昨日耳鼻科を受診、イソバイトが処方される。
左耳は「膜がはる感じ」、右耳はつまりや違和感はない。
長時間のパソコン作業が首の緊張を強くしている習慣と思われ、姿勢改善のため低かったパソコンの高さを調整していただく。施術内容は前回同様。
第4回(21日目)
両耳ともだいぶ調子が良い。前回からつまり感が軽減されている感じがするとのこと。
パソコンの高さも調整した。
第5回(28日目)
医師と相談し、イソバイトは念のためあと1か月服用することにした。
両耳ともつまり感、耳鳴り、聞こえにくさがないとのこと。
調子が良いとのことなので今回で「急性低音障害型感音難聴」の施術は終了。
背部緊張の改善のため、ストレッチポールを体験していただく。
6回目(5回目から1か月後)
耳症状の再発なし。首腰の痛みを訴えがあり、対応。
自宅でストレッチポールを活用しているとのこと。
まとめ
「急性低音障害型感音難聴」の患者さんは時々お見えになって、聴力検査の結果や、薬の処方などを確認させていただいています。
5.6年前の患者さんは初期にステロイドを処方されて、それでも改善されず当院へ受診という流れが多かったのですが、ここ数年の患者さんはステロイドを処方されていない患者さんが多くなっている印象があります。
そこで「急性感音難聴診療の手引き 2018年版」(一般社団法人 日本聴覚医学会 編)がWEB上に公開されていたため確認いたしました。
急性感音難聴に対して、ステロイドは無効、有効、必要性は少ないなど報告は様々であることがわかりました。まだまだ明確なエビデンスは得られていないようです。
若年女性に多い疾患のため、妊娠女性を考慮したりなどもあるのかもしれません。医師が個別の患者さんの状態に応じて処方を決定されているのだと思います。
耳症状を訴える方は、首、顎、頭部、背部の緊張が強く、耳への循環改善のため同部位を施術することが多いです。施術だけでなく、負担がかかる生活習慣や、環境の改善、
セルフケアを提案しています。
参考文献
・「急性感音難聴診療の手引き 2018年版」 日本聴覚医学会 編 金原出版 刊