突然の難聴になられた方へ 鍼灸師がお役に立てること

突然難聴になられた方へ

「早急に病院を受診してください」

仕事中でも、外出中でも、早ければ早いほど回復の可能性が高くなります。
その理由は後ほどご案内いたします。鍼灸師がお役に立てるのは病院を受診した後です。
これから紹介する「急性低音障害型感音難聴」の場合です。
後半には「急性低音障害型感音難聴」と「突発性難聴」に対する鍼灸施術の症例をのせていますので、ぜひご覧ください。

目次

・突然難聴になったら
・急性低音障害型感音難聴
・突発性難聴
・突然の難聴と鍼灸施術
・急性低音障害型感音難聴の鍼灸施術
・突発性難聴と診断された鍼灸施術
・まとめ

突然、難聴になったら」

急な難聴を引き起こす「突発性難聴」も「急性低音障害型感音難聴」も1時間でも早く、耳鼻咽喉科を受診することを強くお勧めします。発症初期の治療がもっとも重要で、時間が経過するほど回復の割合が下がっていくからです。
また他の疾患との鑑別も必要です。
最初の1.2週間はステロイド中心の治療を行うことが標準的です。患者さんの処方箋を見ると、耳の循環を良くする薬、ビタミンD、漢方薬などが良く出されています。
ストレス、寝不足、多量の飲酒なども関連しているといわれていますので、心身共に安静になさることを、当院では患者さんに伝えています。

「急性低音障害型感音難聴」

「急性低音障害型感音難聴」は突然、低い音が聞こえにくくなる病気です。あまり聞きなれない名前かもしれません。耳にある「蝸牛」という器官に異常が起こることで聞こえにくくなりますが、その原因はよくわかっていません。
「聞こえにくさ」以外に、耳が詰まった感じがする、耳鳴りがするといった症状があります。「めまい」は基本的にはありません。再発もありえます。

「突発性難聴」

一方で、急に聞こえにくくなるものに「突発性難聴」があります。「突発性難聴」は低音だけでなく、高音も聞こえにくくなることが多く、聞こえにくさが明確にわかります。
耳鳴りはありますし、「めまい」を伴うことがほとんどです。基本的に再発しないといわれています。こちらも原因はまだわかっていません。

突然の難聴と鍼灸施術

患者さんを拝見していると、「急性低音障害型感音難聴」は予後が良く、鍼灸施術の適応度が高い病気と思われます。「突発性難聴」は「急性低音障害型感音難聴」より難聴の度合いが強く、難しいこともあります。
難聴の程度と発症初期(特に発症から1か月以内)にどれくらい治療をできるかということが、その後の経過を大きく左右する要素と考えています。
鍼灸施術の内容は、耳とその周囲への循環改善、首と肩の緊張緩和を中心に組み立てています。
またストレスによって、おこるであろう身体の不調を観察して、確認していきます。
背部から上、首、肩、耳周囲、頭、手足などを診ることが多いと思われます。

「低音障害型感音難聴」の鍼灸症例

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容を変更しております。

患者:40代、男性
主訴:右耳が聞こえずらい
受診動機:薬だけで大丈夫か、心配になったため受診。

病歴
1週間前から右耳が突然聞こえづらくなった。耳がこもる感じがする。耳鳴りもある。めまい、吐き気、手のしびれ、頭痛はない。発症前に風邪症状はない。左側の耳は問題ない。
発症から3日後(当院受診の4日前)に耳鼻咽喉科を受診、「突発性難聴」と診断される。
ブレトニゾロン(ステロイド)、アデホス、メチコバールなどを処方される。夜勤の仕事に従事している。

既往歴
大きな病気はないが、10年前に「突発性難聴」になったことがあるとのこと。*今回の「突然の難聴」では、「めまい」がないこと。また10年前に「突発性難聴」にかかった既往があることから、「突発性難聴」よりも「低音障害型感音難聴」の可能性のほうが高いのではないかと思われた。この患者さんは聴力検査の結果表「オージオグラム」を発行されていなかったので、波形などで確認はできなかった。継続して耳鼻科を受診される予定があることと、「突発性難聴」「低音障害型感音難聴」に対する鍼灸治療の内容は大きく変わらないため、治療をしながら経過をみることとした。

身体診察
右後頚部、側頸部、翳風、完骨付近に強い緊張が左に比べて確認できる。後頚部全体にむくみ。

治療とその経過
第1回
腹臥位にて、天柱、風池、翳風、聴宮、完骨、後頚部硬結部位にセイリンJSP 1寸-3番にて置鍼15分。胸椎に箱灸側臥位にて、残存する硬結部に電気ていしんを10分。翳風、完骨に糸状灸を各10壮。首を冷やさないことと、仕事以外はなるべく休むことを伝える。

第2回(5日目)
耳がこもるかんじはなくなった。聞こえづらさは3割減。ステロイドから漢方薬に変更されたとのこと。治療内容は前回同様。初診時より頸部の緊張はとれている。

第3回(11日目)
ききづらさは8割減。起床時に「ゴー」とした耳鳴りがある。肩の張り感を訴えられたので、加療する。

第4回(17日目)
1日だけ、耳鳴りがしたが、おさまった。聞こえづらさ、こもり感などはない。漢方薬は継続されている。症状が落ち着いたため、鍼灸治療をひとくぎりする。*17日、4回の治療で症状は落ち着きました。耳鼻科の治療も継続していただいており、患者さんの協力で安静にもしていただいたからこその結果だと思われます。今回の「難聴」が「低音障害型感音難聴」だったとすれば、自然経過も比較的良いものですので、今回の経過は妥当ではないでしょうか。「オージオグラム」がなかったため「難聴の程度」がわからなかったのですが、「程度」によって経過や予後は変わってくると思われます。

追記:2017.5.20

「突発性難聴」と診断された難聴の鍼灸施術

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容を変更しております。

患者:20代、男性
主訴:右耳が急に聞こえにくくなった

受診動機:いろいろ調べた結果、早く対処したほうがいいと思い、受診した。

病歴: 4日前の朝、右耳が突然聞こえにくくなった。耳鳴りが「ゴー」という感じと耳が詰まる感じがある。めまい、吐き気などはない。翌日、職場近くの耳鼻咽喉科を受診「突発性難聴」と診断される。ブレドニン(ステロイド)、メチコバールなどが処方される。オージオグラムでは125-500Hzの低音域が60dbほど下がっています。2日前に自宅近くの耳鼻咽喉科でも「突発性難聴」と診断され、同じ処方をされる。現在、耳の聞こえづらさは少し良い。自分では1か月前から仕事が忙しかったのが原因だと思っている。首肩こり、腰痛は常にある。風邪などはここ数年ひいていない。次回の耳鼻咽喉科の受診は3週間後に予定している。


身体診察:左右共に首肩に広く緊張が認められる。耳周囲の押圧で耳鳴りや、耳閉感に変化はない。首全体に少し浮腫みがあるように思える。*今回、2件の耳鼻咽喉科で「突発性難聴」と診断されている。一方で見せていただいたオージオグラムでは中音-高音域は正常で、低音域に異常がみられる。「低音障害型感音難聴」の可能性も考えて、経過をみていくことにした。

治療とその経過
第1回:腹臥位にて、天柱、風池、完骨、翳風、頚部緊張部位にセイリンJSP1寸-3番鍼にて置鍼15分。側臥位にて電気温灸器syokiで耳周囲から後頚部、電気ていしんで同部位のむくみをとるように、30分ほど行う。可能な限りの安静と睡眠不足に注意していただくことを伝える。

第2回(6日目):耳の聞こえにくさはほとんどない。耳鳴り、耳閉感も完全になくなる。60dbほど下がっていた聴力も20dbまで回復していた。薬の副作用もない。治療は前回同様、頚肩の緊張、むくみも前回に比べて減っている。症状が落ち着いているので、当院での治療は終了とした。*発症後すぐに耳鼻咽喉科を受診されていたこと。職場の理解などもあり、無理をせず過ごすことができたようで、それらが早期の改善を促した要因と考えています。今回、「突発性難聴」と診断されていますが、低音域に限定されたオージオグラムであったこと。発症から早期に改善していることなどから「低音障害型感音難聴」のような気もします。2つの難聴の治療の中身は当院ではほぼ同じです。ただ「突発性難聴」のほうが治療回数や経過が長くかかり、受診のタイミングによっては、完全に治りきれないこともあるように思えます。

まとめ

・「突然の難聴」になられた場合はすぐに「耳鼻咽喉科」を受診してください。
・鍼灸治療は「耳鼻咽喉科」との併用でお役に立てることがあります。
・受診されるかたは「オージオグラム」を持参していただけると助かります。
・「高音型」よりも「低音型」の難聴の方が、経過が良い傾向にあります。

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