調べるのはほどほどに-急性低音障害型感音難聴の鍼灸症例

難聴に限らず、突然前触れもなくおこる身体の不調は、
それ自体が気持ちを不安定にするものです。

その不調の原因や病態をネットで調べることができるのは、
良い点も多いのですが、調べすぎることで不調に輪を
かけてしまう患者さんもいます。

こちらの症例は患者さんが特定されないよう変更を加えております。

患者
35歳、女性、事務職

主訴
突然の難聴・耳鳴り

受診動機
「急性低音障害型感音難聴」と診断されたが、点滴によるステロイドの効果が
ないこと、ネットで調べることでさらに不安になり受診。

現病歴
8日前、耳のつまりを感じる。疲労感や肩こりはあったが、
仕事のお付き合いで帰宅が遅くなる。

7日前、近隣の耳鼻科を受診、「アレルギー性鼻炎」と診断され、
抗生物質を処方される。

6日前、耳鳴りが出始め、同じ耳鼻科を受診、聴力検査で
左耳の「突発性難聴」と診断され、薬の処方はなく、大学病院を紹介される。

5日前、大学病院を受診するが対応に納得できず、
救急安心センター事業に電話相談をし、
4日前に別の耳鼻科を受診。

ブレドニンの点滴を3日連続で行うが、症状・聴力の回復は認められない。
明日からはステロイドの内服予定。

「急性低音障害型感音難聴」と診断されているが、1週間後に
「聴神経腫瘍」の可能性を考え、MRI検査の予定。

現在の症状は耳のつまり、耳鳴り(テレビの音で悪化)、
就寝前の静かな環境の方が調子が良い。騒がしい環境で悪化。

めまいは寝返り時に1度のみグラっとした。
仕事は事務職だが、耳症状が回復するまで休む予定。食欲はあまりないが、三食食べている。睡眠は


処方薬
ブレドニン
メコバラミン
アデホス
イソバイドシロップファモチジン

既往
アトピー性皮膚炎(冬に悪化)アレルギーテストはスギ、ヒノキ、カビ

施術方針

施術とその経過

初診左上側臥位にて、耳周囲、側頸部、後頚部、
肩上部にかけて電気ていしんと電気温灸器で浮腫みと緊張軽減を図る。
「命門」「大椎」「百会」「耳周囲」に棒灸
残存する耳周囲の硬結部位と「四神聡」に置鍼15分。

「低音障害型感音難聴」は回復しやすいこと。

主治医の先生は今、できることをしっかりしてくれているので
これ以上、ネットで耳のことを調べすぎず、主治医の指示を守り、
信用するように伝えた。
また経験上、ステロイドの処方が終わった後に回復していく方も
おられたことを伝えた。
生活では、十分な水分摂取と睡眠、身体を休めるようにおねがいした。


第2回(3日目)
MRIでは異常が認められなかった。聴力は60dbから40dbに回復。
耳のつまりは少し良い。耳鳴りは耳栓をしていると楽。
めまいはない。
トンネルの中、水の中にいる感覚がある
施術は前回通り

第3回(11日目)
昨日でステロイドの服用が終了し、1週間後耳鼻科を再受診予定。

耳のつまりはだいぶ良い。
用事で都会に出かけるが、騒がしい環境でも比較的平気だった。
耳栓をせずにテレビが見れる。めまいはない。
水の中いる感じはまだある。
食欲は正常に戻る.

前回施術後から睡眠はすごく良い
風の音が聞こえるようになってきている。(20dbまで回復の可能性あり)
明日から仕事復帰予定
自覚症状が減り、外出もできており、安心感が表情からもうかがえる。

第4回(17日目)
左聴力10db 右15dbまで回復。
医師からはイソバイト、アデホス、メコバラミンを1か月継続服用の指示。
耳鳴りは良くなっている。つまりはない。室外機の音が少し気になる程度。
仕事は問題なくできている。

第5回(32日目)
水の中にいる感じもない。症状が改善され、安定していることから終了とする。

1週間後耳鼻科受診予定。

症例を通じて

今回のケースは発症から「低音障害型感音難聴」の治療を
医療機関で受けるのに、3日ほど要しています。

その経緯と症状から不安を抱えつつ、
救急安心センター事業に電話相談をし、主治医がみつかるまでは
相当なご苦労だったと思われます。

当院を受診されたときは、患者さんは
多くの疑問と不安を強く訴えておられました。
そして、ネットで調べるほどネガティブな情報の多さから
不安が増していったといいます。

突然の難聴・耳鳴り・めまいは、それ自体で相当不安になります。
さらにネットで調べれば調べるほど不安になっているケースを多くみます
最近は難聴に限らず、調べすぎで余計に不安になっている方が
多いように思います。

調べるのは悪いことではありませんが、体調を壊すほど調べるのは本末転倒です


主治医は患者さんから医療面接や検査で得た多くの情報をもとに
面と向かって個別に診察しており、ネットよりも精度が高いこと。
医師にはネットにはない情報・経験の蓄積があること。
多くのネット情報から心身不調の状態で判断をするのは
患者さん自身の負担になること。
以上のような内容のほかに、疑問や不安があるときは、率直にその旨を主治医に伝えるよう時間をかけてアドバイスすることがあります。

患者さんが心身ともに不安定な状況で、ネットで調べた多種多様な情報を通じて、
医師に不信感を抱き、「標準治療」とのつながりを絶ってほしくないからです。最初の点滴によるステロイドの効果は当院の来院時にはまだでていませんでした。


しかしながら、耳鼻科の治療を継続した期間と
鍼灸での施術の期間が重なったこと。
また仕事が休めて、安静にすることができたこと。
さらに、自然回復などの要素もあったでしょう。


どの要素が最も効果的だったかは明確ではありませんが、
後遺症もなく日常生活に復帰できたことが
最も喜ばしい結果であったと考えます。

関連記事

PAGE TOP