「喉のつまり感と吐き気(えずき)」の鍼灸症例
「喉のつまり感」は「咽喉頭異常感症」「ヒステリー球」
また東洋医学では「梅核気」などと表現されることがあります。
他にも様々な病気が原因で「喉のつまり感」がおきます。
とにかく最初は病院の受診が必要です。
病院受診後に当院で対応した一症例をご案内します。
*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております
患者:20代、男性
主訴:喉のつまり感と吐き気(えずき)
【現病歴】
半年以上前から喉のつまり感と吐き気、時に嘔吐がある。
自分では原因はよくわからないが寝不足、疲労だと思っている。
内科で胃カメラの検査を受けるが、特に異常はなかった。
心療内科では「半夏厚朴湯」、安定剤を処方され、服用しているが改善が見られない。
食欲はある。起床時に水を飲んだり、歯を磨くと嘔気・嘔吐がある。
仕事中も発作的に喉のつまり感、嘔気があるが、なんとか我慢してきた。
仕事も休まず行っている。
症状は不快だが、特に憂鬱な気分が強いわけではない。
普段は二交代制の工場勤務で、深夜勤務もあり。休日は週に1回。
睡眠は仕事の関係で不規則となり、時間は5.6時間。
緩解因子は特にない。多方面から仕事を振られ、忙しくなり休憩時間が取れないと
症状が悪化し、頻度が増える。
喫煙なし、飲酒は毎日。
既往歴なし。
【現病歴からの考察】
内科での胃カメラの結果は器質的疾患の可能性が低いことを示唆しています。
喉の違和感を生じる下記疾患の病歴の有無を口頭で確認しましたが、
特に該当するものはありませんでした。
- 逆流性食道炎 →胸やけ、朝方悪くなる、口の中が苦い
- 副鼻腔炎 →鼻炎、後鼻漏、頬・前頭部の痛み
- 睡眠時無呼吸症候群 →いびき、日中の耐え難い眠気
- 咽頭炎 →喫煙歴
- 甲状腺疾患 →女性、動悸、頻脈など
- 悪性腫瘍 →嚥下時の痛み、喫煙歴、飲酒歴、家族歴、既往歴
- 心疾患 →労作による悪化、胸痛、冷や汗、動悸
- うつ病など →興味の消失、憂鬱な気分が2週間持続
受診歴から改善に乏しく、長期化し、鍼灸院に来院されていることからも
つらい症状であることは間違いありません。
心療内科で「半夏厚朴湯」を処方されていることから「咽喉頭異常感症」(ヒステリー球)の可能性は高いと思われます。
この方は非常に落ち着いていて、不安があまり前面に表れている感じはしませんでした。
食欲もあり、お仕事も欠勤せずにこなされています。
そうはいっても、お仕事は二交代、深夜勤務あり、休日も週に1度、
普段の業務も多忙な様子です。加えて長期にわたるこれらの症状が背景にあり、肉体的・精神的な負荷は相当なものと想像できます。
【所見】
前頚部・後頚部に硬結多数。胸鎖乳突筋、顎関節周囲の緊張も相当強い。
【所見を踏まえての考察】
後頚部・側頚部の緊張は首肩こりの患者さんなどではよくある状態です。
しかし、前頚部まで硬結・緊張箇所が多い状態は稀です。
この状態では飲み込みにも影響がありそうですし、
喉のつまり感は筋緊張からも起こりそうです。
【施術方針】
頚部周囲の著名な筋緊張・硬結の緩和を主としながら、
心因的な部分も注視していく。
【鍼灸施術とその経過】
第1回
伏臥位にて後頚部硬結部にステンレス鍼40㎜-18号で10分置鍼。
腰椎から上部胸椎上に箱灸。
側臥位にて、側頚部の浮腫の改善・血行を促進を目的とし電気てい鍼・電気温灸器shoukiを使用。仰臥位にて「扶突」、顎下硬結部、顎関節に置鍼。顎下部に電気てい鍼。
百会-神庭に高頻度鍼通電。
施術後、右顎二腹筋の一部に強い硬結が残る。
頚部のストレッチを自宅で行っていただく。
1週間に1度の施術頻度を提案する。
第2回
前回の施術後から症状の程度・頻度は10段階で7~8に変化。
特に、舌骨周囲の緊張が気になるとのこと。頚部の緊張は依然あり、施術は前回同様。
第3回
症状の程度は10段階の5に変化。
施術は前回同様、硬結残存部位には浅刺し、旋捻を加える。
第4回
良い変化を患者さんは実感しているが、起床時や仕事後に水分をとると症状が強く出る。
硬結部位の数は減っている。右舌骨外方1cm、顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋に硬結が強固に残る。
第5回
仕事が多忙となり、休憩が取れない日は症状が強く出る。
これまでの施術では、少し停滞感があるため、舌骨につながる肩甲舌骨筋のことも考慮し、肩甲骨の可動性を出す手技を施術に加える。
第6回
「えずき」が1度しかなかった。背部も楽になった。施術間隔を10日に1回にする。
第7回
「えずき」は1度もない。起床時の症状もほぼない。飲み物を勢いよく飲むときに怖さはまだ少しある。喉のつまり感も含め、症状は10段階で1~2程度に落ち着く。
過労・寝不足などに注意し、頚部・背部のストレッチを継続していただく。
その上で、気になるときは来院していただき、患者さん自身に施術間隔を任せることにした。
【今後について】
ここからは「長期間良い状態が続くこと」が再発の不安を軽減し、自信につながります。
施術者が「もう大丈夫ですよ」と言って、安心できる人もおられますが、
患者さん自身が「大丈夫」と実感できるまでサポートが必要な場合もあります。
徐々に施術間隔を伸ばしていき、症状悪化を防ぐ要因・環境を何度も確認していきます。
【振り返り】
今回の症状は「咽喉頭異常感症」だったのかどうか。
症状からはそのように感じられます。
一方で、頸部の筋緊張・硬結が著明で、心因的な要素は少ないようにも感じました。
しかしながら、患者さんの表現は多様です。相当つらくてもその方の価値観から不安を
前面に出さない方、出すのが苦手な方、出せない方がおられます。
初診でその全てを理解することは困難です。
施術による「良好な経過」、患者-施術者間の「信頼関係の構築」、「時間」など様々な
要素が患者さんの理解につながります。
症状の改善が安心につながったのか、何らかの安心できる要素があり
症状改善につながったのかは明確ではありません。
不安が少しでも解消し、症状改善につながることが何よりです。