「手の甲の痛み」の鍼灸症例

「手の甲の痛み」の鍼灸症例

「手の甲の痛み」、鍼灸院ではあまり多くない訴えです。
手は複雑な構造で、様々な筋肉が細かく配置されています。

今回は少し珍しい「手の甲の痛み」についての鍼灸症例をご案内します。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております。

鍼灸施術症例

患者
40代、女性

主訴 
右手の甲の痛み(右示指と中指の間)
急に痛みが出始め、仕事中に手が止まってしまうほど。
原因がわからず心配。

現病歴
特に思い当たるきっかけがなく、数日前から、急に右の手の甲、示指と中指の間が痛くなった。瞬間的な痛みだが、刺すような鋭い痛みで、日毎に回数が増えている。
指を曲げたり、伸ばしたり、グーパーなどの握ったり、開いたりなど特定の手の動きで痛みが再現しない。痛みが出る条件がわからず、心配。

首・肩・肘・手首の動きで痛みが誘発されることもない。
しびれなし、力が入りずらいことはない。

突然痛くなるため、悪くなる要因や良くなる要因がわからず、
自分で対策できないことも困っている。

仕事は事務職で、特定の指に負担がかかる作業もなく、
趣味で手や指を特段使いすぎる習慣もない。

過去も含めて、右手に外傷歴はない。
今は痛み止め、湿布などは使用していない。

健康状態
飲酒、喫煙歴なし。食欲(正)、睡眠(正)、発熱なし
最近の健康診断でも異常は見られなかった。

身体診察
首(後頚部、斜角筋部)、上腕、前腕を押圧することで痛みが再現されない。
総指伸筋なども圧痛なし。
第2・第3中手骨を上下に動かしても痛みはない。掌側骨間筋の圧痛なし

右示指と中指の間を押圧すると痛みは再現しないが、「鍉鍼」(ていしん:先端が鋭利でない、皮膚に接触させる鍼)で細かく疼痛部を確認するとゴマ粒ほどの硬結、圧痛が確認された。

また示指の外転位で同部位を触診すると圧痛が著明に確認された。
筋力低下や筋委縮はみられない。

鑑別疾患
・頚椎症性神経根症:首の痛みもなく、首の動きで誘発されない
・末梢神経絞扼障害
  橈骨神経障害:肘外側の痛み無し、橈骨神経の走行での圧痛、手背への放散痛なし
  尺骨神経損傷・肘部管などの尺骨神経の走行上での圧痛、手背への放散痛なし

 

施術方針

現病歴と身体診察から、首や上腕、前腕が原因である可能性は低く、
自覚痛のある「背側骨間筋」が原因と考えた。

また、トリガーポイントの考えからも、前腕痛があれば、総指伸筋、斜角筋、肩甲下筋、上後鋸筋、尺側手根伸筋などが施術対象として考えられるが、今回は手背のみの痛みで、関連痛も再現されない。

背側骨間筋にいきなり刺鍼するのは刺激が強いと考え、背側骨間筋が総指伸筋腱と合流していることからもまずは前腕部、総指伸筋を中心に電気ていしん、手技などでゆるめ、その後、疼痛の変化を確認することにした。

施術とその経過

第1回
電気ていしんにて、前腕部の総指伸筋群を中心にゆるめ、背側骨間筋にもアプローチする。緊張の緩和は確認できたが、疼痛部の圧痛に変化はない。
セイリン社 JSPタイプにて40㎜-20号(寸3-3番)を使用し、単刺。その場で圧痛が軽減された。

第2回(3日目)
痛みの頻度・程度ともに、ほぼ半分に軽減。背側骨間筋に同様に単刺し、示指外転位で単刺、MP関節屈曲位で単刺を行う。翌日、痛みなし。その後も痛みが再発してないことを確認し、施術を終了。

施術を終えて

手の甲の痛みは、あまり日常的ではありません。今回は、首や腕には原因はなく、患者さんが訴える手の甲、局所に原因がありました。

鍼で著明な変化がでたのは、背側骨間筋が深部にあること、中手骨の側面に硬結がしっかりとあり、そこにアプローチできたからだと思っています。

筋肉が骨につく、いわゆる付着部には鍼が良く効く気がします。
痛いところに鍼をし、変化がでるというシンプルな結果でしたが、この部位に痛みがでる理由には、外傷でもない限り、普段の手の使い方や過度使用が背景にあると考えられます。

患者さんは思い当たる原因がないとのことですが、再発防止のためにも、
日常での腕の使用について確認していく必要がありそうです。

あとから「そういえば、、、」と患者さんが思い出すことは、結構多いものです。

「背側骨間筋」について

背側骨格筋はMP関節の屈曲、PIP関節、DIP関節の伸展、手指の外転の働きをします。
いわゆるパーにする動き中手骨の側面にベターっと付着しています。

上図の示指から小指までの動きとなります。

総指伸筋腱に合流して、末節骨に付着しています。
指でタブレットや、スマホなどの画面をなぞるような動き、またピアノやボルダリングなど、指をよく使う方に負荷がかかる筋肉です。

他には虫様筋、掌側骨間筋も屈曲・伸展の動きについては背側骨間筋と同様です。
背側骨間筋は掌側骨間筋、虫様筋、総指伸筋、示指伸筋と筋連結しているため、施術部位の候補となります。


参考文献

  • 「骨格筋の筋と触察法」(大峰閣)
  • 「筋骨格系のキネシオロジー」(医歯薬出版)
  • 「手の運動を学ぶ」(三輪書店)
  • 「セラピストのための機能解剖学的ストレッチング」(メジカルビュー)
  • 「鍼灸・柔道整復師のための局所解剖カラーアトラス」(南江堂)
  • 「運動療法のための機能解剖学的触診技術」(メジカルビュー)
  • 「症状から治療点がすぐわかるトリガーポイントマップ」(医道の日本社)
  • 「プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論・運動器系」(医学書院)

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