関節リウマチ-(鍼灸症例)

関節リウマチ-(鍼灸症例)

関節リウマチは複数の関節に炎症が起きる、全身性の疾患です。
当院では関節リウマチにはお灸メインで対応しています。
今回は関節リウマチについての一症例を紹介いたします。

この症例は患者さんが特定されないよう内容を一部変更しています。

患者
55歳、女性

主訴
足背の痛み
遠方に住んでいる母親の介護や、仕事で全身が疲れている。
更年期の症状もありつらい。足背が痛いのでみてほしい。

現病歴
10ヶ月前に首の痛み、肩こり、目の疲れ、右膝の痛みを訴え当院を受診。
他院ではストレートネックといわれ、通うものの改善しなかった。
また、不眠、動悸、肌荒れなどの更年期症状もつらい。
平日は事務仕事をパソコンを使って9時から17時まで行い、同時に責任ある立場でもある。週末は遠方に住んでいる母親の介護に通っている。

3ヶ月前に右手が腱鞘炎になり、肩まで痛くなる。パソコンの使いすぎだと思っている。
今回、今までの症状に加えて足背の第3,4趾、右第2,3,4,5趾の間に痛みが出てきた。歩くと痛い、靴を脱いだり、休んでいると楽になる。
窮屈な靴は履きたくない。腰から足につながるような痛み、しびれはない。
膝は痛いが、下腿に痛みは感じない。夜間の痛み、原因不明の体重減少はない。
外傷は無い。

一般健康状態
食欲あり。不眠(寝付き悪い、中途覚醒無し、早朝覚醒なし)、発熱無し。排尿は問題ない。便秘傾向。お酒は嗜まない。喫煙歴なし。

既往歴
交通事故で頚部を痛める(時期不明)

家族歴
姉が膠原病

身体診察
身長165㎝、体重65kg、BMI 23.8  
第3,4趾、右第2,3,4,5趾間を足背、足裏から触診し圧痛を認める。発赤、腫脹、熱感、冷感、皮疹なし。外反母趾(両側)が認められる。母趾以外の変形は認められない。

診断モートン病
根拠
①疼痛部が足趾間に限定される
②歩行で悪化。休息や靴を脱ぐと楽になる。
③疼痛部で圧痛が認められる。

鑑別疾患
・腰部脊柱管狭窄症:神経根症状が認められない。
(殿部、大腿、下腿に症状が認められない)


施術とその経過
他院では、患者さんが訴える多くの症状は精神的なものが原因であると伝えられた。確かに、睡眠障害、介護、仕事の状況などの要因があるものの、食欲があり、仕事にも休まず行っているため、全ての原因を精神的なものとは考えにくい。足趾の症状から病歴を取り直し、モートン病と判断をし、施術を進めた。

第1回
モートン病として、第3,4趾、右第2,3,4,5趾間に足背から1寸3分のステンレス鍼で直刺1㎝、置鍼15分を行った。その後、同部位に糸状灸を各3壮行った。施術後の立位、歩行で痛みは再現されない。窮屈な靴ははかない。歩きすぎないよう伝える。

第2回
以前ほどではないが、まだ痛みは残る。前回の施術に加え、足裏から糸状灸3壮を加える。
その他の症状の病歴を取り直す。うがいによる後頚部、肩上部の痛み、シャツの着脱による右肩前面の痛み、右上肢の挙上が肩の高さまでしか痛くてできない。
以上から頚椎症性神経根症、肩関節疾患を疑い、施術を加える。頚部には就寝時にタオルをまくように伝え、肩はサポーターをするようアドバイスした。

第5回
兄弟が介護を手伝うようになり、少し負担が減った。
肩関節には肩関節前面の阿是穴に切皮置鍼、直接灸3壮。
施術後は上肢の挙上は180°可能となる。足の痛みは施術後1.2週間は持つ。足の施術は前回同様

第6回
寒くなってくると左肘や膝が痛くなってくる。
肘はパソコンで痛めたと思っている。膝は膝関節前面が痛む。階段の降りが上りよりも痛む。変形、炎症所見は認められない。
どの症状も施術後は痛みが劇的に改善する。全体的に鍼も浅く、強い刺激はしてないが効果が出ている。

第12回
膝の痛みのため、整形外科を受診したところ、血液検査の結果、関節リウマチと診断される。お灸によって楽になるので施術は継続することとなった。施術はお灸をメインに切り替え、関節を中心に施術を行った。

第14回
病院での薬があい、以前より痛みが軽減している。将来は薬なしですごせるようになりたい。お灸での施術後は関節の痛みはやはり劇的に軽減する。その後は、痛みが強くなった時にお灸メインの施術を行い、普段は服薬と自宅灸でコントロールしている。


まとめ
患者さんの多くの訴えを精査せずに原因を精神的なものだけに求めるのは避けなくてはならない。一方で、今回の症例では病歴からモートン病と仮説を立て、主訴である足背の痛みが施術によって改善されたが、その後の判断にミスがあった。

足背以外の他の関節に対して、局所の症状をそれぞれの病歴から診断してしまい、一元的に全身疾患として判断しなかった点に問題があった。
関節リウマチについては、末端から症状が始まり、左右対称に小さい関節から大きい関節に症状が広がることが頭にあった。

今回は手指の症状の訴えがなく、肩関節、膝関節の症状が左右対称でなかったため、関節リウマチを除外して考えていた。しかしながら、左右対称ではないものの、多関節の痛み、年齢、性別、家族歴などから関節リウマチを示唆する病歴は確かにあった。

一般的に、関節リウマチに対する浅い鍼やお灸は患者さんが実感できるくらい直後効果が高いことが多い。

今回は病歴だけでなく、施術直後の変化からも、関節リウマチを疑うべき反省症例であった。

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