誤嚥予防と鍼灸

誤嚥予防と鍼灸

「誤嚥予防」を目的にしています。

当院は外来中心のため、入院されている
「嚥下障害」の患者さんを診ることはありません。

当院では「誤嚥予防」を目的にしています。

「腰痛」や「神経痛」などで来院される高齢の患者さんには
何気ない会話の中で、積極的に嚥下機能の
低下がないかを確認しています。

「嚥下機能の低下」が見られる病歴・所見がある場合は
まずは医師への相談をすすめています。

当院では電気ていしん・鍼灸・運動療法・ストレッチなどによる施術を行っています。

「唾液や水の飲み込みやすさ」などを施術前後で確認し、
嚥下の大切さをお伝えしています。

誤嚥予防として、ご自宅でできる嚥下体操や
嚥下の問題となる姿勢へのアプローチをしています。

「嚥下」は本当に奥深いです。


「嚥下」のポイントとなる「舌骨」を中心に、
「姿勢」による影響などから「嚥下」の大切さを
知っていただきたいと思います。

目次


・「嚥下」について
・嚥下機能低下による問題
・嚥下機能低下をうかがわせる兆候
・誤嚥を起こす原因と疾患


・嚥下を知る上で大事な「舌骨」
・「舌骨」って?
・「舌骨」のあるべき位置
・「舌骨」に付着する筋肉
・「舌骨」が筋肉を介してつながる骨
・「舌骨」と姿勢の関係


・嚥下の仕組みと「舌骨」の役割
・なぜ嚥下時は口が閉じているか
・脳血管障害と嚥下障害、舌骨との関係


・嚥下を見るのに当院で確認していること
・嚥下に対する当院でのアプローチ
・セルフケア
・「嚥下障害」についての鍼灸の文献
・まとめ

「嚥下」について

「嚥下」とは簡単にいうと「飲み込むこと」です。

食事中にむせたり、飲み込みにくいなどの頻度が
増えてきたときは嚥下機能低下の可能性があります。

高齢者に多く、50歳を超えると他の筋肉と同じく、
飲み込む筋肉も衰えてきます。


筋力があるときは、むせることで吐き出すこともできますが、
その吐き出す力が弱ってくると、誤嚥をおこしやすくなります。

そこから「誤嚥性肺炎」につながることもあります。

嚥下障害は加齢やいくつかの疾患に伴います。

食事という日常生活に大きくかかわることなので
予防や早期発見につながればと考えています。

嚥下機能低下による問題

嚥下機能低下による問題はいくつかあります。


・誤嚥性肺炎

・栄養障害(食べる楽しみ低下・食欲減退・飲みこみやすいものへの偏り)

・脱水(飲み物の量が減る)

・窒息

嚥下機能低下をうかがわせる兆候

・食事中にむせる咳が出る・頻度が増える

・のどがつかえる

・食後に声がかれる

・口に食べ物が残る

ご自身やご家族の方でこういった兆候がないかチェックしてみてください。

誤嚥を起こす原因と疾患

誤嚥をひきおこす、最大の疾患は「脳血管障害」です。
いくつかの疾患は「誤嚥性肺炎」につながることがあります。
下記のようなものがあります。

<物理的な要因で誤嚥につながるもの>

舌炎、口内炎、歯周病、咽頭炎、扁桃炎、食道炎



<疾患があり嚥下機能が衰え誤嚥につながるもの>

脳卒中、脳腫瘍、パーキンソン、筋委縮症



<心理的要因で誤嚥につながるもの>

神経性食欲不振、神経症、心身症



<筋力低下によるもの>

高齢者の加齢による嚥下機能低下

嚥下を知るうえで大事な「舌骨」

「舌骨」、あまり聞きなれない骨だと思います。

この「舌骨」が嚥下において非常に重要な役割を果たします。

なぜ舌骨が大切かは嚥下の仕組みに関係があります。

舌骨の動き、「挙上と下制」は嚥下に関連します。

嚥下時に舌骨は挙上されます。

少し専門的で長いですが、「舌骨」について知っていただくと、
その重要性をご理解いただけると思います。

「舌骨」って?

「舌骨」は関節を形成せず、宙ぶらりんの状態です。

そのため付着する筋肉と重力の影響を強く受ける珍しい骨です。

様々な方向から引っ張られるため、安定した「位置」に「舌骨」があることが
嚥下をスムーズに行う上でのポイントとなります。

どのような筋肉があるかは後述いたします。

「舌骨」のあるべき位置


加齢による姿勢変化や、脳血管障害などにより舌骨の位置が
本来より「上方」にいってしまうことが多くなります。

その理由は舌骨に付着する多数の「筋肉」が理由のひとつとなります。

「舌骨」に付着する筋肉

これから紹介するのはすべて「舌骨」に付着する筋肉です。


「これだけ多くの筋肉が「舌骨」とつながっており、
その筋肉の状態で位置が変わるということです。

舌骨上筋群(前):下顎骨の下制・舌骨の挙上

筋肉起始停止神経
顎舌骨筋 下顎骨顎舌骨筋線 舌骨体 三叉神経
顎二腹筋前腹 下顎骨二腹筋窩 舌骨中間腱 三叉神経
オトガイ舌骨筋 下顎結合 舌骨 舌下神経

舌骨上筋群(後):舌骨の挙上

筋肉起始停止神経
茎突舌骨筋 側頭骨茎状突起 舌骨体底 顔面神経
顎二腹筋後腹 側頭骨乳様突起 舌骨中間腱 顔面神経

舌骨下筋群:舌骨の下制

筋肉起始停止神経
胸骨舌骨筋 胸骨柄・胸鎖関節・第一肋軟骨後面 舌骨体部下縁 頚神経ワナ
肩甲舌骨筋 肩甲骨上縁・ 上肩甲骨横靭帯 舌骨体下縁部外側 頚神経ワナ
甲状舌骨筋 甲状軟骨斜線 舌骨大角の後面 頚神経ワナ
胸骨甲状筋 胸骨柄、第一・第二肋軟骨後面 甲状軟骨 頚神経ワナ

舌骨上筋群(前・後)が主動作筋
舌骨下筋が拮抗筋

舌骨上筋群の挙上・ 下制 は同時に生じません。

以上は舌骨に付着する筋肉のみで、
嚥下にかかわる筋肉はまだまだ複数あります。

本当に複雑な仕組みです。

「舌骨」が筋肉を介してつながる骨

・下顎骨
・側頭骨
・胸骨
・肩甲骨
・甲状軟骨


以上の骨に、先ほど紹介した筋肉がつながっています。


したがって、肩甲骨の位置や、頭の位置が舌骨につながる
筋肉の緊張度を変えます。


つまり、姿勢によって舌骨の位置が変わってくることになります。

「舌骨」と姿勢の関係


高齢になると、一般的にいわゆる「猫背」になり、
頭の位置が前方になります。

背中が曲がり(胸椎屈曲)

腕が前方内側に位置(肩甲骨前方偏移)

首は前に垂れますが、前を見るために目線は上がります
(下位頸椎屈曲・上位頸椎伸展)

この姿勢の変化により、

前方の舌骨上筋群は伸張
後方の舌骨上筋群は短縮
舌骨下筋群は伸張

姿勢が変わることで舌骨の位置が変わります。

特に舌骨の位置が本来の位置より上方に位置しやすい傾向になります。


複雑ですが、このように猫背の姿勢が
舌骨の位置を変えます。


そのほかには、猫背によって
後頭下筋は短縮
代償で胸鎖乳突筋の過緊張などがおこりえます。

小まとめ

嚥下と舌骨の関係は奥深く、
少しまとめますと以下のようになります。

・舌骨は浮いた状態の骨のため、様々な筋肉の影響を受け、
 本来の位置を維持できないことがある。

・舌骨につながる筋肉が後頭部や肩甲骨にもつながり、
 姿勢によって舌骨の位置が変わり、
 本来の機能を発揮できないことがある。

・頭、首、肩、背中、胸周囲の緊張が嚥下機能に影響する。

以上から舌骨周囲だけでなく、舌骨が適正な位置を保つための
姿勢へのアプローチが必要となります。

嚥下の仕組みと「舌骨」の役割

食べ物を口に入れて飲み込む「嚥下」には段階があります。

捕食、口腔準備期、口腔期・咽頭期・食道期の5つにわかれます。

①捕食

②口腔準備期:咀嚼して食物を嚥下しやすい形状にする時期
口輪筋、頬筋→口を閉じる 食べ物こぼさないように
側頭筋、咬筋、内側翼突筋、外側翼突筋→咀嚼 下顎の動き

③口腔期:食物を後方に送り込み、嚥下反射が起こるまでの時期
内舌筋、茎突舌骨筋、オトガイ舌骨筋

④咽頭期:食物が咽頭に入り、嚥下反射が起こる時期 
オトガイ舌骨筋 甲状舌骨筋、甲状披裂筋、輪状咽頭筋

⑤食道期:食物が食道から胃に送られる

そのなかでも高齢者は「咽頭期」の喉頭挙上が困難だったり、
遅延します。

「咽頭期」に嚥下反射がおき、舌骨の可動がおきます。

この「咽頭期」が非常に重要です。

なぜ嚥下時は口が閉じているか

嚥下時、舌骨は挙上します。

下顎骨は咀嚼筋により口が閉じて固定

舌骨上筋群の下顎骨下制作用は働かない

よって、嚥下時は口が閉じている。
口が開いた状態では嚥下がしにくい。


ちなみに首の姿勢によって開口のしやすさも変化します。

頚部前屈では開口しにくい

胸鎖乳突筋・斜角筋筋緊張亢進・皮膚の短縮
頚部後屈では閉口しにくい

脳血管障害と嚥下障害、舌骨との関係

脳血管障害では筋緊張のバランスが変わることから、
舌骨の位置が変わることがあります。

さらに、体幹機能の低下の影響により
嚥下に問題が生じることがあります。


脳血管障害

麻痺側の低緊張による肩甲骨が下がる

肩甲骨が下がることで肩甲舌骨下筋も下方にひっぱられる

舌骨が麻痺側にのばされるため、非麻痺側への動きが鈍くなる。


一方で非麻痺側の過緊張で肩甲骨が挙上

舌骨下筋が短縮位になる

舌骨が非麻痺側に引っ張られ、麻痺側に動きにくくなる



さらに、頭部や頚部が左右回旋・側屈することで
舌骨の位置が変わる可能性が考えられます。

また就寝時など臥位(背臥位)では
舌骨が重力と姿勢で背中側に落ちるため、

舌骨下筋群(胸骨舌骨筋・肩甲舌骨筋)と
舌骨上筋群(後方 茎突舌骨筋・顎二腹筋後腹)は短縮位

舌骨上筋群(前方 顎舌骨筋・顎二腹筋前腹・オトガイ舌骨筋)は伸張位

姿勢では腰が反り(腰椎過前彎)、胸が上がり胸椎が挙上し、
頸部のアライメントに影響します。
頚部は反り気味(下位頸椎は屈曲、上位頸椎は伸展)

背臥位では体幹が左右に回旋することで舌骨への
影響が予想されます。

就寝時の誤嚥につながらないように、評価することが
大切です。

嚥下を見るのに当院で確認していること

飲み込みにくさ
食事中・食後のむせ・咳
声がれ

舌骨の位置(上方・下方・左右・回旋)
舌骨・甲状軟骨・輪状軟骨の位置関係
舌骨周囲の筋緊張・左右差
舌骨の動き
舌骨の評価は座位・背臥位両方で

顎下のむくみ・痛み
顎の動き
唾液の嚥下回数・連続しての嚥下の可否
飲み込みにくさの左右差

背臥位での頭部挙上の可否
頚部の前面・後面・側面の筋緊張の有無・左右差

後頭下筋群の筋緊張(舌骨下筋群の拮抗筋)
頚椎の可動域
肩甲骨の位置の左右差
胸骨・鎖骨周囲の緊張の有無・左右差

全体の姿勢(頭部前方姿勢など)

既往疾患の有無

嚥下に対する当院でのアプローチ

鍼灸院で「嚥下機能低下」に対してアプローチするのは
「嚥下」に重要な「舌骨」に関わる筋肉です。

さらに頚部、胸郭、肩甲帯へとつながり、体幹などへ
視点を広げ「嚥下しやすい姿勢」につなげることです。

施術対象は「舌骨」に直接・関節的に影響のあるもの
となります。

以下のポイントは特に重視しています。

鍼・電気ていしん・電気温灸器・手技と部位に応じて使い分けます。

・舌骨上筋群
・頚部全て(頭板状筋・頚板状筋)
・後頭下筋群
・下顎骨、側頭骨、胸骨の舌骨筋群の付着部
 特に側頭骨乳様突起
・肩甲挙筋
・皮膚の硬さ
・外頚静脈、鎖骨下静脈

頭部前方姿勢にならない頚部や体幹トレーニングを行い、
嚥下体操、歯磨きなどの確認をしています。

嚥下体操についてはいろいろありますので、
お調べいただくとよりわかりやすいと思います。

日常生活で気を付けること

・ゆっくりたべる
・口の中にたくさん食べ物を入れない
・小さく切る
・正しい姿勢で食べる

「嚥下障害」についての鍼灸の文献

「嚥下」に関する鍼灸のいくつか日本の文献を調べてみると、
以下のような施術の傾向がみられました。

・足三里・太谿への円皮鍼・鍼通電・置鍼

・頚部前面と後面の鍼通電

・皮膚・筋短縮部位をストレッチしながら集毛鍼による接触鍼

・頚部・側頭部・顔面部を通る経絡の末梢穴の取穴

まとめ

「嚥下」の仕組みは本当に複雑で、さらに学習を進める必要があります。

「舌骨」を中心に頚部、肩甲帯、全体の姿勢を丁寧にみながら、
「誤嚥予防」につなげ、食生活とQOLの改善につながればと考えています。

参考文献

・「嚥下障害、診られますか?」:谷口洋/編 羊土社

・「話すこと・飲み込むことへの鍼治療によるアプローチと経穴を応用した
 リハビリテーション」:谷万喜子 
 関西理学療法 2008年8巻

・「 嚥下障害に対する鍼治療 」: 菊池章子 金子聡一郎 高山真
  The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine   2018 年 55 巻 12 号

・「 高齢者の嚥下機能に対する鍼治療の効果 」:知久すみれ
  全日本鍼灸学会雑誌  2016 年 66 巻 4 号

・ 「 脳卒中後に嚥下障害を呈した2症例に対する体幹および
  頚部筋・喉頭周囲筋への運動療法の経験」荒川武士 
  理学療法学 2017年第44巻第5号



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