【文献】うつ病と鍼灸

【文献】うつ病と鍼灸

先日、NHK「東洋医学ホントのチカラ」という番組内で、
「うつ病と鍼灸」について取り上げられていました。

番組内ではイギリスの ヒュー・マクファーソン 教授による報告が紹介されていました。

「うつ病と鍼灸」について、同教授による文献を少し探してみました。



*誤訳の可能性もありますので、原文での確認をお願いいたします。

Acupuncture for Depression: A Systematic Review and Meta-Analysis.


(うつ病の鍼治療-システマティックレビューとメタ分析)

PMID: 31370200

背景

うつ病は、一般的に抗うつ薬、心理的介入で治療されます。

うつ病の患者は、補完代替療法としての鍼治療の対象となっています。

システマティックレビューとメタ分析によって、
大うつ病性障害における鍼治療の有効性が検討されました。


方法

1980年から2018年11月にかけてイギリス、中国、韓国のデータベースから
マニュアル鍼、電気鍼またはレーザー鍼を使用した臨床試験を選んでいます。

結果

2268人の参加者を含む29の研究が適格であり、メタ分析に組み込まれていました。
中国で22件、中国以外で7件の試験が実施されました。

鍼治療は、通常のケアと比較してうつ病の重症度の臨床的に有意な低下を示しました。
(g= 0.41、95%CI 0.18~0.63)

偽鍼との比較(g = 0.55、95%CI 0.31~0.79)

抗うつ薬の補助として(g = 0.84、95%CI 0.61〜1.07)

鍼治療の回数の増加とうつ病の重症度の減少(p = 0.015)の間に
有意な相関関係が見つかりました。


制限事項

試験の大部分は、盲検化に対してバイアスのリスクが高かった。

中国では高頻度の治療回数のため、中国の集団の所見を他の集団に
適用できるかどうかは不明です。

大多数の試験では、試験後の追跡調査は報告されておらず、
安全性の報告は不十分でした。


結論

鍼治療は、通常のケアと標準的な抗うつ薬の適切な補助療法となります。

読んでみて

指摘されているバイアスの問題や、治療頻度が多すぎると患者さんの
負担が増すことも考えられます。

Acupuncture, counselling or usual care for depression and comorbid pain: secondary analysis of a randomised controlled trial.

(痛みを伴ううつ病に対する鍼治療、カウンセリング、通常のケア:ランダム化比較試験の二次分析)

PMID: 24793257

【背景】

痛みを伴ううつ病は、さまざまな治療に対する反応不良と関連しています。

この二次分析の目的は、痛みを訴える患者が、鍼治療、カウンセリング、
または通常のケアに反応して徐々に「うつ」と「痛み」が異なるものかどうかを
判断することでした。

【方法】

ランダム化比較試験によって、 755人の患者を 、通常のケア(151)と比較し、
鍼治療(302)、カウンセリング(302)で、うつ病および痛みの
自己申告を一連の回帰モデルと共分散分析を使用して分析します。

評価尺度はPatient Health Questionnaire (PHQ)-9(うつ病)、SF36(身体痛)、
EQ-5Dを使い、治療開始前、3、6、9、12ヵ月で計測した。

【結果】

治療開始前、755人の患者がEQ-5Dの痛みのカテゴリーを報告しました。
384人(50.9%)は中等度から極度の痛みを報告した。

治療開始前のうつ病を制御する線形回帰モデルは、治療開始前の痛みの存在が、
3か月の平均差= -1.16(95%CI 0.12〜2.2)でのうつ病の予後不良と
関連することを示しました。

治療開始前で中程度から極度の痛みのある参加者は、鍼治療を受けた場合、
3ヶ月でより良くなりました

Patient Health Questionnaire (PHQ)-9の平均減少率= 6.0、95%CI 5.0~7.1

SF-36(身体痛)の平均減少率= 11.2、95%CI 7.1〜15.2


カウンセリング群の平均減少率 =4.3、95%CI 3.3~5.4; 7.6、95%CI 3.6~11.6

通常のケア群の平均減少率=2.7、95%CI 1.50~4.0:7.2、95%CI 2.3~12.1


痛みのない比較群においては、治療手段には顕著な違いは見られませんでした。

【結論】

治療前にうつ病と痛みのある患者は、うつ病で痛みのない患者よりも
3ヶ月以上の治療で回復が少なかった。

うつ病と痛みの両方の減少は鍼治療群で最も顕著であり、
カウンセリング群、そして通常のケアグループ群がそれに続きました。

読んでみて】

うつ症状に痛みが伴いほうが、回復がスムーズである可能性がある。
またうつ症状と痛みの両方に鍼治療の可能性があることが示唆されている。

Patient Health Questionnaire (PHQ)-9:うつ病の評価尺度

SF-36、EQ-5D:健康関連の尺度

Acupuncture and counselling for depression in primary care: a randomised controlled trial.

(プライマリケアでのうつ病に対する鍼治療とカウンセリング ランダム化比較試験)

PMID: 24086114 

【背景】

うつ病は重要な死亡原因です。
多くの患者は、非薬物療法への関心を一般開業医に伝えています。

プライマリケアでのうつ病に対する鍼治療とカウンセリングの
システマティックレビューでは限定的なエビデンスがあります。

この研究の目的は、プライマリケアでのうつ病患者の鍼治療と通常のケア
およびカウンセリングと通常のケアを比較することでした。

【方法と所見】

ランダム化比較試験では、うつ病( Beck Depression Inventory BDI-II score
ベックうつ病評価スコア20以上)の患者755人が、イングランド北部の
27のプライマリケア診療所から募集されました。

患者は、鍼治療(302)、カウンセリング(302)、および通常のケアのみ(151)に
対して2.2.1の比率を使用して、3つの方法のいずれかに無作為に割り付けられました。

主な結果は、3ヵ月後の Patient Health Questionnaire (PHQ-9)スコアの差であり、
12ヵ月後の追跡調査で二次分析が行われました。ITT解析によって行われました。


PHQ-9データは、3か月で614人の患者、12か月で572人の患者で利用可能でした。
患者は、鍼治療平均10回と9回のカウンセリングに参加しました。

通常のケアと比較して、PHQ-9うつ病スコアに統計的に有意な減少がありました。

3か月後
鍼治療(-2.46、95%CI -3.72から-1.21)
カウンセリング(-1.73、95%CI -3.00〜-0.45)

12か月後
鍼治療(-1.55、95%CI -2.41〜-0.70)
カウンセリング(-1.50、95%CI -2.43〜- 0.58)。

鍼治療とカウンセリングの違いは有意ではありませんでした。

この試験は特定の効果と非特定の効果を区別するようには
設計されていません。

重篤な治療関連の有害事象は報告されていません。

【結論】

うつ病患者に対する鍼とカウンセリングの
ランダム化比較試験では、プライマリケアで一般開業医に相談した後、
両方への介入は通常のケア単独と比較して、3ヶ月でうつ病の
有意な減少と関連していた。

Beck Depression Inventory BDI-II score:うつ病評価尺度

【最後に】

NHKの番組や、文献などから鍼治療がうつ病に貢献できる可能性が示唆されています。
一方、現時点で鍼治療は決して万能ではなく、まだ標準治療ではありません。

鍼灸院を受診した「うつ病」の可能性がある患者さんには
第一に専門医を受診していただくこと、その上で「痛み」などの身体症状に対して
鍼治療が補助的にできることを考慮すること。

それらの適切な対応が患者さんの回復の一助になればと当院では考えています。





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