肘の痛み(外側上顆炎・バックハンドテニス肘)の鍼灸症例

肘の痛み(外側上顆炎・バックハンドテニス肘)の鍼灸症例

「上腕骨外側上顆炎」いわゆる「バックハンドテニス肘」とよばれる
肘の外側が痛む鍼灸症例をご案内します。

患者さんの病歴と、新しい知見が良い経過につながった症例です。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております 

【患者】
40代 女性

【受診動機】
肘と親指の付け根が痛む。仕事による負担が原因と思うが、痛みが強すぎて仕事にならず当院を受診。これまで当院を受診した症状の中でも、痛みの程度が強い。

【主訴】
左右母指球・母指腱鞘・両肘外側の痛み
肘は右が強く痛む。腕全体がむくむ。

【病歴】
仕事で日々、30㎝程の長さの棒を振り続ける作業が続いている。
母指と示指でその棒をしっかりと握ることも多く、負担の原因と考えている。
その結果、両肘と母指中心に強い痛みがある。

しびれや、握力低下などはない。
頸の動きによって、症状が誘発されない。

【所見】
前腕全体がむくみ、緊張も強い。
両肘外側、母指球、前腕の複数個所に硬結、圧痛多数。
middle finger extension test (+)
Thomsen test(+)
肘屈曲(-)  伸展(+)  回内(+) 回外(-)

【方針】
病歴、所見から仕事での過度使用による「外側上顆炎」がメインと考える。
肘、母指球の痛みがかなり強いことから、
初回は全身よりも局所を優先して、両肘から手にかけて集中的に施術を行う。
症状の緩和をみながら、頸部・肩部・背部などに施術範囲を広げていく。

【施術】
仰臥位にて左右肘・母指球を施術。
前腕伸筋群(短橈側手根伸筋・総指伸筋など)には筋緊張緩和目的に鍼通電を、
「むくみ」の解消目的に電気ていしんを使用。
その他硬結部位には単刺・雀琢

鍼はステンレス製、セイリン社JSP40㎜20号を用いた。

施術直後「右手三里」付近の痛みは残る。右母指腱鞘の痛みは消失。
KT  TAPEを肘外側から手関節背面にかけて終了。

なるべく肘を使わない方が良いが、日々の仕事での負荷は減らすことは現実的に難しい。

2回目(7日目)
前回の施術から数日は楽だったが、その後まだ痛みが続く。
施術は前回同様だが、回外筋に手技を加える。
(回外筋の表層は疎性結合組織の多い治療すべき対象の層)¹⁾
強い肘痛は症状改善の初動が鈍い印象がある。

3回目(21日目)
・肘外側の痛みと内側の張り感(右>左)
・頸部・肩甲骨周囲の痛み→鍼・手技による施術
・両手とも若干のむくみ→電気ていしん、残存部位に鍼による単刺

長時間の頻回の手作業は頚部・背部・肩甲骨周囲に過緊張を
誘発します。そのため、今回から頚部、肩甲骨周囲、背部にも施術を行った。

4回目(28日目)
左肘の痛みは大幅に軽減
・両母指球の痛み
・右肘の痛みは軽減するもまだ残存→鍼の種類を変更、鍼の手技も加える。
・肩甲骨周囲は痛みから違和感に変化

右肘は使用鍼を一部40㎜25号に変更。

5回目(35日目)
両手ともむくみが取れ、痛みも少なくなる。
・両母指球(右:痛み 左:凝り)
・右肘内側の痛み
・肩甲骨周囲

6回目(42日目)
痛みの程度が全体的に大幅に軽減。

7回目(52日目)
・両母指球の痛みは消失、弱い凝り感のみに。
・右肩甲骨が前側に入っている感覚があるとのこと。
→作業による前かがみによる不良姿勢と考え、
大胸筋・小胸筋などを伸長し、肩甲骨周囲の可動性を出す手技を加える。

・施術後、右肘伸展・回内、手関節背屈時に、肘筋と長撓側手根伸筋の骨付着部付近に
痛みが残る。同部位に刺鍼、直後に痛み消失。

これまで訴えられてない部位だったが、
参考文献²⁾から「短橈側手根伸筋・総指伸筋の緊張が改善しない場合、肘筋が原因の一部となっていることもある」との記載。

患者さんの訴えが非常に的を得ていると思われた。

【まとめ】

お仕事で棒を振る動作そのものが、肘関節の屈曲・伸展、前腕回内位、手関節背屈からの底屈と、まさに「外側上顆炎」の整形外科テストそのものの動きです。
職業から、具体的な動作を教えていただくことは、病態の把握につながります。

そして何と言っても、医療面接による詳細な病歴確認が重要となります。

「外側上顆炎」は鍼灸院における日常病です。
肘痛への鍼灸施術は対象の筋腹よりも、骨の付着部への刺鍼がより効果的な印象があります。
肘への負担となる動作を避け、休むことができると回復のスピードは速まります。
(多くの場合、それが難しいのが現実です)

今回の症例に使用した参考文献¹⁾は2023年2月に出版され、「回外筋」についての記載は
私にとって新しい情報でした。新しい知見、理学療法のテキストは鍼灸施術に有益で、
特に今回の参考文献の著者は出版するたびに新しい情報があり、大変有難く思います。

参考文献

1)関節機能障害を「治す!」理学療法のトリセツ 工藤慎太郎 医学書院
2)運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 工藤慎太郎 医学書院
3)運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略 工藤慎太郎 医学書院
4)運動療法のための機能解剖学的触診技術  林典雄  メジカルビュー

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