突然手が垂れ下がる:橈骨神経麻痺の鍼灸症例

突然手が垂れ下がる:橈骨神経麻痺の鍼灸症例

突然手首、指がだらんと垂れ下がる「橈骨神経麻痺」、あまり聞きなれないと思います。
一時的な麻痺の場合もあれば、回復に数か月要することや手術になることもある病気です。当院の一症例をご紹介します。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております 

主訴:右手が垂れ下がってしまう。
患者:50代、男性
現病歴
2日前の朝に右手がだらーんと垂れ下がり、手首をそらすことができなくなった。
なぜこのようになったのか、思い当たるところがない。
当日に近隣の整形外科にかかり、低周波治療を10分程度受けるが、あまり大きな変化はなかった。明日から海外出張のため、このままだとパソコンが使えなくて困る。
痛みはないが、手の感覚が少し鈍い気がする。

発症原因の確認
患者さんは思い当たるところがないと話されたが、症状から「橈骨神経麻痺」を疑いました。時折、首の痛みで来院され、お仕事や普段の生活のことを聞いていること、お付き合いで外での飲酒機会が多いことから、右手を圧迫するエビソードがないかを確認しました。

すると電車の端の席で手すりにもたれかかるように座って、寝てしまったとのことでした。まさに「橈骨神経」を圧迫する姿勢でした。(下画像参照)

「下垂手」であり、「手の感覚障害」があることから「橈骨神経高位麻痺」と考えました。

施術方針
 手首を反らすことができ、パソコンを使えるようにすること。

1回目
橈骨神経に沿って、触診。
橈骨神経溝近辺である経穴「手五里」を中心に、橈骨神経沿いに「曲池」「手三里」「偏歴」「合谷」に40mm-20号のステンレス鍼で旋捻・雀琢で得気後に15分置鍼。橈骨神経に鍼通電も行う。

施術後の確認
手の感覚の鈍さはまだ少しあるものの、明らかに手首が施術前より反らすことができていました。1週間後位に経過を確認したかったのですが、明日から海外出張ということなので、直後効果のみの確認となりました。

それから1年後に首の痛みを訴えて来院されたときに、手首の状態を確認したところ、
施術の翌日からはほとんど違和感なく、手首も反り、パソコンは使えたとのことでした。

橈骨神経の圧迫から早期に施術できたこと、神経の損傷の程度がそれほど重度ではなかったことが良い結果につながりました。回復の速さから軸索、神経の断裂がなく一時的な神経麻痺であった可能性が高いと思われます。

神経が外傷などで断裂している場合はこのように早期の回復はなく、手術になることがあります。
今回の患者さんは最初に病院を受診し、その翌日に当院にお見えになられています。
「橈骨神経麻痺」は程度(骨折、神経の断裂など)によっては鍼灸不適応ですので、まずは病院での精査を優先してください。

「橈骨神経麻痺」はあまり聞きなれないと思います。当院でもこれまで数例でした。

次に「橈骨神経麻痺」についての概要をご案内いたします。

橈骨神経麻痺の概要

定義と原因
橈骨神経麻痺は、橈骨神経が損傷または圧迫されることによって引き起こされる状態で、主に手首や指の動きに影響を及ぼします。この神経は、上腕骨の後面を通り、手首や指の伸展を制御しています。主な原因には以下が含まれます

外傷: 上腕骨骨幹部の骨折や、長時間の圧迫(例:サタデーナイト症候群)によるもの。
手術: 手術時の合併症として神経が損傷することもあります。

特に、上腕骨の中央部にある橈骨神経溝での損傷が多く見られます。(下図参照)
前述の症例の患者さんもこの部位を電車の座席で圧迫していたと推察されます。

症状
橈骨神経麻痺の症状は、以下のように多岐にわたります。
高位麻痺と低位麻痺で症状が異なります。

  • 手首を反らせない(背屈障害)
  • 指を伸ばせない(伸展障害)
  • 手首や指を伸ばすことができなくなる(下垂手・高位麻痺)
  • 手の甲や手首の感覚が低下または消失する(高位麻痺)
  • 腕の外側や前腕の後面の感覚が低下する
  • これにより、日常生活における物を持つ動作や手の使用が困難になります。

診断方法
問診と身体検査: 下垂手や感覚障害を確認します。
Tinelサイン: 神経が障害されている部分を軽く叩き、痛みが広がるかを確認します。
筋電図検査: 神経の伝導速度や筋肉の電気活動を測定します。
画像検査: X線やMRIを用いて、骨折や腫瘤などの原因を特定します。

治療法
橈骨神経麻痺の治療は、原因や症状の重症度に応じて異なります。

保存的治療
圧迫を取り除くことで自然回復を促す。ビタミンB12などの薬物療法など。
理学療法
可動域の回復や筋力強化を目的としたリハビリテーションが行われます。
特に、拘縮予防や良肢位保持が重要です。
外科的治療
神経が完全に断裂している場合や、保存的治療が効果を示さない場合には、神経剥離術や神経縫合術が検討されます。特に、腱移行術による機能再建が行われることがあります

予後
多くの橈骨神経麻痺は、適切な治療を受けることで自然に回復しますが、回復には数週間から数ヶ月かかることがあります。特に、軸索断裂・神経断裂など神経の損傷が重度である場合、完全な回復には長期間を要することがあります。
予後は、損傷の程度や治療のタイミングによって異なります。早期の治療が行われた場合、回復が期待できることが多いですが、重度の損傷や長期間の放置があった場合は、完全な回復が難しいこともあります。

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