肘の痛みに対する鍼灸院での診方

 

肘の痛みと鍼灸 

鍼灸院では、頚・肩・腰・膝などの関節の痛みを訴える患者さんは多いのですが、同じ関節である「肘の痛み」を訴える方は少ない印象があります。
「肘の痛み」の原因は様々ですが、スポーツでの接触、歩行中の転倒など、いわゆる「外傷」で当院を受診される方はほとんどおりません。
お仕事や日常生活の中で、頻回に肘に負担がかかった結果、肘を痛めて受診される方が中心です。

そしてそのほとんどの方が、整形外科または接骨院の受診を経て来院されています。そこで「テニス肘」や「ゴルフ肘」といった診断をされ、患者さん自身も痛みの原因をお分かりになっているケースによく出会います。

テニス以外でもおこるテニス肘

「テニス肘」(上腕骨外側上顆炎)は肘の外側から前腕にかけて痛みが出ます。テニスをする方に多いためこの名前がついています。
しかしながら、テニス肘の90%以上はテニス以外の原因によっておこるとも言われています。

家事などでの雑巾絞り、洗濯、ドアノブ、ペットボトルの蓋をあける、パソコンでのマウスの使用、配膳、育児、楽器の練習、手芸、縫い物、テニス以外のスポーツなど
 繰り返す動作による負担が肘を痛めます。
患者さんとの会話の中でこういった原因をよくうかがいます。日常生活に原因がありますね。

指の使い過ぎでも肘に負担はかかります

テニスのように肘を動かさなくても、マウス操作のような指を動かすちょっとした動作だけでも、繰り返すことで肘への負担があります。
指と肘の筋肉がつながっているためです。
ためしに指をピアノを弾くように動かしていただくと、肘の周りの筋肉が動くのを確認できると思います。
つまり肘を使っている意識がなくても、肘に負担がかかっています。


痛みを誘発する動作の把握

まずは、患者さんが考えておられる原因と、どういった状況・動作で痛みが生じるか、また痛みが増悪するかを「よく聴いて」確認します。
肘や前腕、指を安静にできればいいのですが、原因のほとんどが日常生活や仕事上必須の事ばかりです。
「安静が大切」である点はお伝えしつつも、鍼灸施術を行いながら、患者さんが家庭でできるセルフケアを検討していきます。

肘の痛みに対する鍼灸治療

肘への負担による痛みのため、肘周辺に鍼灸治療を行いますが、それだけでよくなられる患者さんは少ないと思います。
肘の動きに直接作用する筋肉はもちろん治療対象となります。また肘をスムーズに動かすため、そして肘の痛みをさけるため、間接的に肘に関係する筋肉も治療対象となります。

ドアノブ

 

連動する動き:肘と肘以外の両方をみます

肘と肘以外の両方を見るのには理由があります。
たとえばドアノブを回す動作は肘や手首だけでなく、肩、肩甲骨などが同時に連動して動きます。
ためしに、左手で右の肩甲骨に手を置き、右手でドアノブを回す動作をしていただくと、肩甲骨に動きを感じられます。
ドアノブを回す動作にも背中の肩甲骨の動きがかかわっています。
それぞれの関節には複数の筋肉がついているので、どこかに硬さや、張り、痛みなど動きを制限する要素があるとやはりスムーズな動きはできず、どこかに負担が蓄積され痛みや傷害がおきます。

単純な動作にみえても、複数の筋肉、関節が同時に動き、連動しています。それらの状態が良ければ、良い動きに。悪ければ、無理のある動きとなります。

肘関節は動く範囲が広い割に、もともと構造上の不安定さを抱えています。不安定さをを補いつつ、繰り返す動きによる負担を減らすためにも、肘の動きに連動する筋肉や関節などを丁寧に診て、触って、比較し(正常時との比較、左右の比較、前回治療時との比較など)状態を確認していきます。

 そうすると、テニス肘という肘の外側の痛みでも、外側だけでなく肘の内側や手首、指、腕、肩、肩甲骨、背部、頚部などをみる必要があります。

また患者さんが日常生活で痛みのある動作を再現していただくと、どの部分の動きが悪いかなどもわかります。
このような手順で得られた情報を患者さんと共有して、次回の治療までの自己ケアや予防法を確認します。
具体的には、肘に負担がかかってしまったときの炎症への対応、肘に直接・間接的に関連する部分のストレッチなどです。

治療院での鍼灸施術に加えて、こうした自己ケアを同時に進めています。これは肘の治療に限らず、患者さんを診るうえでの大切な視点のひとつだと思っています。

関連記事

PAGE TOP