脚の痛みがあちこち移動する腰痛-仙腸関節障害

 

左腰下肢痛-仙腸関節障害の鍼灸症例

仙腸関節障害は頻度の高い腰下肢痛で、経過がうまくいっていても日常生活で負担のかかる習慣があるとぶり返す場合があります。
生活習慣の中に、仙腸関節障害の原因の一端があったと思われる一例です。
こちらの症例は患者さん個人が特定されないよう一部変更を加えております。

仙腸関節障害-鍼灸施術症例

患者:70代、女性
主訴:腰下肢痛
現病歴 
2ヶ月前から左腰・大腿後側・下腿前後側につながった痛みがある。しびれや重さはない
。歩いているとつらくなる。
自宅から550m離れたスーパーに歩いていくのがやっと。途中で休むかどうか、前かがみになると楽になるかどうかは自分ではわからない。

台所ではすっと立てる。立ちっぱなしでも痛みはない。入浴すると楽になる、長湯も可能。夜間痛はない。
2.3年前正座が出来ないほどの両膝痛を訴え、近隣の診療所で1年間注射や内服薬を投与され、両膝・足首が象のように腫れたことがある。その出来事から病院を受診し、半年後に腫れは引いた。

現在はカルシウム剤のみを服用している。現在は一人暮らし。


 一般健康状態
飲酒・喫煙歴はない。服薬はカルシウム剤のみ。食欲(正)、体重変化無し、睡眠(正)、発熱無し。排便・排尿に問題なし。
身長 150cm 体重45㎏ BMI 20


既往歴・家族歴 特記無し

身体診察 
SLR test(-) Patrick test(-)、股関節 屈曲・外転・外旋・内旋は(-)股関節内転時に大転子付近に痛み。
圧痛は左第4.5椎関、腎兪に検出された。放散痛はない。


初診時の診断とその根拠: 第4.5腰椎神経根症状

  1. つながった痛みである神経根症状がある
  2. 下肢の疼痛部位から判断

 
鑑別診断

  1.  腰部脊柱管狭窄症:歩行時の疼痛、前かがみで緩解するかが不明瞭。
    間歇性跛行の有無が不明瞭のため除外できない。
  2. 腰椎椎間板ヘルニア:しびれがない、経過が慢性である。SLR test(-)で除外。
  3. 股関節疾患:立ち上がりに問題がない。Patrick test(-)で除外
  4. 仙腸関節障害:下肢症状が神経根症状であるので除外。
  5. 椎間関節性腰痛:下肢の疼痛部位が膝より下にでているので除外

 
施術とその指標
痛みを取り、近隣のスーパーに安心して行くのを指標とした。痛みが半分になるまでは週に1回の施術計画。またこれまでの経験から医療に対する不安が強い。

第1回
腹臥位にて、第2.3.4.5椎関、気海兪、大腸兪、関元兪にステンレス鍼40㎜-18号で直刺、2㎝刺入。左梨状に50㎜-20号で直刺。全て15分置鍼。

下腿は反応点に単刺。仰臥位にて、両膝阿是に浅刺、灸頭鍼後、直接灸各3壮。施術後の足踏みでは痛みは目立たない。

第2回
前回施術3日目から腰が重い、自転車を押しながらスーパーには行けた。腰のサポーターをしていると楽。Pain scale10→7.5 
現在は痛みより重さが気になる。重みは腰と下腿後側中心。椅子に長く坐っていられない。センソリーマーチ(-)、腰の前屈・後屈(-)により、「腰部脊柱管狭窄症」の可能性は下がる。仙腸関節障害を少し疑う。

左第2.3.4.5腰椎椎間関節、気海兪に硬結が検出された。
施術は第3.4.5椎関、気海兪、大腸兪、関元兪、PSIS、梨状に50㎜-20号で直刺、置鍼15分。直接灸各3壮。施術後Pain scale 5以下。
左上側臥位にて前回の中髎兪付近の仙骨外縁、PSIS、殿筋の硬結部に50㎜-20号で、置鍼5分を追加。

第4回 
徐々に症状が楽になっていたが、急に腰が重くなったとの事。触擦でも腰部の緊張が強い。
生活を確認すると、長座位をしていることがわかった。初診時は長坐位ができなかったが、最近できるようになり長坐位の時間が長かった。長坐位による腰の負担を説明。
現在は下肢症状があちこちに移動する。
「仙腸関節障害の疑いをさらに強める。
スーパーまでは歩けるが、その先の公民館までは難しかった。気海兪、梨状は60㎜-24号を使用し、下肢まで得気をえる。

第5回
自ら調子がいいとはじめて伝えられる。Pain scale1-2施術頻度を2週に1回にあけたいと希望され、応じる。
施術は前回どおり。60㎜を使用していたところは全て50㎜に戻す。
後日電話にて、調子がいいので様子をみると連絡あり。スーパーへは普通に行っている。

症例のポイント

初診時と2回目で疼痛部位・性状に変化があり、初診時の鑑別診断をすぐに変更せざるを得なかった。
「つながった痛み」=神経根症状を想起するが、本当に神経根症状であったかどうかは疑問に感じる。

初診時の「中髎兪の最大圧痛」、2回目の「長く坐っていられない」病歴、
4回目の「下肢症状があちこちに移動する」病歴から考え、結論は仙腸関節障害

4回目の「長坐位による悪化」は、生活指導がいかに大切かを再確認する機会となった。
また多裂筋、仙腸関節、L3の関連を裏付ける症例でもあったように思えます。

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