鍼灸院でよくみる5つの腰痛

①椎間関節性腰痛

腰痛にはいろんなタイプがあります。

そのうちのひとつ「椎間関節性腰痛」は鍼灸院で出会うことが多い腰痛です。

腰には5つの骨「腰椎」があり、それぞれに関節があります。
それが「椎間関節」です。

よく痛める場所は5つの骨のうちの5番目の腰椎と仙骨の間の関節です。
ベルトのウエストラインの高さです。

急性では椎間関節に捻挫をおこした状態、いわゆるぎっくり腰のタイプのひとつです。
慢性では加齢などにより椎間関節が変性し、痛みがでることがあります。

椎間関節性腰痛の特徴

椎間関節性腰痛は「腰を後ろに反らした時に痛む」のが特徴です。

別の「腰部脊柱管狭窄症」でも腰を反らすと
痛みはでますが、椎間関節性腰痛と異なるのは
少し歩くと痛みで歩けなくなる症状(間歇性跛行)があります。

一方、椎間関節性腰痛では通常足に症状はありません。
関連痛と言って、お尻(殿部)やふともも(大腿)に症状がでることはあります。

腰の痛みは片側だけでなく、両側のことがあります。ヘルニアなどと違って、
足のしびれ、力がはいらないといったことはありません。
比較的痛みの部位が明確です。画像に異常がないことも多く、
病歴の丁寧な確認が必要です。

病院ではブロック注射、運動療法などが処方されます。

椎間関節に負担がかかる要素

背骨はゆるやかなS字カーブを描いていて、直線ではありません。
そのカーブが強すぎても弱すぎても背骨に負担がかかわります。

腰椎のカーブが前に強くなる状態(腰椎前彎)、いわゆる腰が反った状態が
仕事や日常生活において長時間、または反復している可能性が高いと思われます。

腰椎前彎になる要素は下肢やお腹など複数の部位の緊張の強弱に左右されます。
お腹の筋肉が弱くなり、背中の筋肉の緊張が強くなると骨盤が前に傾き、
その結果腰の反りが強くなることで、椎間関節への負担となります。

太ももの前面が硬くても骨盤が前に傾き、やはり椎間関節への
負担につながる可能性があります。

複数の筋肉の過緊張、低緊張がつながって椎間関節への
負担をおこしています。

椎間関節性腰痛の鍼灸施術と日常生活の工夫

患者さんの病歴からどのタイプの腰痛かを判断します。

年齢、性別、日常生活、痛む場所、痛みが再現される動作などです。
また重篤な病気が腰痛の原因になっている可能性が高いと
判断した時には病院への受診を促します。

その結果、椎間関節性腰痛の可能性が高い場合は椎間関節部を
触診で患者さんと確認をし、鍼灸施術を致します。

椎間関節に鍼を行うのがメインです。

腰椎のカーブを適度な角度に保つために、背中や、下肢への
鍼灸やストレッチなどを行います。

日常生活では、就寝時(仰向けの場合)に膝の下に枕などを入れると、
腰椎の反りが減り、関節への負担が減ります。

実際に仰向けで寝ていただくと、膝を伸ばした状態と軽く膝を曲げた
状態では腰の反り方が違うのはすぐにわかると思います。

ご自宅でもお尻や太ももなどのストレッチをしていただくことも
関節への負担を減らすセルフケアとしておすすめしています。

 

②筋筋膜性腰痛

「筋筋膜性腰痛」は文字通り、筋肉と筋肉を包む膜「筋膜」を
痛めた腰痛です。痛む場所はウエストよりも少し上、ピンポイントと
いうより広い範囲で痛みを感じます。

レントゲンではわかりません。

急性でも慢性でも足の症状はありません。しびれなどもありません。
お辞儀をする動作、いわゆる前かがみの動作で痛みが強くなるのが特徴です。

ベッドにうつぶせになっている患者さんを拝見すると、腰や背中の筋肉の
緊張で、片方の筋肉が明らかに腫れて盛り上がっています。

緊張している筋肉が背骨を引っ張って、一時的に背中が曲がって
見えることがあります。(骨自体が曲がっているわけではありません)

背景には筋力の低下、体重に対して筋肉が弱いこともあります。

急性の「筋筋膜性腰痛」の特徴と対応

急性では筋肉の「ぎっくり腰」として対応します。ゴルフのような急激に
ひねる動作などで多くみられます。

20-40代の男性に多くみられます。痛みも強いです。
腰に手のひらをあてて、お見えになります。

急性の時は、痛みも強く、筋膜を痛めているときは少し押しただけでも
過敏になっています。痛くないところと比べると「熱」を持っていることがあり、
そういったときは鍼では浅く刺します。

「熱」を持っているときは、ご自宅で保冷剤などで冷やされると
はやく楽になります。湿布よりおすすめです。

「急性」の腰痛では強い刺激や手でもんだりすることは
避けることを強くお伝えしています。

慢性の「筋筋膜性腰痛」の特徴と対応

慢性では仕事などで腰や背中の筋肉が恒常的に緊張状態になっています。

筋肉の中を通る血管をしめつけ、血液の循環障害をおこし、
筋肉が疲労している状態と考えられます。


痛みの感じは「重い」「突っ張った感じ」などと患者さんは表現されます。

慢性の時は、痛めている筋肉を確認しながら、ひとつづつ鍼・灸でゆるめていきます。

椎間関節の腰痛と合併していることも多いので、筋肉と両方にアプローチすることもよくあります。
痛みがおさまってきたらご自宅で、腰・背中のストレッチなどを勧めています。

 急性と慢性で対応が少し変わりますが、経過のよい腰痛のひとつだと思います。

③仙腸関節由来の腰痛

仙腸関節とは

仙腸関節由来の腰痛があります。

仙腸関節は骨盤を形成する逆三角形の「仙骨」とそこから左右に
扇のように接する「腸骨」からなります。

ウエストより少し下の高さに位置します。他の関節のように動きはあまりなく、
関節運動はごくわずかです。

仙腸関節由来の腰痛の研究は進んでおり、腰痛の10%を占めるといった
報告もありますが、まだ有病率や診断基準が確立されていません。

 仙腸関節由来の腰痛の特徴

痛む部分は仙腸関節周囲がメインです。

患者さんに指一本で痛いところを示していただくと、仙腸関節部を示します。
その他に、鼡径部や下肢に痛みがでることがあります。特に下肢の痛みは特徴があります。

よく知られている坐骨神経痛では腰、殿部、大腿(ふともも)、下腿(ふくらはぎや脛)
、足の指に痛み、しびれが「つながった」感じでいつも同じところに症状がでます。

一方、仙腸関節由来の腰痛では日によって痛む場所が違ったり、
痛む場所が「つながった感じではなく、バラバラ」であることが特徴のひとつです。
また左右どちらの痛む方を下にして横向きになって休むと痛みが増す傾向があります。
座っていると痛みが増しますが、歩きはじめると楽になる方もおられます。

仙腸関節由来の腰痛は、産後に痛みを訴えるのが特徴的といわれていますが、
性別・年齢にかかわらず誰でもかかる可能性がある腰痛の一つといった報告があり
、当院でも産後の患者さんよりも50-60代の女性に多い印象があります。

今まで拝見した患者さんでは、バスツアーや飛行機による長時間の移動で
仙腸関節に痛みを訴えることが多いと思われます。狭いシートで仙腸関節が
左右から挟み込まれ、同じ姿勢でいることが原因ではないかと推測しています。

仙腸関節由来の腰痛は、腸骨が骨化したもの、結核性や化膿性のものは
画像や血液検査で診断できるようですが、それ以外のものは画像では異常が
みつからないことも多いようです。

仙腸関節にブロック注射をして、痛みの軽減があればそれをもって
診断とするといったこともあるようです。

仙腸関節由来の腰痛になった時の日常生活での対応

 まず痛いほうを下にして横になると痛みが増しますので、痛いほうを天井の方に
向けられた方がいいでしょう。またゴムベルトをウエストではなく、
仙腸関節の高さで、腰よりお尻に巻くイメージで巻かれると楽になります。

長時間座ることは避けて、歩かれると痛みが軽減する方を多く見ています。

仙腸関節由来の腰痛に対する鍼灸施術

仙腸関節周囲に鍼をいたしますが、股関節や腰の関節との関係を診て施術を
しています。仙腸関節だけよりも、腰の関節や仙腸関節に負担を
かけている要素を見つけるようにしています。

仙腸関節に原因があり、実際にそこに鍼を的確にすると直後効果が
著明にあるのも仙腸関節由来の腰痛の特徴です。

 参考症例 
股関節の痛み-仙腸関節障害

④高齢者の腰痛:圧迫骨折

骨粗鬆症から脊椎骨折

高齢者に多いのが骨粗鬆症です。骨粗鬆症では痛みはありません。
骨粗鬆症から脊椎骨折になると通常は「痛み」があります。

脊椎を骨折した1/3の方が痛みを感じ、残りの2/3の方は骨折があっても
痛みを感じないといった報告があります。

また、尻もちや転倒など明らかな外傷がなくても、20%の方に骨折がみられるようです。
つまり、骨折した本人も気づいていないところで骨折している可能性があります。
「患者さんに骨折を思わせるイベントがなくても、骨折を否定できない」
いうことに注意する必要があります。

複数の骨折による姿勢の変化と慢性腰痛

加齢によるものだけでなく、脊椎骨折の経験や、気付かないで骨折するなどして、
複数箇所の骨折は脊椎の変形を招いていきます。

脊椎の変形によって、脊柱周囲の関節、筋肉、靭帯などに持続的に負担が
かかることで慢性の腰痛につながります。

背中が丸くなることで、重心の変化などがおこり、
股関節(大腿骨頭の被覆率が減少すること)や

膝関節(大腿直筋への過剰な負担)に二次的な負担がつながっていくことがあります。
抵抗はあるかもしれませんが、杖を使用したり運動をすることで
姿勢への影響を減らしていくのがお勧めです。

急性の圧迫骨折

急性の圧迫骨折は痛みも強く、ベッドから起き上がるのにも時間がかかります。
病院では鎮痛剤、コルセットが処方され、

安静でいることを求められます。

実際に痛みが強いため、寝返りも大変です。

一方で、圧迫骨折の患者さんは高齢者が多いため、
あまり長期にわたって安静にしていると筋力が低下する可能性があります。
腰の痛みが改善した時に、立つことや、歩くことが困難になるのを防ぐ必要があります。

圧迫骨折による腰痛に対する鍼灸

残念ながら鍼灸で骨を再生することはできません。

急性時には骨折した周囲の筋肉や関節部が対象になります。
骨を支える筋肉などの緊張をとり、
まずは寝返り、座位、立位、歩行と
順番にできることを目的とします。

痛みによる長期臥床からの筋力低下を防ぐことと、他の関節の拘縮に
気を付けることが大切です。


薬物療法と鍼灸を併用した病院では、薬物療法単独よりも痛みの軽減が
早まった報告などがあります。

実際には鍼灸施術をするよりも、骨折の可能性を見逃さず、
病院への受診を促すことが最優先です。

骨折から時間が経過し、慢性腰痛がある場合には、股間節や膝関節など
二次的な問題も考慮します。

程度にもよりますが、運動と鍼灸、日常生活の工夫などで、
地道に対応する必要があります。

⑤腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症とそのタイプ

「腰部脊柱管狭窄症」は「脊柱管」とよばれる脊柱の中の管が
狭くなることによって、そこを通過する神経や周囲の骨、筋肉などの
軟部組織との関係が悪化し、様々な神経の症状があらわれるといわれています。

タイプは3つあります。

①馬尾型

下肢、臀部、会陰部に感覚異常がおこります。

しびれが特徴で、下肢の脱力感があり、左右両方にあらわれます。
痛みは通常ありません。また膀胱の障害があります。
(頻回にお手洗いに行きたくなったり、尿が出なかったりなど)

膀胱の症状は患者さん自身に自覚症状がなくても検査で障害がみつかる
ことがあります。そのため、膀胱の自覚症状がなくても、
馬尾型の他の症状があるときは、病院への受診を強くすすめます。

②神経根型

下肢、臀部の「痛み」がメインです。左右片側のときもあれば両方のときもあります。
まれに痺れがあることもあります。

③混合型

①の馬尾型と②の神経根型の両方が合併したものです。

タイプに関係なく共通する症状に「間欠跛行」があります。

歩行や長時間立った状態でいると、下肢にしびれ・痛み・異常感覚などが
おこります。前かがみになり、休むと楽になります。

自転車やスーパーでのカートを押すなどの姿勢では動くことが
できるとおっしゃる患者さんが多いのはそのためです。

以上の3つのタイプがあります。画像診断で、脊柱管が狭くなっていても
無症状の方がおられたり、狭いままでも保存療法
(手術ではない、運動や、湿布や、服薬、ブロック注射など)で良くなる方は
少なくありません。

脊柱管が狭いといった要素だけが原因ではなく、周囲の神経への血流障害
などが関係しているからと言われています。

腰部脊柱管狭窄症のタイプによる対応の違い

①の馬尾型の場合は、すぐに手術がすすめられます。
自然に改善することがほとんどないからです。

特に膀胱の機能を守るためにも早期に病院を受診されることを
強くお勧めします。手術によって膀胱の障害や間欠跛行などの症状が治りやすいと
言われています。しびれは残りやすいようです。

②の神経根型は自然によくなることがあります。病院でも保存療法で
様子をみて、症状が改善しないようなら手術の選択を検討しています。

腰部脊柱管狭窄症で残りやすい症状

安静時の症状、下肢末端のしびれは手術をしても残りやすい症状です
腰部脊柱管狭窄症そのものが高齢で発症することが多いことからも、
手術時の年齢が高くなり、神経組織の回復に時間がかかることなどが
関係しているといわれています。

鍼灸でのアプローチ

馬尾型は早急に病院を受診です。神経根型は保存療法の段階、
初期から中期は鍼灸の適応範囲と思われます。

脊柱管が狭くなることを鍼灸で止めることはできません。
しかしながら初期から中期の脊柱管狭窄症の症状が鍼灸でよくなった
事例は当院でもあります。またそういった報告もよく聞きます。

腰部脊柱管狭窄症が神経の圧迫要因だけではなく、周囲の筋肉などの
軟部組織が病態に影響し、神経への血流障害がおきていることが症状の
要因のひとつである点から、鍼灸による神経根型の
初期から中期へのアプローチは可能と考えています

また腰椎の前彎(反り方)が強くなると、腰に負担がかかります。
それを避けるために、股関節の可動域の改善や腹部や臀部の筋力維持、
背部や腸腰筋、大腿前面のストレッチなども勧めています。

 参考症例
腰部脊柱管狭窄症-半年続く腰下肢痛

関連記事

PAGE TOP