「腰痛」の患者さんを通じて考える鍼灸治療院の役割

「腰痛」の患者さんを通じて考える鍼灸治療院の役割


「腰痛」は日本では平成22年の統計で、男性で1位、女性で2位と訴えの多い症状です。男女の約30%がなんらかの「腰痛」を訴えているといわれています。そのため社会的にも経済的にも影響の多い症状となります。

「腰痛」患者さんを診ることが多い鍼灸治療院の役割について記していきたいと思います。

「腰痛」患者さんが抱える問題


「腰痛」は文字通り腰が痛いので、腰に負担がかかる要素があることが考えられます。
職場で長時間座っている、何度も重いものを持ち上げる、腰に振動がくる機械類(農機具など)を日常的に使っているなどがあります。生活では台所仕事、ソファー、ベッド、布団などでの寝ている姿勢、また介護などがあげられます。いわゆる物理的に腰に負担がかかる要素です。

一方で、「腰痛」の原因に心理・社会的な要素が大きく関わっているという明確な報告が随分広く知られるようになりました。
心理・社会的な要素とは、仕事のストレス(人間関係、長時間の勤務、仕事の満足度など)や家庭・結婚生活での不安などの事です。

また身体的には問題のない「腰痛」の患者さんの1/3が、医療者による説明不足、治療の一方的強要などで医療不信に陥っているといった報告もあります。
医療者の一端である鍼灸師も気をつけなくてはなりません。

簡単ですが、「腰痛」の患者さんが抱える2つの問題をあげました。以上の事(仕事、日常生活、心理・社会面、医療者-患者関係など)を踏まえて、鍼灸治療院でするべきことは、はりとお灸をするだけではないということになります。

鍼灸治療院でできるはりとお灸以外の事


・十分な説明による不安の解消
患者さんによって、不安の種類は違います。
「この腰痛が治るかどうか」「これから悪化しないかどうか」「仕事は続けられるかどうか」などがあります。不安の種類によって、求められる説明も変わってきます。

一例ですが、「腰痛」の今後の見通しなどについて不安な方には以下のように説明しています。
「腰痛の中でも、神経の症状がない場合、つまり足や殿部のしびれや痛み、麻痺などがないとき。また重篤な疾患が腰痛の原因となっていない場合は、比較的早い回復が見込めますので、安心してください。」
患者さんそれぞれが抱えている不安を把握して、それに応じた十分な説明が必要です。

・物理的な腰への負担に対しては、鍼灸や日常生活の工夫で対応
状態に応じた適切な鍼灸治療はもちろんですが、腰への負担を減らす日常生活での工夫は必要です。患者さんの日常生活を伺いながら、患者さんごとに実践可能なものを話し合って、情報を提供します。

・患者さんとの協力が必要な理由
腰痛の原因が物理的な要素、また心理・社会的な要素と考えられている現状では、両方を取り扱う必要があります。そのためには、患者さんからの情報に対して、こちらからの情報提供、不安の解消、適切な鍼灸治療などを通じて、医療者-患者さんとの間に良好な関係を結ぶことが医療不信を防ぐことにつながります。

医療者-患者さんとの良好な関係自体が患者さんを回復に導く力となります。

「腰痛」に限らず、「痛み」をとることは目的のひとつですが、普段の健康な状態になるべくはやくもどってもらうために、はりとお灸をするだけでなく、多角的に患者さんを診て、支え続けていくことが鍼灸治療院の役割だと考えます。

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