患者さんが話す病歴が大切な理由:腰痛の症例から
今回は腰痛を訴える患者さんが話された病歴が非常に的を得た内容でした。
鍼灸院では患者さんの話す病歴は貴重な情報です。なぜ病歴がそれほど大切かをこの症例は教えてくれます。
毎年年末の繁忙期に腰痛でお見えになる患者さん、ここ数年は本格的に痛くなる前や
予兆を感じたときに来院されます。幸い大事に至ることなく、1.2回の施術で年末を乗り切られます。今回の来院も例年通りの腰痛かと思いましたが、どうやらそうではないようです。
患者さん
「1週間前から少し違和感を感じて、まだ本格的に痛みは強くないんですけど、
これから忙しくなるので、これ以上痛くなるのもね。痛みはいつもより下のほうなんです」
私
「いつもより下ですか」
(いつもは下部腰椎椎間関節付近だったはず・いつもと違うのは大事な情報)
「どのあたりが痛みますか?」
患者さん
「このあたりですね」(指1本で右仙腸関節付近を示す)
私
「そうですか」(指1本で仙腸関節を示している、ワンフィンガー*¹だ、、)
患者さん
「なんか、細かく痛い感じがするんですよね」
私
(細かく痛い?多裂筋のこと?仙腸関節周囲の複数の痛みのことだろうか)
「どういう時に痛くなりますか?」
患者さん
「車に乗っている時」「長く座っている時ですね」
私
(長時間の座位は仙腸関節性腰痛の可能性を高める)
(例年は仕事で多くの荷物を運んで痛めていたような)
「でも、以前から車には乗っていましたよね、車に乗る時間や、座席などこれまでと何か違うことはありましたか?」
患者さん
「以前は仕事でバンの後部座席に乗ることが多かったんですが、最近はセダンの後部座席でお尻が沈み込んで、降りるときも大変なんです」
私
(やはり環境の変化があった。バス・飛行機の旅で比較的狭い座席に長時間乗っていたため仙腸関節性腰痛になられた患者さんも過去に数名おられた)
「そうですか、腰以外に足にしびれなどはありますか?」
患者さん
「それはありません」
私
「就寝時に痛みで目が覚めることがありますか?」
患者さん
「それもありません」
実際に右仙腸関節周囲に複数の圧痛点を確認。
(患者さんの説明する病歴と圧痛などの所見が一致)
下部腰椎椎間関節にも硬結はみられるため、
両部位に対してうつぶせで刺鍼を行う。
次に座位や前かがみ、立ちすわり、歩行などでの動作を確認。
痛みを感じないため、経過をみてもらうことにしました。
今回は患者さん自身が、ご自分の病態を非常によく観察されていました。
教えていただいた病歴が仙腸関節性腰痛の可能性を高める内容で、所見も一致しました。
そのため、鍼を刺す部位の決定も行いやすく、
痛みの程度もそれほど強くなかったことから、良い結果につながったと思われます。
やはり患者さんの話す病歴から推察する病態と、それを確認する所見が一致し、
それに対して適切な施術を行うことが重要です。
そのためには、患者さん自身にもご自身の身体をしっかり観察していただき、
こちらもそれを丁寧に聞いていくしかないと感じています。
*¹ ワンフィンガーテスト
患者さんに痛む部位を示していただくときに、指1本で仙腸関節周囲を示した場合、
仙腸関節性腰痛の可能性が高まるテスト