「薬物乱用頭痛」と鍼灸施術
「薬物乱用頭痛」は月の半分以上で頭痛があり、薬を10日から15日以上、3ヵ月を超えて服用し続けるて悪化する頭痛です。
つまり「薬の飲みすぎによる頭痛」です。対応としては薬の中止、または減薬が基本となります。そしてトリプタンなどの予防薬を使います。1ヵ月に薬を服用する日を10日以内に減らすのが目標です。薬の中止、減薬は医師の指導の下に治療していただきます。
鍼灸と日常生活の改善で頭痛の頻度・程度を減らし、減薬につなげていくのが当院の方針です。
当院では、まれに「薬物乱用頭痛」と思われる患者さんがお見えになります。「薬の飲みすぎ」には自覚的ですが、「薬によって悪化している」のを気づかず「薬物乱用頭痛」という言葉をご存じない方もおられます。
*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております。
鍼灸施術症例
患者:50代、女性、毎日頭痛がある。
病歴
数年来、起床時から寝るときまで頭痛がある。現在はイブ(市販薬)で対処しているが、効果はあるものの量が増えている。1週間に1箱以上購入している。
痛むのは両側の後頭部で、側頭部はたまにつらくなる程度。仕事のある日は起床時、
午前中、お昼、夕方と4回にそれぞれ2錠ずつ服用している。仕事のない日は3回となる。
夜間痛、嘔吐、めまい、耳鳴り、鼻症状、手足のしびれはない。仕事を休むほどの痛みではない。痛みは進行もしてないが、緩解もしていない。経験したことのない痛みではない。ズキズキする痛みの性状にかわりなはない。仕事は事務をしている。頚・肩こりも慢性的にある。高血圧の薬と胃薬を服用している。
一般健康状態
喫煙:1箱弱/日
飲酒は嗜まない。運動は好きではない。
服薬:鎮痛薬(イブ)胃薬、高血圧の薬
食欲:一日の中でばらつきがある。
睡眠:問題なし
排便・排尿:問題なし。
初診時の診断と根拠:「緊張型頭痛と薬物乱用頭痛」
急性ではなく、慢性である。性状に変化がなく、進行してない。寝込むほどではなく、仕事ができる程度の頭痛であり、頚肩部のこりが随伴しているため。また頭痛薬も効いている。また、緊急性のある危険な頭痛ではないと判断した。
そして
①頭痛は1ヶ月に15日以上存在する
②薬物を、3ヶ月を超えて定期的に乱用している。
(単一成分の鎮痛薬を1ヶ月に15日以上服用している)以上から薬物乱用頭痛の可能性を考えた。
鑑別診断
- 片頭痛:寝込むほどではない。痛む場所が合わない。
- 群発性頭痛:決まった時期に集中しておきていない。疼痛部が合わない。
- うつ病:睡眠に問題がない。仕事を休んでいない
施術とその指標
鍼灸では「緊張型頭痛」に対してアプローチできる部位を行う。同時に「薬物乱用頭痛」については、減薬にむけて医師からの指導を受けていただくように少しずつ説明、提案する方針。
第1回
全てステンレス鍼40㎜18号を使用。上天柱、天柱、風池、C5、肩井、腎兪、L3.4.5椎間関節、太陽、扶突に置鍼15分。胸椎3.4.5棘突起間、百会に直接灸各3壮。頚部のタオルを就寝時に巻くよう伝える。
第3回(9日目)
「薬物乱用頭痛」の話をし、減薬について医師と相談するよう提案する、「まだ薬をやめる気はない」とはっきりと言われる。
第4回(13日目)
薬を服用せずにいられる時間が伸びてきた。頭部の阿是穴に直接灸を加える。薬物乱用頭痛の可能性も伝え、トリプタンなどの予防薬についてお話しする。
現在かかっている内科医に服用している市販の頭痛薬の頻度を伝えていただき、医師の指導と予防薬の活用で、市販薬を減らすよう提案するが、あまり受け入れられた感触がない。
症例のポイント
頭痛は緊張型頭痛と薬物乱用頭痛の可能性を考えました。目的のひとつである「緊張型頭痛」に対する筋緊張の緩和は、治療直後に確認でき、頭痛はありませんでした。
今回のように鍼灸治療ですこしずつ、頭痛の頻度を減らし、結果的に服用間隔を伸ばしていった症例はいくつかあります。
しかしながら、いざ患者さんへの生活指導や医師の指導下での減薬を提案をすると、あまり乗り気にならない患者さんは少なくありません。
患者さんが医師からの処方ではなく、市販薬を常用している点からも、言いにくいことがあるのかもしれません。
鍼灸により頭痛を減らしながら、減薬につなげ、最終的には日常生活の改善のみで頭痛が減らせるのが理想の流れです。
薬物乱用頭痛の患者さんに対する提案の見極めは難しい面があり、わたしにとっても大きな課題となっています。