夜尿症と鍼灸

夜尿症と鍼灸


夜尿症と鍼灸の関わりは一般的にはピンとこないかもしれません。 

私自身は幼少の時に鍼灸治療を受けていたこともあり、夜泣きや、疳の虫とならんで、夜尿症にも良いらしいと聞いたことがありました。  
鍼灸師になってからも、小児夜尿症は参考書に適応疾患として掲載されていることが多く、適応度が高いものという認識があります。

 ここでは夜尿症診療について、ガイドライン、海外文献、国内文献、そして経験としての鍼灸治療をご案内いたします。  

夜尿症診療ガイドライン

 「夜尿症診療ガイドライン 2016」には、 
夜尿症は7歳時で10%の罹病率、発達とともに解消していくが、高校入学時もその3%が解消していないと記載があります。
診療においてもまだまだエビデンスは少なく、エビデンスよりも推奨グレードを参考にするようにとあります。  ガイドラインでは「行動療法」、「デスモプレシン」による薬物療法、「アラーム療法」が推奨される治療方法の柱になっています。
 
ガイドラインには専門用語もありますが、基本的なことを知っておくためにもぜひご覧になることをお勧めいたします。 
ネット上で無料で公開されています。「夜尿症診療ガイドライン 2016」

小児夜尿症と鍼灸治療の海外文献

 
小児夜尿症と鍼灸治療について海外での文献を検索してみると、いくつかの文献があります。

  1)9歳から17歳の一次性夜尿症50人(31人の男児、19人の女児)にカウンセリングと鍼灸治療を10日連続行い、3か月毎に鍼治療を行った。6か月後76%の改善率、1年後92%の改善率がみられた El Koumi MA1, Ahmed SA, Salama AM.Acupuncture efficacy in thetreatment of persistent primary nocturnal enuresis.Arab J Nephrol Transplant. 2013 Sep;6(3):173-6  

2)平均年齢15,7際の186人の単一症候性夜尿症の患者にレーザー鍼単独、デスモプレシン単独、鍼とデスモプレシン併用の3つのグループに分け、3か月から6か月経過観察。併用群はより優位に改善、膀胱容量は鍼治療群でのみ増加した。
 Moursy EE1, Kamel NF, Kaseem AF.:Combined laser acupuncture anddesmopressin for treating resistant cases of monosymptomaticnocturnal enuresis: a randomized comparative study.Scand J Urol. 2014 Dec;48(6):559-64. doi 

 3)単一症候性夜尿症の25人の小児(7-16歳)に電気鍼治療を行い、6ヵ月後に評価を行い、65%の小児に改善が見られ、5人には90%以上夜尿頻度が減少した。また半分の小児に夜間覚醒の減少がみられた。 
Björkström G1, Hellström AL, Andersson S.:Electro-acupuncture in thetreatment of children with monosymptomatic nocturnal enuresis.Scand J Urol Nephrol. 2000 Feb;34(1):21-6. 

 4)15人の患者(男性10人、女性5人)、「中髎」(仙骨部)に鍼治療を行い、膀胱容量が治療直後、2か月後に半数が改善。夜尿日数において50%以上が軽減した。
 Honjo H1, Kawauchi A, Ukimura O, Soh J, Mizutani Y, Miki T.:Treatment of monosymptomatic nocturnal enuresis by acupuncture:A preliminary study.Int J Urol. 2002 Dec;9(12):672-6. 

 先ほどのガイドラインでも、文献(3)のように、治療抵抗性(なかなか改善しない)の過活動膀胱には電気治療をオプションとして提案しています。 鍼の治療方法の詳細までは掲載されていませんが、どれも改善傾向のように思えます。   

国内での文献

 一方、日本語での最近の文献はあまり見つけることができませんでした。小児の夜尿症は鍼灸治療の適応症として昔から扱われていますが、最近の報告は少ないようです。  

5)15人の夜尿症の小児に鍼灸治療を行い、12人に改善がみられたが、足指温、下腹部温が低い患者の治療効果が低かった。
 形井秀一 筑波大学理療科教員養成施設 西條一止 筑波技術短期大学 :夜尿症児の体表所見と鍼灸治療の効果の検討―恥骨上部の皮膚温と腫脹・緊張,および足指の皮膚温について―:日温気物医誌 第54巻3号1991年5月 
足部、下腹部が冷えないようにしておいた方が夜尿症にはよさそうです。   

夜尿症と鍼灸治療

発達とともに、解消される傾向である夜尿症ですが、ガイドラインで推奨されている「行動療法」「薬物療法」「アラーム療法」で効果が乏しい患者さんにとっては鍼灸治療がひとつの選択肢になるかもしれません。
 前述の文献では「薬物療法」と鍼灸を併用したものもありました。 実際に当院に来院される方も、すでに病院を受診して数年経過した方がほとんどです。 鍼灸治療の方法は、鍼灸師それぞれで治療体系が異なります。 当院ではこうした文献を踏まえながらも、経験的によく使われている治療方法を確かめながら現在に至っています。  

当院での鍼灸施術

年齢や、夜尿症の程度などから初診時に鍼を刺したり、もぐさのお灸をすることはほとんどありません。患者さんの緊張や、刺激量の見極めもあり、弱刺激から行っています。

微弱な電気機器(しびれたりしません)、電気の温灸器などを使い、痛い、熱い思いもせず最後まで弱刺激で改善していく方がほとんどです。
経過をみながら、鍼をすることはもちろんございます。

治療部位は骨盤部、下肢、足部、腹部、背部などがメインです。
やはりお腹、足は冷えない方が経験的にも経過が良いです。
骨盤部は膀胱の神経もあり、解剖学的にも鍼灸治療に欠かせません。
足が冷えて、片足にむくみがあったり、肩や背中に緊張が強いといったような方が多く、そのような状態をなるべく減らしていくことが夜尿症の改善につながると考えています。

その為に、患者さんには日常生活においてご協力いただくことはあります。
患者さんによって異なりますが、

  • 就寝時以外はショートソックスではなく、くるぶしが隠れている靴下をはいていただく
  • 過度にお腹を冷やす食べ物を就寝前に摂らない
  • 睡眠のリズムを一定に
  • 改善傾向の時に、一時的に悪化しても気にしすぎない
  • あまり疲れすぎない

 市販のお灸をしていただくこともセルフケアとして、強くお勧めしています。 夜尿の頻度が減り、症状が安定してくると安心感がでてきます。
小児の夜尿症の方は、林間学校、修学旅行などの「宿泊行事」がプレッシャーになることがあります。 「安心感」を得るには一定の安定した期間が必要です。
 鍼灸治療を考慮されている方は、行事の直前にはじめられるよりは、少し余裕をもって受けられると良いでしょう。 骨盤部や下腹部に貼って使える温熱器具(シールのお灸)を「宿泊行事」の時に使用すると、違った環境でも安心して行ってこられるようです。 

 今後もより質の良い文献がでましたら、鍼灸施術に取り入れていきたいと思います。

関連記事

PAGE TOP