慢性腰痛と坐骨神経痛
坐骨神経痛の鑑別と鍼灸が適応される状態について、症例を通じてご案内しています。
この症例は患者さんが特定されないよう、一部変更を加えてあります。
鍼灸症例
患者
50代、女性
主訴
慢性腰痛と坐骨神経痛
受診動機
痛みとしびれが強くなってきていること、胃の調子が悪く痛み止めが服用できなくなってきたこと。
病歴
5-6年前から、腰全体に突っ張り感がある。4-5年前には右母趾、示趾にしびれが出始めたが。それほど気にはしてなかった。スーパーのレジ業務や、陳列作業のせいだと思う。
8か月前から腰の痛みが強くなり始め、整形外科で湿布、痛み止め(ロキソニン)を処方してもらっていた。
2か月前から痛みが本格的に悪化し、MRIをとったが特に異常は見当たらなかった。
そのころから、口の中に酸っぱいものがこみあげてくる呑酸の症状が出て、胃の調子が悪化してきた。胃カメラにて胃潰瘍の痕が見つかる。介護、仕事のストレス。薬の影響の両方だと考えている。
1週間前に、腰だけでなく右臀部、右大腿外側・後側、右外くるぶしに痛みとしびれがではじめた。
リリカを追加で処方される。前かがみになると痛む。発熱なし。夜間痛はない。体重も変化がない。
胃の調子は悪いが食事はとれる。睡眠も正常。痛み、しびれはあるが歩くことはできる。
身体診察
右第4腰椎、第5腰椎椎間関節に圧痛。放散痛は特に見当たらない。
除外鑑別
①腰椎椎間板ヘルニア:ヘルニアと考えるには経過が長すぎる。MRIなどの画像所見でも確認されない。
②腰部脊柱管狭窄症:前かがみでも楽にならない。歩行に問題がない。
③椎間関節性腰痛:外くるぶしに症状があること。
診断
慢性腰痛と神経根障害
変形性腰椎症による坐骨神経痛の可能性もありそうですが、「腰椎の変形」の所見は病院では指摘されていない。
施術とその経過
初診
腹臥位は腰の痛みのため、不可。右上側臥位にて、50㎜-20号にて第3.4.5椎間関節、上胞膏、
足三里、陽陵泉、60㎜-22号にて大腸兪、関元兪、梨状、に置鍼20分。
2回目(4日目)
痛み、しびれは軽減している。仰向けになると腰の突っ張り感が気になる。仕事は以前より気にせずできている。腹臥位は今回は可能。50㎜-20号にて第3.4.5椎間関節、60㎜-22号にて大腸兪、関元兪にて置鍼15分。右上側臥位にて、腰臀部にパルス鍼10分
3回目(10日目)
高いところのものを取るときのみ腰が痛む。施術は前回通り。
4回目(20日目)
仰向けでも腰が気にならない。症状は1.2割程度となる。仕事も通常通り可能。胃の調子が良くなり。飲酒もできるようになる。
5回目(30日目)
美容院での90分座っている姿勢、シャンプーのときの腰を反った姿勢も問題なかった。日帰りの車での旅行でも症状がでなかった。
6回目(37日目)
腰の痛みも不安も落ち着いたので、施術終了。
施術を終えて
慢性腰痛による痛み止めの薬剤の長期服用、さらに仕事や介護のストレスで胃症状が現れたと推察される症例でした。今回のように、痛み止めが服用しずらい状況では鍼灸がお役にたてることがあります。
坐骨神経痛の原因が、腰椎椎間板ヘルニアでもなく、腰部脊柱管狭窄症でないことは病歴や、病院での画像所見を併せてみても明らかでした。
慢性腰痛による神経根の圧迫によって坐骨神経痛が生じたと今回は考えました。