坐骨神経痛を起こす病気と鍼灸施術による経過

坐骨神経痛を起こす病気と鍼灸施術による経過


「坐骨神経」は腰から足の指先までにかけて走る神経です。
その神経が様々な原因によって痛み・しびれなどをおこすのが「坐骨神経痛」です。「坐骨神経痛」は「症状」であって、「病名」ではありません。
ここでは「坐骨神経痛」の原因となる主な3つの疾患と、それぞれの鍼灸治療による経過をご案内いたします。

坐骨神経痛について

坐骨神経は腰からお尻、太腿の後ろを通って、ふくらはぎと脛に枝分かれします。そこから足の指先まで伸びていきます。非常に長い神経です。

一部の原因を除いて、腰痛を伴います。痛めている神経の部位によって、足の痛む部位や、しびれる部位が異なります。また、麻痺がある場合は、その動作の制限も異なります。

症状
・腰から足にかけての鋭い痛み
・しびれ・足の熱感、冷感、感覚が鈍くなる
・足の麻痺:つま先があがらない、踵が浮かない

坐骨神経痛の原因

原因疾患によって異なりますが、腰に負担のかかる職業、生活、習慣、スポーツ歴、遺伝などが考えられます。
普段からの姿勢などが大切になります。

坐骨神経痛をおこす病気の見分け方

坐骨神経痛を起こす疾患はいくつかありますが、主に下記3つが鍼灸治療院で頻繁に対応する病気となります。


1)腰椎椎間板ヘルニア
20-30歳代の男性に多いのが「腰椎椎間板ヘルニア」です。腰の骨である「腰椎」の「椎間板」にある「髄核」が飛び出し神経を圧迫したり、炎症をおこし激痛を起こします。排尿障害などがある場合はすぐに手術の対象となります。
詳しくは「腰椎椎間板ヘルニアについて知っていただきたいこと」でご案内していますので、ご覧ください。

2)梨状筋症候群
腰ではなく、お尻の奥にある筋肉「梨状筋」により「坐骨神経」が締め付けられて、お尻から足にかけて痛み・しびれをおこすものです。通常、腰痛はありません。腰の動きによって坐骨神経痛は強くなりません。

梨状筋を押すと坐骨神経痛が再現されたり、「Kボンネットテスト」といった梨状筋を緊張させる姿勢をとらせる身体診察でも確認できます。鍼灸治療では「梨状筋症候群」は「梨状筋」に直接アプローチでき、効果が見込みやすいものとなります。

3)腰部脊柱管狭窄症
高齢者に多くみられます。腰の骨の中にある「脊柱管」が加齢によって狭まってきます。「脊柱管」の中を通過する神経を圧迫して、坐骨神経痛をおこします。
また、歩いたり、立ち続けたりすると痛みによって歩行が困難になる「間欠跛行」が出るのが特徴です。この「間欠跛行」の有無が他の病気との区別のポイントとなります。

前にかがむと楽になりますが、腰を後ろに反ると悪化します。手押し車や、スーパーでのカートなどを使っているときが楽になります。また、自転車に乗っているときはあまり症状がでません。

「間欠跛行」は腰部脊柱管狭窄症だけにおこるのではありません。「閉塞性動脈硬化症」という病気でもおこります。「間欠跛行」が「腰部脊柱管狭窄症」でおきているのか、「閉塞性動脈硬化症」でおきているのかの判断が必要です。


坐骨神経痛の鍼灸施術

上にあげた原因疾患により鍼灸治療の内容と、その経過は異なってきます。
それぞれの疾患の程度と時期を見定めが大切だと思われます。

腰椎椎間板ヘルニアに対する鍼灸施術とその経過


1)急性期の痛みの強い時期
痛いほうを上にして、横向きに休んでいただきます。ヘルニアの炎症が起きている腰部、臀部、下肢に浅く、弱い鍼を行います。この時期は、深追いせず、慎重に、少しずつでも良くなるよう刺激量に配慮して行います。炎症の程度にもよりますが、1回目の治療よりも、2回目、3回目から効果を実感される経過をたどります。日常生活はできる限り安静にしていただきます。


2)回復期:痛みが半分くらいの時期
痛みが半分くらいになったころから、鍼も太さも、深さも通常の治療のものにしていきます。下肢よりも、腰、臀部の方から回復してきます。状態によってはお灸も使用します。少し歩くことをすすめていきます。


3)安定期:痛みがほぼ2割以下、足先にしびれが少し残る時期
痛みはほぼ気にならず、腰、臀部、太ももなども少しだるさがあるかないかといった時期です。
患者さんによっては、ここで治療を終了される方もおられます。一方で、ヘルニアの再発の不安などから治療をしばらく継続する方もおられます。この時期になると、積極的に歩いていただきます。ただ腰に負担をかけるような作業には十分気を付けていただきます。
この時期、足先のしびれなどがほんの少し残る方もおられます。患者さんの経過をみていますと、あまりこだわりすぎず、地道に歩かれたり、日常生活を普段通りに過ごしていただくのが良いようです。半年後、一年後にはほとんど気づかない、いつの間にか消えていたと報告をいただきます。

梨状筋症候群に対する鍼灸施術とその経過

梨状筋症候群は過緊張状態にある「梨状筋」を緩める必要があります。「梨状筋」が坐骨神経をしめつけており、シンプルに「梨状筋」に鍼を直接行い、同時に梨状筋周囲の筋肉や腰部にも鍼を行います。
患者さんの病歴から「梨状筋」に緊張を作る原因を明確にし、その原因となる生活習慣を一時休止していただくようにします。なるべく、臀部の圧迫を避け、横向きで痛いほうを上にしてお休みいただくようにします。
余程の状態でない限り数回の鍼灸で改善がみられる場合がほとんどです。

腰部脊柱管狭窄症に対する鍼灸施術とその経過

腰部脊柱管狭窄症に対する鍼灸施術は「ヘルニア」や「梨状筋症候群」に比べて容易なものではありません。別記事「腰痛のタイプ⑤-腰部脊柱管狭窄症」でも書きましたが、「神経根型」とよばれるタイプがあります。

「神経根型」の初期から中期のものでは鍼灸治療による改善例はあるのですが、タイプの違う「馬尾型」または「混合型」については鍼灸では難しいと言わざるを得ません。

患者さんにはあらかじめ説明をし、期間を決めて施術を開始します。経過を見ながら改善傾向であれば継続して施術を行います。
「神経根型」についてはこちらの症例「腰部脊柱管狭窄症-半年続く腰下肢痛」を参考にしてください。

ひとことに「坐骨神経痛」といっても、原因となる疾患が異なると、病態も経過もそして鍼灸の内容も変わってきます。

鍼灸をお受けになる患者さんの理解の一助となれば幸いです。

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