鍼灸往診症例①:肩の痛み-腱板断裂

鍼灸往診症例①:肩の痛み-腱板断裂

当院では往診による鍼灸施術および手技療法を行っています。
保険適応での往診施術は、自力で来院できない状態の患者さんが対象となります。
今回は往診の症例を紹介いたします。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております。

鍼灸往診症例

患者:80才代、女性
主訴:右頚、肩、腕の痛み

受診動機
4か月前から右肩の痛みが良くならない。寝たきりになりたくないため。

病歴 
4か月前に自転車で転倒。右頚と肩を強打する。整形外科を受診。頚はカラーで固定、肩は痛み止めを服用。湿布、注射などの治療を受けた。
レントゲンでは骨折は認められない。血液検査も異常がない。
医師には「寝たきりになることは覚悟してください」と言われる。
痛みのため、付き添いを伴う病院への通院以外では外出してない。

現在、頚はある程度よくなったが、肩の痛みが取れない。腕も上げられず、シャツを着るのが大変。料理をしようとするが、包丁を持てない。寝ていても痛く、寝返りも打てない。
だからといって起き上がると、腕の重みで痛くなるので、左手で右腕を支えなければならない。しびれはない。
頚を動かすと頚に痛みはあるが、肩の痛みは強くならない。
独居のため、今まで家事すべてをひとりでやってきた。痛くなってからは家の片づけができず、散らかっているのを見られたくないため友人を家に呼んでいない。

身体診察
右上肢挙上不可。 熱感あり。発赤あり。 軋轢音あり。肩関節や上肢に圧痛、硬結が多数認められる。
頸部右回旋で第5.第6頸椎付近に痛みあり。

診断とその根拠
腱板断裂:①外傷歴 ②上肢拳上負荷 ③軋轢音 ④しびれがないこと

目的
①痛みをとること ②家事など生活動作ができるようになり、寝たきりにさせないこと 
肩の痛みだけでなく、二次的な筋力低下や、日常生活の制限、社会とのかかわりが減ることが予想されるので、それらを防ぐこと。

鍼灸施術とその経過

初診
軽く触れるだけでも痛みが強いため、弱めの刺激で始める。右上側臥位で肩関節周囲に浅い鍼で10分程度。お灸は熱感が強いため行わない。

2回目(3日目)
痛みはあるが、胸の高さまで腕はあがる。鍼の本数を少し増やす。

3回目(7日目)
施術に慣れてきたので、頸の方にも施術を開始する。熱感などの炎症所見は引いてきた。左手で支えると右腕は目の高さまで上がる。他動での拳上ができるので、腱板断裂の可能性がさらに高まる。

5回目(14日目)
デイサービスに行くことを決意。外出できる気分となる。夜の痛みが減り、睡眠の質が上がる。

6回目(20日目)
強い熱感が引いたので、お灸を併用。姿勢がうつ伏せでも肩の痛みがでなくなる。軋轢音はまだ少しある。

10回目(45日目)
腕は左手で支えなくても、頭の上まで上げられるようになる。痛みが1.2割となり、拘縮予防を目的として自分でできる体操などを指導。
掃除機をかけるなどの比較的力が必要な家事もできるようになってきた。
肩、頚の痛みが落ち着き、自宅での日常生活はご自分でできるようになった。
転倒防止のための足の運動や、バランスを保つ体操などをアドバイスした。
その後は、調子の悪いとき、予防のためなど、必要に応じて施術を行い。
お一人での近隣への買い物や、庭いじりなどができるまでに回復なさいました。

往診施術を終えて

初診時から痛みが強く、独居による日常生活の不安や、足腰の筋力低下などによる寝たきりなどの問題がありました。
腱板断裂と思われるこの症例は、本当に痛みが強く、動きの制限もあることで日常生活に多大な支障をきたします。
座ったり起き上がると、腕の重みで痛みが強くなり受診が困難なため往診で施術をいたしました。患者さんは鍼灸の経験があったため、施術自体への抵抗がなかったのが幸いでした。 

ご高齢にもかかわらず、痛みの原因や自分でできることを知りたい、治したいという意志が強かったことが回復につながったと思います。

炎症所見が引いてからのお灸の併用が、より可動域の改善に貢献したと実感しています。ある程度痛みがおさまってくると、拘縮予防や転倒予防などの運動を提案しています。

往診の良いところは、患者さんの住環境やご家庭にあるものを使って、直接アドバイスできることです。
また床を這う電源コードや、じゅうたんとフローリングの境目などちょっとした危険な要素に対して注意を促すことができるのは往診の利点だと考えています。

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