埼玉県春日部市の鍼灸院 はり・きゅう はりも

〒344-0058 埼玉県春日部市栄町1-279
Tel:048-763-5323
腹部症状

検査で異常がないと診断された吐き気・食欲不振の鍼灸症例

 

 

検査で何も異常がないのに、
「吐き気がする」「食べられない」
「食べるのが怖い」「食欲がない」

すぐに休める自宅とは違い、仕事での会食の場面や、移動中の急な吐き気は
大きなストレスにもなります。

鍼灸での一症例ですが、ご参考にになれば幸いです。

 
*下記症例は患者さんが特定されないよう内容に 変更を加えております。
 

「検査で異常がないと診断された吐き気の鍼灸症例」

 
患者
30代、男性
 
症状
吐き気、下痢、食欲がない
 
随伴症状
背中のこり、疲れやすい、のどがつまる、
頭が痛い
 
病歴

1年半前から転勤・独居など
環境の変化が続く。

1年前から1日に数回の吐き気がはじまる。
病院では胃内視鏡を受けるが異常なし。
服薬するが、あまり変化なく、下痢も続く。

嘔吐、吐血、発熱、貧血、体重減少なし
 
 
市販薬も使用していたが、体調不良で仕事を休むことも増える。
 
転勤が終わり、1週間前地元の病院を受診、
処方された薬が効かない。
 
2日前に別の病院を受診、血液検査、
レントゲンでも異常がない。
ここでは違う薬を処方され、少し効果を感じている。
 
昨日、職場の会食後、お肉を食べた後に
気持ちが悪くなり電車を降りることがあった。

不安はあるが、外出はできる。

この1年で食事はたべられるものと、
気持ちが悪くなるものがわかるようになったので、
かなり食べ物の種類を制限している。

発症前にくらべて、麺類だと量が5分の1
ほどしか食べられなくなった。
 
 
健康状態
 
睡眠は質・量ともにとれている。
趣味などの好きなことはできる。
職場などで大きなストレスはなく、
体調に対する理解もある

既往歴・家族歴
特になし
 
施術方針

吐き気を減らし、少しずつ食べられるものを増やしていく方針

服薬は中止せず、医師の指示通りに通院すること。

一時的に食べられるようになっても、すぐに種類や量を増やさず、
慎重になること。

体調を診て、食べたいものを1種類ずつ少ない量からチャレンジしていく。

ただし、肉などの脂肪分の多い食べ物への
チャレンジは後半に行う。

症状が再発すると、落ち込む患者さんが多いので、
なるべく安定した状態を長く続けることが、
自信につながることを
くりかえし説明した。

 
第1回

鍼治療がはじめてのため、弱く、
少ない刺激量で行う。

背部(胃腸に対応するツボ)に浅刺にて置鍼と電気温灸器を15分行う。

首、肩に弱刺激の電気治療を加える。

仰向けで、腹部に電気温灸器と弱刺激の電気治療を10分ほど。
 
 
第2回(10日目)

前回の治療後1週間は症状が2割減
7日目から10日目までは6割減

お肉で気持ち悪くなったことがあるので、
脂肪の多いものは避けている。
冷たいお蕎麦を1杯食べることができた。
自宅では比較的安心して食事ができている。
 
施術内容は前回に加え、
吐き気に「内関」、のどのつまりに「太衝」「合谷」を加える。

 
第3回(25日目)

一度だけ、少量の赤身肉を食べたとき以外は調子が良い。
お昼の外食も種類、量ともに増えてきている。

食事の不安感がかなり軽減した。

のどのつまりはなくなる。
数日後に職場のプレゼンがあるのが心配。

施術内容は前回通り。

 
第4回(60日目)

安定した1か月を過ごす。
ケーキなど脂肪分の高いものも
食べられるようになった。

プレゼン後も特に症状再燃なし。

症状が安定し、不安なくコントロールできているため、施術を終了する。

 
 

方針と注意点



 

「吐き気」「食欲不振」などの症状で
鍼灸治療院を最初に訪れる方は
あまりおられません。

先に病院を受診して、検査・診断・処方を受けている方がほとんどです。

当院でも鍼灸の適応・不適応の判断のために、様々なことを確認しています。

病院への通院は継続をおねがいしています。
そのうえで、当院でできることを経験も踏まえてお伝えしています。

施術前半で調子が良くなると、これまで食べられなかった反動なのか、
いきなり胃腸に負担のかかるものを食べ始める方が少なくありません。

ある程度回復するまでは、「慎重」にというのが当院の方針です。

今回の症例の患者さんは経過が比較的早いほうです。

施術より「食事の仕方」や「睡眠」などの生活リズムがとても
大切です。

注意点を何度も繰り返し説明し、
ご理解いただくことを重視しています。

 

 

機能性ディスペプシア(機能性胃腸障害)と鍼灸

機能性ディスペプシア(機能性胃腸障害)と鍼灸

 

2018.10.21 更新

 

「機能性ディスペプシア」、あまり聞きなれない言葉だと思います。

鍼灸院にはこのように診断された患者さんがまれにお見えになります。

「機能性ディスペプシア」の概要と、鍼灸施術の中身、関連文献などをご紹介したいと思います。

 

機能性ディスペプシアとは


「症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、
慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」
※1

他に原因となる病気がなく、また内視鏡検査などで異常がみられず、
長期にわたって胃もたれなどの症状がつづくものと言えます。

 

機能性ディスペプシアの症状

  • 胃がもたれる
  • 気持ち悪い
  • 食べるとすぐにお腹が張る
  • 吐き気がする
  • げっぷが出る
  • 下痢をする
  • 食べられない、など多彩な胃症状があらわれます。

その結果、患者さんは「食べるのが怖い」とおっしゃいます。

逆流性食道炎、過敏性腸症候群、慢性便秘などとの
合併がみられます。

 

機能性ディスペプシアの原因

原因はひとつでなく複数の要因が考えられるようです。

胃適応性弛緩障害、胃排出障害、胃酸分泌、心理社会的要因、
遺伝、ピロリ菌感染、アルコール、喫煙、不眠、高脂肪食など*1

症状の背景には何かしらのストレスのエピソード(環境変化など)を
お持ちの方がほとんどです。

 

 

機能性ディスペプシアの診断と治療

医療面接(問診)や内視鏡検査などで、他の疾患(胃がんや慢性膵炎など)
の除外が重要となります。

また、NSAIDS、低用量アスピリン服用者が服用を中止して症状が軽減する場合も
機能性ディスペプシアは除外されます。
薬による胃腸障害と判断されるようです。

体重減少・再発性の嘔吐、出血、嚥下困難、高齢、腹部腫瘤、
発熱などは注意すべき症状です。

治療は、胃酸分泌抑制薬、消化管運動改善薬、漢方薬、抗うつ、
抗不安薬はは有効である場合が多く、ピロリ菌除去も有効とされています。

 

生活上の注意点

機能性ディスペプシアではQOLが下がります。

睡眠不足に注意し、喫煙、アルコール、高脂肪食を避けるのがすすめられています。

 

機能性ディスペプシアと鍼灸

鍼灸では胃腸症状には背中、お腹、手足などのツボが伝統的に使われてきました。

機能性ディスペプシアの患者さんでは、背中の第6胸椎から
第11胸椎の高さの脊柱起立筋の圧痛が多くみられるといった研究報告があり、
背中の鍼治療により胃粘膜の血流増加がみこまれる可能性があると結論づけています。*2

医師から機能性ディスペプシアの診断を受け、当院に来院された患者さんは
背中だけでなく、お腹(特にみぞおち)や、頸部、頭部などにも緊張が認められます。

背中の緊張だけでなく、お腹の緊張部位を細かく確認をして、
温和なお灸や電気温灸器なども使います。

お腹に鍼をするのは最近は少なく、電気ていしんを使って
腹部の緊張やむくみの変化をみていくようにしています。

頚・肩の緊張も伴うため、対応します。

腹部症状の不快感やストレスなどによる頚の側面の
筋肉の緊張をゆるめるようにしています。

ご自宅でのお灸を強くお勧めしています.

また治療が進むたびに、少しずつ食べる品目や、
量を相談しながら通常の状態に戻していきます。

治療をしてすぐによくなる類のものではないですが、
改善の変化が感じられると、患者さんは自信がついてきて、
不安も軽減されるように思えます。

機能性ディスペプシアの患者さんで鍼灸治療院にお見えになる方の
頻度はそう多くありません。

しかしながらゆるやかにではありますが、概ね良好な経過をたどられる印象があります。

「完治までどれくらいですか」と聞かれますが、患者さんによって様々です。

「月」単位での変化が平均的かと思われます。

薬が効かないと訴える方もおられますが、医師との相談なく
薬を止められるのはお勧めしていません。

腹部症状でお困りの方はまずは病院を受診していただき、
内視鏡検査など必要な診察をお受けになってください。

機能性ディスペプシアと診断され、お薬などで改善が見込めない場合は、
いつでもご相談ください。

 

機能性ディスペプシアにおける鍼灸の論文紹介 (2018.10.21 追記)

 

① Comparative study on therapeutic effect between acupuncture at special acupoints and non-specific acupoints in foot yangming meridian for functional dyspepsia
( 足の陽明胃経の特異的経穴と非特異的経穴の鍼治療の効果の比較研究)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23072088

目的
機能性消化不良(FD)のために、
特別な経穴、足の陽明胃経おける非特異的な経穴および非経穴における
鍼治療間の臨床的有効性の差異を比較すること。

方法
FD陽性の患者116人を、3つのグループに分けている。
足の陽明胃経(グループA、n = 36)使用経穴:衝陽、豊隆、足三里、梁丘
足の陽明胃経(グループB、n39)使用経穴:条口、陰市、伏兎、 犢鼻、経穴から2mm離して
非経穴群(グループC, n = 41)C群は上肢や下肢の非経穴群を使用
 
結果
B群で食事後の腹部充満率の合計がC群よりも優れていた(P <0.05)。

全ての群で治療後1ヶ月および3ヶ月後のFDIおよびSF-36のスコアは
治療前よりも良好であり(すべてP <0.05)、
A群の上記指数が最も有意であった(すべてP <0.05 )


グループBの治療後のFDIおよびSF-36のスコアは
Cグループのスコアより高かった(いずれもP <0.05)。
 
結論
経穴での鍼治療、足の陽明胃経の非特異的な経穴および非経穴は
すべてFDの治療効果があるが、経穴での鍼治療は短期間および長期間の
治療効果がより優れており、経穴特異性の存在を確認する。
 
胃腸症状に効果があるとされている「足の陽明胃経」のより使用頻度が高いのをA群、
胃経上にはあるがあえて少しツボの位置をずらしたB群、
そしてまったく胃経ではなく、ツボでもないC群の比較により
経穴の持つ「特異性」について調べた報告です。
 
ここではA群が短期・長期ともに効果が高いと結論づけられている。
ツボにまったく関係のないC群もそれなりの効果が出ている点が興味深いです。

 

参考文献

*1:機能性消化管疾患診療ガイドライン2014 機能性ディスペプシア(FD) 
   日本消化器病学会

*2:鍼灸医学的アプローチによる機能性消化管障害の解明とその治療 
   -機能性ディスペプシアについて-

   伊藤剛 北里大学 東洋医学総合研究所 
   鍼灸診療部・漢方診療部・臨床研究部 漢方鍼灸治療センター

*3:上背部温熱刺激が健常人の飲水後の胃収縮運動へ及ぼす影響 橘田 大輝
   明治国際医療大学大学院鍼灸臨床医学病態制御鍼灸医学

 

 

 

 

 

 

 

お腹の張り、痛み、食欲不振:自宅でのお灸を中心とした症例

 

もぐさとお線香

 

お腹の張り、痛み、食欲不振:自宅でのお灸を中心とした症例

 

鍼灸院では、腰痛、肩こり、膝痛など、関節や筋肉が原因の
整形外科疾患を診るのがほとんどです。

また、患者さんも鍼灸院にそのような印象を持っています。

今回は、そういった整形外科疾患ではなく、
腹部症状についての一症例を紹介いたします。


*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております。

 

機能性胃腸炎の鍼灸症例

患者
60歳代、女性、1年前からお腹の張り、痛み、
食欲不振でお灸を希望し来院した。

主訴
お腹の張り、痛み、食欲不振

受診動機
薬であまりよくならない、「お灸」に興味があった。
自分でもお灸をしてみたい。自分の手術などで疲れたのだと思う。

 

現病歴

2年前に大病を患い、そのストレスで一時的に食事がとれなくなった。
その後、食事に関しては半分くらい回復したが胃痛がではじめた.

1年前くらいから、お腹の張り、痛みが続き、最近は食欲もわかず、
あまり量も食べられない。

半年前に複数の病院で診察、検査(エコー、CT, 胃カメラ)を
してもらったが特に異常は見当たらない。機能性胃腸炎と診断される。

薬を処方されるがあまり改善がみられない。薬疹がでたので、
なるべくなら薬に頼らずに治したい。

現在は果物を食べただけで、お腹が冷えてしまい、胃痛がおきる。
お腹の張り、痛みは変わらず続いている。

これをすると良くなるというものはない。

近隣の内科で漢方薬、六君子湯、半夏厚朴湯、安中散を処方されている。
睡眠に問題はない。他には肩こりなどがある。

普段家事はしているが、あとは体を休めている。
趣味や運動にエネルギーをまわす余裕がない。

鍼は怖いので、お灸をしてほしい。

 

一般健康状態

食欲不振、発熱なし、睡眠正常、体重減少(1年で3㎏減)

 

方針

施術方針

医療機関で精査され、現在も通院中であるため危険な病気の
可能性は低いと判断した。

薬があまり効果的でなく、お灸に関心があることからお灸を
中心にした施術を行う。

ご家庭の事情から月に1度の施術頻度となり、慢性的な症状のため、
ご自宅でもお灸をしていだくようにしました。

また、「なぜ胃が良くならないのか」など疑問、不安などが多いので
なるべくそれに応え、「お灸は地道に長期で治していくもの」であることを
何度もお伝えしました。

第1回

経穴(ツボ):肝兪、脾兪、胃兪、腎兪、胸椎椎間、肩井、
風池、曲池、手三里、合谷、内関、足三里、中脘に糸状灸各3壮のみ。

施術後少しフワっとする感じがあった様子。

自宅にてせんねん灸ソフト(内関、合谷、足三里、脾兪、
胃兪、腎兪)を各1壮。
可能なら毎日から週3回ほどを行ってもらう。

第2回(30日目)

まだあまり効果が感じられない。腰椎から頸椎までの督脈上に
箱灸を加える。自宅灸を足三里、合谷は各3壮に増やす。

第3回(60日目

風邪気味だったので孔最、大椎、膏肓を加える。
自宅でのお灸では曲池に熱が入るのを感じて気持ちがいい。

腹部の症状については少しいいかもしれない。

第4回(90日目

肩こりがだいぶよくなってきた。お灸が全体的に気持ちよく感じる。

お腹の張り、痛みは減ったが。たまに胃酸が逆流する感じ、
胸やけがある。
足三里を灸点から外す。体重は初診時から落ちてない。
食事も三食きちんととれるようになってきた。

第5回(120日目)

調子がいいので、外出が増えた。胃の調子はだいぶ良い。

第6回(150日目)

久しぶりに旅行に行けた。いろいろ用事があって無理をすると
胃腸や体調を壊す時はあるが、食事は三食普通にとれるようになっている。

調子がいいせいか、自宅でのお灸が少し面倒になる日もでてきた。

 

「お灸はじわじわ効いていく面があります」

「腹部症状」は鍼灸院ではあまり一般的な症状ではありません。

今回は、医師の精査を受け、お灸に関心があり、施術頻度に
間隔があくため、
「自宅灸」をメインにいたしました。

原因が明確でない腹部症状であり、長期にわたって食事がとれない、
胃痛があるため、見通しに時間がかかることが推察されました。

当院では時間がかかると思われる症状や、受診間隔に制限がある患者さんを
支えるために、
「自宅灸」はひとつの手段になると考えています

なんでもはやく治るといいのですが、来院される患者さんの中には
今回のように時間のかかるものがあります。

施術する側も、患者さん自身も大変ですが、しっかりと経過を見ながら
地道にやっていくと今回のような良い結果につながることがあります。

施術開始初期は変化が出ないと、不安や疑問が次々にわいてくるのは
自然なことです。

しかしながら、そういった思いがありながらも、患者さんは数か月に
わたってよく地道にお灸をしていただきました。

後半に食事がとれ、外出が増え、最終的にはお灸自体が面倒になるのは、
身体と気持ちに変化がでてきた証拠だと思われます。

今回のように長期化し、医師の精査を受けて問題がなく、それでもほかに手段が
ないときがあります。

そういった場合、特に「お灸」は地道に積み上げていくものとして
有効な方法のひとつだと思っております。

estomago

【文献】慢性機能性便秘-鍼治療単独と鍼灸併用の比較

慢性機能性便秘-鍼治療単独と鍼灸併用の比較

 

慢性機能性便秘の患者さん100名をランダムに
鍼治療単独群・鍼灸併用群の2つに分けて効果を比較しています。

アブストラクトしか読んでいないので詳細がわかりませんが、
便秘を評価する指標だけでなく、
排便の難しさ、腹痛、排便に
要する時間なども含めて、鍼灸併用群(有効率74%)が
鍼灸単独群(有効率52%)よりも優れているという結果がでています。

鍼に使うツボ(経穴)は両群とも同じですが、
灸では足三里、気海、腎兪、脾兪を使用しています。
直接灸と思われます。

 原文はこちら

[Randomized controlled study on chronic functional constipation treated with grain-shaped moxibustion and acupuncture].