頚椎症性神経根症:首・肩こり・手のしびれ

頚椎症性神経根症:首・肩こり・手のしびれ

「頚椎症性神経根症」はあまり聞きなれない名前ですが、頚椎から出ている神経の炎症により、頚(首)から肩、肩甲骨周囲、上肢(上腕-前腕-手指)にまで痛みや、しびれが出る病気です。 

特に頚を動かすと症状が誘発されるのが特徴です。患者さんに「頸椎症性神経根症」の可能性が高いと説明しても、今まで受診した医療機関では特に説明されてない方がほとんどです。

医療機関での対応は、お話を聞く限りでは鎮痛剤と湿布の処方がメインのようです。 

頚椎症性神経症の「原因」

頚にある神経の根っこ、「神経根」の炎症が原因です 

神経根への圧迫・刺激で炎症・浮腫がおきます。加齢による、椎間板や「骨棘」とよばれる骨の変性などでも炎症を起こします。 頸椎からでている神経は腕までつながっています。

その神経の根っこである「神経根」に炎症が起きるため、末端の腕まで痛みや、しびれがおきます。

「頚椎症性神経根症」の患者さんを拝見していると、頚回りに強い筋肉の緊張、いわゆる「こり」があります。

筋肉の強いこりが、神経を圧迫し、炎症をおこしています。

鍼灸では頚椎周囲の筋緊張を緩和し、炎症の軽減を目的としています。
 鍼灸院で対応する病気は様々ですが、その中でも鍼灸で効果が出やすく、
適応度の高いものと私自身はとらえています。当院の訴えの中でも頻度が高い病気となります。

 頚椎症性神経根の「症状」

  • 頚の痛み・こり
  • 肩の痛み・こり
  • 肩甲骨周囲の痛み
  • 腕の痛み・しびれ
  • 腕が上がらない
  • 長期にわたると、筋肉の萎縮が手におきます。

・頚を後ろにそったり、振り返ったりする動きで悪化します。・両方の上肢に発症するケースは少なく、基本的には左右どちらか、片側になります。   *両方の手足のしびれなどは「頚椎症性脊髄症」などを疑う必要があります。(当院では鍼灸の適応外疾患と考えています)  

頚椎症神経根症の「重症度」

 神経根の炎症の程度によって、症状の範囲・強さが異なります当院で拝見している限り、
痛み・しびれの強さだけでなく、症状の範囲の広さ、腕が上がらないなどの機能障害が複数かさなると重症度は高くなり、治療回数が増えるとみています。

悪化した場合、下記のような経過になることがあります。 

・痛みの範囲が頚、肩、肩甲骨周囲にとどまる   
 ↓
・しびれが肘より上までにとどまる    
 ↓
・しびれが指先まである      
 ↓
・腕があがらない(五十肩などの肩関節周囲炎との鑑別が必要) 
 ↓
 ・頚を動かさず、安静にしていても痛い  

頚椎症性神経根症になりやすい方

・中高年の男性に多くみられます
・首に長時間負担がかかる職業の方に多くみられます。
・運転手、水道工事、車の整備、工事用車両のオペレーター
 (ヘルメットなども負担になるようです)事務職の方々が当院では多いようです
・スマホの長時間の操作
・寝ながらテレビを見る方
・飲酒後などにソファーの肘かけで寝てしまう方 

 頚椎症性神経根症の「診断」と「身体診察」

患者さんの語る病歴では、「痛む部位」「頚の動きで痛み、しびれなどがひどくなるか」が「頸椎症性神経根症」を裏付ける重要な情報です。 

また、肩甲骨周囲、手や腕のどこがしびれているかで、どの神経に炎症が起きているかが解剖学的にわかります。

身体診察では「ジャクソンテスト」「スパーリングテスト」など、患者さんの頚に負荷をかけて症状の再現をみるものもあります。 

画像診断について


 参考資料(1)から下記のことがわかり、画像所見が確定診断ではなく、他の疾患の除外鑑別診断に活用されているのがわかります。

・MRIではヘルニアや脊髄症はわかりますが、頚椎症性神経根症はわからない
・レントゲンはほかの疾患を見逃さないことが重要
・腕神経叢腫瘍や、パンコースト腫瘍は腕の激痛はあるが、
肩甲骨周囲の痛みを初発症状としないのが鑑別ポイント  

「生活上の注意点」

・首の負担を減らし、炎症がおさまるまでできるかぎり動かさない
・入浴や、ホッカイロなどで温めない。
・押したり、もんだりしない。
・寝ころんでテレビをみたり、スマホを触る機会をを極力減らす。 

鍼灸施術症例

(患者さん個人が特定されないよう、内容に一部変更を加えています)

①患者:30代、男性、事務職

主訴:頚の痛み、肩、腕の痛み

病歴
1年半前から、左頚の側面、後面を痛めている。寝違いがきっかけではじまった。手のしびれはないが、1日に数十回、頚に痛みと、つっぱり感がある。特に左後ろを振り返る動作で痛みが増す。動かさなくても痛いときがある。手の力は左右共にある。  整形外科にてレントゲンで異常がなく、湿布、鎮痛剤、注射などを行ったが改善しない。整体、マッサージも複数回受診するが経過は良くない。だんだん痛む回数が増えているので、仕事に支障が出ている。交通事故などの外傷歴はない。

鍼灸施術の内容
頚の痛みで、うつ伏せになれたいため、側臥位(横向き)で後頚部、側頚部を中心に鍼を行う。頚部を触診し、緊張や硬さがあるところを押すと、腕にまで響くところが数か所ある。神経根周囲だけでなく、そのような放散痛がある反応点も治療対象とします。今回の患者さんのように、長患いの方には、鍼を刺したまま20分ほど置きます。さらに、仰向けにして、側頸部にも鍼をします。ツボの名前では、天柱、風池、肩貞、扶突など、さらに神経根周囲、そして先ほどの反応点が治療点となります。最後に触診をし、緊張部位や放散痛の変化、頚の動きなどを確認して、必要であれば追加で鍼をします。  この患者さんでは、 1回の施術で痛みが半分程度、2回目終了時点で1.2割くらいには改善しました。手のしびれがなく痛み範囲が上腕にとどまっていたため、比較的経過がよかったのかもしれません。

 ②患者:40代 男性、運転手

主訴:右肩の痛み
病歴
1か月半前に重いものをもってから、右肩の後ろを痛める。1か月前に整形外科を受診、初診時は電気、遠赤外線、ロキソニンを処方される。2回目、ボルタレン、睡眠導入剤、注射(頚・肩の3か所)を処方される。3回目、ボルタレン、胃腸薬、注射を処方される。経過がよくならず、別の整形外科を受診。頚・肩のレントゲン撮影をするが異常なし。安静にしていると比較的調子がよいが、運転や他のことで頚をふと動かしたときに、右肩の後ろや頚に痛みを感じる。手のしびれはない。腕も上にあげられる。

鍼灸施術の内容
病歴から、薬が強くなり、おそらくその為に胃腸の不調がでており、痛みで睡眠に障害がでていることがうかがえます。この方にも症例①の患者さんのように、基本的な鍼灸治施術を行い。さらに肩後面の触診を行い加療しました。 頚が原因で、この肩の後面、腕のつけ根(ツボでいうと、「肩貞」付近)に痛みを訴えられる方は非常に多いです。この場合は、この「肩貞」付近の反応点に少し深めの鍼でひびかせると、その後の経過がよいように思えます。 この方も、手のしびれがなく、2回ほどで施術を終えることができました。手のしびれがあると、4.5回の施術を要するように思えます。より詳しい症例は「頚、肩、腕、指の痛み、しびれ-当院の鍼灸治療」をご覧ください。

 
*2つの症例を紹介いたしました。ここで知っておいていただきたいことがあります。

 鍼灸院にお見えになる患者さんは病院受診後に来院されるのがほとんどです。
病院で良くなられている場合は鍼灸院に来院する必要がありません。もちろん鍼灸の良い経験がある方は別です。 

今回の2例は鍼灸施術で改善していますが、「お薬や注射よりも鍼灸の方が効果がありますよ」ということをお伝えしたいのではありません。

ぜひ誤解なきようおねがいいたします。ひとつの選択肢としての鍼灸と、「頚椎症性神経根症」は適応度が高いと思われるためご案内をしています。

私自身の「頚椎症性神経根症」の経験

 随分前ですが、私自身もこの病気になった経験があります。かなりつらかったため、今でも鮮明に覚えています。  お風呂の浴槽を掃除していた時に、軽く頚をひねったのがきっかけでした。

その時は少し痛む程度でしたが、時間がたつにつれ、症状が進んでいきました。  痛めた当日は頚の痛みだけでしたが、2日後には肩、腕と痛む範囲が広がり、3日目には手にしびれもでてきました。 

 その頃には、振り向くのもつらく、かぶりものの服に首を通すのもロボットのように、頚を動かさずにしないと激痛がはしりました。 

 4日目には、布団から頚を持ち上げられず、自分の手で頭を支えないと難しいくらいで、日常生活に相当支障がでました。自分自身がこの病気になり、その当時受けた鍼灸施術で、直後効果があるのを実感しました。

この2つの経験からはじまり、日々の患者さんの経験の蓄積から、鍼灸施術は「頚椎症性神経根症」に効果がでやすい手段であると感じています。 

参考資料 ・大日本住友製薬サイト:運動器疾患の部屋「頚椎症性神経根症の病態と治療」
(現在は医療関係者のみ閲覧可のようです)

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