腕、指のしびれ-胸郭出口症候群-手根管症候群(鍼灸症例)
腕・指のしびれの原因はいくつかありますが、「胸郭出口症候群」もその一つです。
胸郭に持続的な圧迫が加わり、その下の神経を圧迫し、肩こりやだるさ、腕や指に痛み・しびれなどが生じます。
胸郭出口症候群に特徴的な症状は日常生活の中にあります。症例を通じて、その症状と経過を紹介いたします。
*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております
鍼灸症例
患者:60代 女性
主訴:腕・指のしびれ・痛み
現病歴
引っ越し作業を1週間前に終えてから、特に右の小指を除く四指に強いしびれと痛みを感じる。また前腕尺側(内側)と正中(真ん中)にもしびれを感じる。傘をさしたり、自転車に乗ると症状が強くなる。
夜、寝ていても痛みを感じる。自分でもんでもあまりよくならない。もともと頸・肩こりがある。頸の動きでしびれは強くならない。
現在は糖尿病の管理で内科にかかっている。足の指、左の手指には症状はない。
身体診察
しびれのある前腕を押していくと、指のしびれがより強くなる。手根管部の圧迫では強く指にひびく。
ルーステスト(+)※1 チネル兆候 (+)※2
アセスメント
頻回な荷物の上げ下ろし、傘をさす、自転車に乗るといった腕を挙げ続けるころでしびれが強くなる。
ルーステスト(+)などから胸郭出口症候群(圧迫型)※3を疑う。
また自転車のハンドルによる手首の圧迫で悪化していると思われる。
夜間痛、糖尿病の既往などを考慮して手根管症候群※4を疑った。
ダブルクラッシュシンドローム※5 の可能性を考え、胸郭出口と手根管の二か所の圧迫を軽減する方針で施術を行った。
鍼灸施術と経過
1回目
頚・胸郭出口に鍼をしている間、手指のしびれに変化があり、程度が少し軽減される。
2回目
頚に鍼をしていると、手のしびれがピリピリからボワーとした感じに変化する。うつぶせでも、しびれなどで手の置き場がないようでよく動かされる。引っ越しの後片付けはまだ完全に終わっておらず、高いところにおいてあるものをおろさなければならない。犬の散歩でひっぱられるとしびれが強くなる日もあった。
3回目
手作業をし、母指に痛みとしびれを感じたが来院日には傘を持ち替えずにすんだ。自転車での痛み、夜間の痛みはない。痛みは母指の内側にのみ少しある。自分の両手をすり合わせた時に右手のみ違和感がある(知覚障害)頚に鍼をすると、腕に軽い刺激が伝わる気がする。
4回目
右の中指、薬指のみにしびれが残っている。午前中に少ししびれる程度で、意識しない限り日常生活は以前のように送れる。ご自宅で胸郭と前腕のストレッチをやっていただく。
5回目
ストレッチをしっかりされ、特に入浴中のストレッチが効果的だったたようで、ほとんどしびれを感じなくなった。 以前からの肩こりに、引っ越しでの荷物の上げ下ろしが加わり胸郭に負担をかけ、今回の症状があらわれたと考えました。
自転車に乗っている動作は、腕を上げつづけて胸郭に負担がかかる面とハンドルに手首をあてることで手根管が圧迫される2つの要素があります。手根管症候群の症状は手指の痛み、しびれを主症状とし、夜間痛のあるケースが多いです。また女性に頻度が高く、糖尿病も危険因子となります。
施術中にしびれの程度、性状に変化があり、緩解への見込みを感じました。
またストレッチを積極的になさっていただくことで大きな変化につながった症例でした。
胸郭出口症候群は肩こりの原因のひとつでもあり、特に女性に多い疾患です。日常生活の注意点などもありますので、また詳細を次の機会に記す予定です。
補足:通勤時のつり革でも胸郭出口症候群の症状を誘発する姿位となります。
*1 ルーステスト:胸郭出口症候群の有無を確認するための理学検査のひとつ
*2 チネル兆候:神経の圧迫部位を叩打し、痛みやしびれ症状部位に放散するかを確認する理学検査のひとつ
*3 胸郭出口症候群:頚から鎖骨周辺を通過する神経の束や血管を圧迫し、肩こり、腕のだるさ、しびれなどをおこす疾患の一つです。
*4 手根管症候群:手根管といわれる、手のひら側の手首に骨と靭帯で作られた管があります。そこを通過する神経が使いすぎ、ケガ、また妊娠・出産時などに圧迫され指にしびれなどを生じる疾患です。
*5 ダブルクラッシュシンドローム:一本の神経で2か所以上の圧迫が生じる。今回は胸郭出口と手根管の2か所です。