手術前・手術後の手根管症候群-鍼灸2症例

手術前・手術後の手根管症候群の鍼灸2症例

今回は手術前の手根管症候群と手術後の手根管症候群の2つの症例をご紹介いたします。
手根管症候群に対して、鍼灸は保存療法の一つです。手術を希望せずお見えになる方が大半ですが、鍼灸に限らず、一定期間の保存療法で改善が見られない場合、手術の適切なタイミングを妨げないことも重要です。

また、手術後に痛みや、しびれ、違和感、つっぱり感などを訴えて鍼灸院にお見えになる方もいます。どちらも簡単なものではありませんが、以下の症例がご参考になれば幸いです。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう内容に変更を加えております。

手術に至らなかった手根管症候群の鍼灸症例患者:30代、女性


病歴
2ヶ月前から違和感、1ヶ月前からしびれが始まる。右前腕橈側の感覚が低下している。右母指、示指、中指、に痛み、しびれがある。近隣の整形外科で「手根管症候群」と診断を受ける。ビタミン剤が処方されるが症状は軽減されない。夜間痛あり、起床時が最も痛みが強い。就寝時に朝が来るのが怖く、あまり眠れない。中指にバネ指がある。朝、蛇口をひねるのが辛い、ペットボトルの蓋を開けれない。
仕事は週5日、5時間の調理業務前腕のストレッチをすると、少し楽になる。湿布はしていない。首、肩こりはあるが頚椎の動きによる上肢症状の増悪はない。既往歴なし。


身体診察
ファレンテスト(+)ハンドダイアグラムルーステストは施行するも不明手根部、手掌部の押圧でいくつか指に放散痛が再現される。


施術方針
まずは夜間痛の軽減を第一目的とする。症状が半分位になるまでは週1回の頻度の施術を提案するが、仕事との兼ね合いをみながらの頻度となる。


初診
前腕前側の緊張が強く、母指が内転位になっている。右上側臥位にて右肩上部、側頸部に電気ていしん、電気温灸器と指圧。仰臥位にて、右前腕、母指球に電気ていしん、電気温灸器を加える。


第2回(9日目)
朝の痛みは変化なし。夜間痛は頻度が減る。蛇口をひねるのは少し楽になる。中指のバネ指は変わらず。指のしびれも変化なし。日中、仕事中は症状を忘れられる。施術日、翌日、翌々日まで調子は良かった。前回の施術に加え肘周囲の緊張部位にも施術を加える。また、前腕の硬結部位に数本置鍼を加える。


第3回(22日目)
大きな変化がない。バネ指の頻度が少し減った程度。


第4回(36日目)
朝、中指が動かしづらい。夜間痛はほとんどない。夜、前腕を触ってみると冷えていることが多い。温めると少し楽になる。ツボでいう「郄門」付近、深指屈筋や母指球外側の押圧で、指に放散する部位があることが判明。そこから尾側へ2.3㎝の部位の押圧で、バネ現象が軽減する部位を確認。

変化が乏しいため、置鍼に加え、旋捻、雀琢を加える。これまで取りきれなかった前腕の緊張部位が大幅に小さくなる自宅灸を行ってもらうことにする


第5回(51日目)
前回の施術の直後から、急激に改善されたとのこと。夜間痛ほぼなし。バネ指も頻度と程度が大幅に減る。施術は前回通り。2週間後、仕事が10日ほど休みになり、手を休めることができた。それから、2ヶ月経過してからも、症状の再発がないとの連絡をいただき、終了となった。


施術を終えて
夜間痛など、症状が強く、仕事での負担も大きかったが、当初は鍼をなるべく使わず、電気ていしんなど弱めの施術から始めた。前腕全体の強いむくみと緊張は取れた一方で、前腕前側の硬結部位がより明確になったが取りきれず、改善のスピードもゆるやかでした。夜間痛に改善が乏しいことから、これ以上改善が見られない場合、医師と手術の相談をしていただくことを考える。
4回目の施術で緊張部位が鍼により縮小しました。さらに自宅灸とまとまったお休みにより、負担が減ったため、大幅な症状改善につながったと感じています。

以前は「手根管部」に直接鍼をしていましたが、改善も限定的でした。今回の施術では「手根管部」に鍼はしておりません。昨今、「筋膜」という筋肉を包む膜に注目があたり、理学療法士による報告でも、「手根管部」ではなく、関連する「筋膜」をゆるめることで、手根管症候群の改善をもたらした例を読んだことがあります。
今回の症例と同様に前腕の緊張部位を手によって緩めたものでした。「手根管」そのものではないところに、原因があることを確認できた一例となりました。


手根管症候群手術後のつっぱり感患者 70代 女性


病歴
8か月前、左手の手根管症候群と母指腱鞘炎の手術を行う。術後は、痛みが10→7となる。術後は痛みどめの薬の処方だけを受ける。現在左手の痛みは7→1ほど。しびれが残っている。最近、ようやく左手に時計ができるようになった。左手の手術痕、特に母指球のつっぱり感が最も気になる。

手術痕に対する突っ張り感、冷感は直接お灸をすることが多いです。この患者さんは喘息はありませんが、日常的に咳き込むことがあるため、煙の出るお灸は使用できませんでした。手術後もあまり動かしてないこと、動かし方のリハビリ指導も受けてないため、手にむくみが認められました。

患者さん自身が鍼が怖いこともあり、電気ていしんと電気温灸器で対応した。3回目くらいから突っ張り感の軽減がみられ始めました。滑走性を促すトレーニングのプリントを確認し、自宅で行っていただく。(目薬をさす時についでに行ってもらう)
本当に徐々にですが、滑走性のトレーニングを加えてからお見えになるたびに突っ張り感の程度と頻度が減りました。3か月もするとほとんど感じないようになりました。
施術やトレーニングで血流改善がなされ、回復につながったと感じています。

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