五十肩-鍼灸症例

五十肩-鍼灸症例

「五十肩」、今回は痛みどめや注射が効かなかった症例を紹介いたします。
*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております

鍼灸症例

患者
70歳、女性左肩と上腕の夜間痛を訴えて来院した。
1ヶ月間痛み止めを服用しているのに、良くならない。
痛みで眠れないのがつらい。以前、五十肩になった時とは違う感じがする。
原因はよくわからない。治療をしているが変化がなく、薬に対して抵抗がある。

病歴

3ヶ月前に、左肩こりを感じていた、2ヶ月前には肩こりがより強くなる。
1ヶ月前に、近隣の整形外科を受診。
五十肩の診断をうけ、レントゲンによると少し石灰化していると告げられた。

ホットパック、低周波などの治療をされ、痛み止め、湿布を処方される。
併行して、2週間リハビリを行うが痛みが改善しない。
3週間前、痛みがひどくなりヒアルロン酸を1週間に1回のペースで注射している。

現在まで3回行ったが効果がない。痛み止めも効かず、胃の不快感も出てきたため、自主的に服用回数を減らしている。現在、特に夜間痛がつらく、1時間に1回目がさめる。寝返りもできないほど痛い。

仰向けで寝るときは左肩甲骨の下にタオルを重ねて敷いていると少し楽になる。シャツの着脱や、洗髪では痛みが増す、洗濯物はなんとか干している。肩関節の前面、後面、上腕の内・外側が痛い。痛みの性状はズキン。

頚や肩のこりはあるが、頚の動きで肩・腕の痛みが増すことはない。上肢のしびれはない。薬による胃の不調で、食欲が落ちている。

健康状態
喫煙歴なし、お酒は嗜まない。食欲低下、体重に変化はない。痛みで目が覚める。発熱なし。

服用歴
ペオン(鎮痛剤:NSAIDs)、サンパゾン(筋緊張緩和)、湿布

身体診察
肩関節屈曲50度前後、外転70度まで(自動他動共に)。軋轢音なし。棘上筋、棘下筋の萎縮を確認するも不明瞭。
熱感、発赤はない。腫脹あり。C6,C7,椎間、間溝、前隙に著名な圧痛。
肩前面に広範囲に圧痛あり。左上腕外側に索状の緊張あり。他動外転、ドロップアームは行っていない。

初診時の診断

  • 五十肩:疼痛期から拘縮期の移行期
  • 悪性腫瘍:年齢と夜間痛から経過を見て判断する

除外診断

  • 石灰沈着性腱板炎:夜間痛はあるが、発症から1ヶ月が経過しているため。
  • 腱板炎:肩関節に拘縮があるため。
  • 肩峰下滑液包炎:肩関節に外転障害があるため。
  • 頚椎症性神経根症:頚部の動きで痛みが誘発されない。

施術とその経過
病歴から、悪性腫瘍の可能性、五十肩の疼痛期から拘縮期への移行期の可能性がある。
3回ほど施術して変化がない場合は、MRIを撮影していただく可能性と、痛みが退少するに伴い、拘縮が進むかもしれないことを説明した。まずは夜間痛を改善することを当初の目標とした。

初診
腹臥位にて、左肩関節前面にタオルを重ねて敷く。
C3、C6、天柱、風池、天宗、肩貞、肩井にステンレス鍼、1寸3分、直刺にて1.5センチ刺入、置鍼10分。仰臥位にて左扶突、曲池、手三里、間溝、前隙、結節、
肩前面の阿是穴も同様。肩前面には糸状灸を3壮行った。


坐位にて、巨骨に外方へむけて水平刺にて単刺。肩貞に1寸6分で単刺。上腕二頭筋付近に痛みが少し残る。湯船につかるのをさけること。肩の保温をすることを確認した。

痛みが治まるまでは積極的に動かさないことを勧めるが、主婦のためそれは難しいとのこと。

2回目
前回の施術日と翌日は夜間痛がなく眠ることができた。
2日前に、夜間痛が再発するが痛みの程度は半分くらい、寝返りは可能。早く治ると思い、肩の痛みの原因はわからなかったが、美容院でかなりの強さで、痛いほどもまれたことを思い出した。

初診の施術によるだるさなどはない。腹臥位から側臥位へ 施術 肢位を変更。前回の施術に臑兪、棘上筋・棘下筋・小円筋付着部を加えた。


4回目
痛みからだるさに変化してきた。灸があっているような気がするとのこと。
夜間痛は消失。

 6回目
寝返りができるようになり、植木鉢を動かしたりもしている。痛みは肩の前面のみ、胃の不快感もなく、食欲も戻っている。

7回目
「だいぶよくなった」とおっしゃったが、可動域などは肩関節屈曲100度前後。その後、積極的に動かしていく方向で、リハビリの方法などを確認し、数回後施術を終了した。

*可動域についても1年後、後遺症なく過ごされていることを確認できました.


肩関節疾患に鍼灸が貢献できるケース

鍼灸治療において、肩関節疾患の夜間痛は、平均5,6回の治療回数がかかっているという報告があります。今回は寝返りもつらく、眠れない、食欲も落ちるなど日常生活に影響が多いケースでした。胃が弱い方には長期にわたる痛み止めの服用が負担になることがあります、そういった意味では鍼灸がより貢献できるケースだったかもしれません。 痛みのある肩甲骨の下にタオルを敷くと少し楽に眠ることができます。

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