「腕が痛い」-腋窩神経障害
(四辺形間隙症候群)
「腕が上がらない」「腕が痛い」
このような患者さんの訴えの時、腕の外傷でなければ、
鍼灸院では頸椎、いわゆる首が原因か、五十肩のように肩関節が原因のことがほとんどです。
また、まれではありますが首でも肩でもない「腋窩神経」が問題のこともあります。
腋窩神経
「腋窩神経」は文字通り、「腋」にありますが、あまり耳慣れないですよね。
下の図のように、首の横から複数の神経(腕神経叢)が枝分かれし、
鎖骨の下を通過し、上腕、前腕、手指とつながっていきます。
首から指まで神経はつながっています。
その中で「腋窩神経」は上腕の外側、肩の外側・後方に広がっています。
「腋窩神経」は頸椎の5番、6番の神経から、腕神経叢(上図参考)を経て、
肩関節下方・後方へつながり、上腕部に停止します。
その「腋窩神経」が締め付けられると、
腕の痛みが生じたり、腕の動きを制限することがあります。
また「腋窩神経」を締め付ける筋肉などの組織に囲まれた部位を
「四辺形間隙」とよびます。
四辺形間隙
四辺形間隙は「4つの辺」に囲まれています。
・上部 小円筋
・下部 大円筋
・内側部 上腕三頭筋長頭(力こぶとは反対側の筋肉です)
・外側部 上腕骨・肩関節下包
この4つの組織の緊張で「腋窩神経」がしめつけられます。
四辺形間隙を通過する「腋窩神経」をしめつける(絞扼する)のが
「四辺形間隙症候群」と言われています。
つまり
「腋の周囲の筋肉が神経を締め付けて、腕や肩などに痛みと動きの制限をおこします」
四辺形間隙症候群の症状と所見
症状
・肩関節後方・外側に痛み だるさ しびれ
所見
・四辺形間隙に圧痛
・肩関節外転・外旋・水平内転時に悪化
・三角筋の筋委縮
鑑別疾患
痛む部位が下記の疾患と共通することがあります。
また合併もあります。
・肩関節周囲炎
・肩甲上神経絞扼障害
・頚椎症性神経根症・頸椎椎間板ヘルニア
・胸郭出口症候群
その他
一般的には「投球動作」で悪化することが多いですが、
上腕の骨折の合併症としておこることもあります。
「四辺形間隙症候群」と鍼灸
当院では「四辺形間隙症候群」単独の訴えより、
「頚椎症性神経根症」の「合併症状」と思われる例がいくつかみられます。
その際、原因部位である頸椎周囲をしっかりと鍼でゆるめ、
その後に首の痛みはない、または軽減しているかを確認します。
そして、腋窩神経領域である腕や肩関節外側の痛みが残っている場合、
または圧痛がある場合に「四辺形間隙症候群」の可能性を考えます。
「四辺形間隙症候群」のように神経をしめつける「絞扼障害」は
鍼灸の直後効果が出やすい印象があります。
「四辺形間隙」周囲に刺鍼すると腕の上げやすさや、痛みの軽減が見られます。
逆に、変化に乏しい場合は、「四辺形間隙症候群」の可能性を下げ、
他の原因を検討します。
腕や肩関節外側の痛みは頸椎疾患でも肩関節疾患でも生じ、
病歴や身体診察だけでは不明確なことも多い場合があり、
刺鍼による判断をすることがあります。
また、「四辺形間隙」の構成要素ではない、「広背筋」も筋の起始停止の観点から
見逃せないと思います。(※1)
さらなる改善のために
鍼の施術のみで十分な効果が出ることもありますが、
それだけでは不十分な時があります。
肩甲骨のアライメントが大幅に崩れているときや、
生活習慣で過緊張がある場合は、普段から少しトレーニングをしたり、
伸ばしたりすることが症状改善や再発予防も含めて必要になってきます。
具体的には「腱板」とよばれる筋肉を鍛えること。
肩甲骨周囲の筋肉にストレッチなどで十分な柔軟性をもたせること。
その結果、肩甲骨が本来あるべき位置に収まり、
可動性が維持できるようにすることなどがあげられます。
四辺形間隙にかかわる筋肉だけでなく、
他の筋肉、僧帽筋中部・下部繊維・菱形筋・小胸筋なども
大切です。
まとめ
・「腕の痛み」「腕が上がらない」とき、「四辺形間隙症候群」も考えます。
・「四辺形間隙症候群」は頸椎疾患・肩関節疾患の症状と重なるところがあります。
・「投球動作」の繰り返しなどが原因のことがあります。
・症状だけで自己判断せず、頸椎疾患・肩関節疾患の精査を整形外科で
行うこともお勧めしています。
参考記事
参考文献
・病気がみえるvol.11 運動器・整形外科 メディックメディア
・肩関節自動挙上不能となった四辺形間隙症候群に対する理学療法経験 #1
―競技復帰を果たしたソフトボール選手の一例― 東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.29(Nov.2011)
・疼痛により肩関節可動域訓練の難渋するケースの新アプローチ方法
理学療法科学 33(2):273–276,2018