埼玉県春日部市の鍼灸院 はり・きゅう はりも

〒344-0058 埼玉県春日部市栄町1-279
Tel:048-763-5323
腰椎椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアについて知っていただきたいこと

hernia history

腰椎椎間板ヘルニアについて知っていただきたいこと

目次

  • 腰椎椎間板ヘルニアの症状
  • 腰椎椎間板ヘルニアになりやすい人は?
  • 腰椎椎間板ヘルニアのタイプ
  • 腰椎椎間板ヘルニアの診察と診断で大切なのは「病歴」
  • 腰椎椎間板ヘルニアにおける画像診断
  • 腰椎椎間板ヘルニアの経過
  • 腰椎椎間板ヘルニアになったときの過ごし方と鍼灸治療
  • まとめ

 

 「腰椎椎間板ヘルニア」は、「腰痛」と「坐骨神経痛」が主症状の病気です。

「坐骨神経」は腰から足にかけて走っている神経で、この神経に痛み・しびれがおきます。

「坐骨神経痛」を起こすのは「腰椎椎間板ヘルニア」以外にもあります。

「腰椎椎間板ヘルニア」については、既にわかっていること、まだわかってないことがあり、様々な情報があります。

今は、ほとんどの患者さんがインターネットにアクセスでき、情報を得ているのですが、情報量が多かったり、その質の問題などもあり、混乱されていることがあります。

「腰椎椎間板ヘルニア」の患者さんは、急性期は「痛み」「しびれ」などの症状でつらい思いをされます。

症状が治まった後も、「痛みの記憶」や「再発の不安」などの心配を抱えておられる方が多いように思われます。

ここではガイドラインや、参考文献でより正確な情報を提供し、また当院の経験も踏まえて、患者さんの不安を少しでも解消できる内容をご案内していきます。

インターネットで医療情報を探す人

 

 

 

 

 

「腰椎椎間板ヘルニア」の症状

・腰痛

・坐骨神経痛(臀部、足の痛み、しびれ):ほとんどが左右どちらか、
 両足のときもあります。

・麻痺(足を上げにくい)

・尿が出づらい:一刻も早く病院を受診するべき症状です

*特に歩きづらいほどの強い「麻痺」、
尿が出づらい、出ないなどの「排尿障害」の時は、
すぐに病院を受診するべき状態です。

 

「腰椎椎間板ヘルニア」になりやすい人は?

・男性が女性よりも2-3倍多い

・年齢は20-40歳代:高齢になるほど椎間板がつぶれなくなってくるので、発症リスクが減る

・運転手、金属・機械労働者に多い→当院でも運転の仕事の方に多い印象です

・スポーツとの関連は不明

・喫煙は少し関係あり

・遺伝要素もあります。

・ぎっくり腰(急性腰痛)の既往がある方

 

「腰椎椎間板ヘルニア」のタイプ

・「腰椎」の4番と5番の間、また腰椎5番と仙椎1番の間にヘルニアがよくおこります。

・正中型:腰痛がメインですが、両足に痛み・しびれがでます。
 麻痺や排尿障害がでやすいといわれています。
 自然吸収されず、手術になることが他のタイプより比較的多いとされています。

・外側型:痛みが強く、左右どちらかの足に坐骨神経痛がでます。自然吸収されやすい

 

「腰椎椎間板ヘルニア」の診察と診断で大切なのは「病歴」

正しい病歴を聞くことが診断に最も重要とされています

  1. 下腿まで放散する疼痛
  2. 神経根の走行に一致する疼痛
  3. 咳やくしゃみにより悪化する疼痛
  4. 発作性の疼痛


*この中で特に「痛みの部位」の確認が最も診断の精度が高い情報と言われています。

他に、筋力低下や知覚の鈍さ、深部腱反射などの低下は診断の決め手になるほどの情報ではないとの報告があります。

患者さんに「どこに痛みがあり」「どうすると痛みが増し」「どうして痛くなったのか」を丁寧に聞くことが診断上もっとも有効だと示されています。

SLRという仰向けで患者さんの足を上げる身体診察も、診断の精度を少し上げるという点では有効ですが、以上の4つの病歴ほどの精度ではないようです。

病歴をきちんと聞く

 

 

 

 

 

「腰椎椎間板ヘルニア」における画像診断

 ・レントゲンでは判断できません、ただし「骨折」などほかの病気の有無を
  調べることはできます。(鑑別診断)
 
 ・MRIで診断はできます。

一般にヘルニアが大きいほど、足の症状も強く出ることが多いと言われています。

しかしながら、画像上にヘルニアが認められていても、なんの症状もない人が一定数おられます。
また、発症時にヘルニアがあり、症状もある方が、その後症状が消失しても、画像上はヘルニアが変わらずある方もおられます。

つまり「ヘルニアの有無・大きさ」などが「症状の有無・強さ」と関連がない場合があると言われています。

「腰椎椎間板ヘルニア」において、「病歴」をきちんと聞くことが最も大切で、画像診断はそれを裏付けるための補助てきな役割と考えます。

画像診断の項目で、ヘルニアの有無・大きさが必ずしも症状のそれらと関連するわけではないことがわかりました。

それなのに、症状があるのは、飛び出したヘルニアによる「圧迫」だけが原因ではないということです。

現在では「圧迫」と「炎症」があるといわれています。物理的な「圧迫」と化学的な「炎症」の2つがヘルニアの痛みの原因とされています。「炎症」は画像にはうつりません。

MRIによるヘルニアの画像診断

 

 

 

 

「腰椎椎間板ヘルニア」の経過

経過はヘルニアのタイプや程度によって様々です。

基本的には「自然経過」が良いとされる病気です。

報告では半数以上が手術をしなくてよく、保存療法を第一選択としています。

手術の適応は大まかに以下の二つです

1:急性の強い麻痺、排尿障害は手術対応となります。
 (保存療法を選択するケースではありません)

2:保存療法でよくならないもの、社会復帰を早急にしなくてはいけないもの。

*手術と保存療法の短期での比較は「手術」が良いとされていますが、
 長期での比較(半年から4年程度)では経過に差がないとされています。

**再手術率は5年で4-15%と言われています。

 

自然経過

一般的にヘルニアは平均2-3か月で吸収してなくなります。

また、先ほど申し上げたようにヘルニアが吸収されなくても症状がなくなることもあります。

自然に小さくなりますが、小さくならなくても患者さんの症状がなくなることがあります。

 

当院でよくみる経過

 「腰椎椎間板ヘルニア」と整形外科で診断をされてお見えになる方が、ほとんどです。

中には画像診断だけで、前述の4つの病歴もなくヘルニアと診断されている方も、時々おみえになります。

病歴からも画像からもヘルニアである場合、概ね以下のような経過で回復されていきます。

1:腰痛も坐骨神経痛も強い

2:発症から2週間、3回目の治療後くらいに、先に「腰痛」が軽減されます。

3:それにともなって、坐骨神経痛の範囲が狭まってきます。(大腿→下腿→足指)

4:足の指先のしびれが少しある程度(日常生活に支障がなく、気にならない方は治療をここで終了します)

この間1-2か月くらいが平均だと思われます。

当院への来院が発症してどれくらいか、麻痺や筋力低下の有無、坐骨神経痛の範囲などが経過を決めているように思えます。

当院での症例を紹介しておりますので、ご覧になってください。

「腰椎椎間板ヘルニア-麻痺を伴った症例」

「腰椎椎間板ヘルニア-(鍼灸治療症例)」

 

「腰椎椎間板ヘルニア」になったときの過ごし方と鍼灸治療

「腰椎椎間板ヘルニア」になったときの過ごし方は、時期や程度によって異なります。

  • 急性期で痛みなどの症状が強いときは「安静」
  • 回復期になってきたときはウォーキングなどの「軽めの運動」
  • しびれや筋力低下などの後遺症については、回復に至るまで
    一定程度の「時間」が必要ではあること、


より具体的な過ごし方や注意点は、
「腰椎椎間板ヘルニア-適切な過ごし方に書きましたので、参考にしてください。

 

まとめ

・強い麻痺・尿が出にくい時はすぐに病院へ
・急性期の痛みや、しびれは強いことがありますが、自然経過のよい病気です
・画像診断だけでなく、病歴がもっとも診断に重要です


参考資料

・「腰痛 第2版」 菊池臣一 医学書院 刊

 

過去の症例が患者さんを支えた腰椎椎間板ヘルニア(麻痺)の1症例

過去の症例

 

腰椎椎間板ヘルニア(麻痺)の鍼灸症例

 
 
以前、当院の症例「腰椎椎間板ヘルニア-麻痺を伴った症例」
ホームページに掲載いたしました。
 
このたびご紹介する患者さんはこの症例をご覧になり、
同様の症状で来院されました。
 

この過去の1症例が患者さんの回復までを支えてくれたように思えます。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう
 一部内容に変更を加えております

 

患者:50代、男性
主訴:右腰下肢痛、しびれ、麻痺
 
受診動機

病院以外でなにかできることがないかと調べたところ、
「麻痺」に関する自分自身と同じ症状を見つけたので来院した。

現病歴
 
10日前、立っていた時に右腰に痛みを感じた。
痛みで眠れず、どの体勢になっても痛みが緩和されない。
右足にしびれがある。つま先が上がらない、踵歩きができない。
 
昨日、整形外科を受診。レントゲンでは腰の骨が減り、椎間が減少し,
ヘルニアが神経を圧迫している可能性があると診断された。
 
病院ではリハビリとして、21-22㎏の重さで牽引、
マイクロ波で10分ほど温めている。
ロキソプロフェン、レパミド、メチコバールを服用している。
 
現在、眠れないほどではなくなった。
笑う、咳をする、くしゃみでは痛みは感じない。
仕事も可能、歩くとまぎれるが、じっとしていると痛みを感じる。
歩いて途中で休むことはない。また休んで症状が消えることはない。
 
痛みは右臀部、右大腿外側、右下腿外側(腓骨に沿って)
しびれは、右脛骨外側、右足関節前面(やや外側)、右拇指にある。
腰にはあまり痛みを感じない。右つま先があがらないことに
不安を感じる。
 

身体診察

感覚障害:右拇指のみ
MMT:1-2(関節運動は多少起こるが、重力を除去しても可動域全域ではない)
 
右腰椎椎間関節、臀部など坐骨神経の走行に沿って
複数個所に圧痛、下肢への放散痛が認められた。
 
足背動脈、後脛骨動脈の拍動は触知可

診断と根拠
腰椎椎間板ヘルニア

・坐骨神経に沿った痛み・しびれ
・間欠跛行がない

方針
 
・痛みとしびれが強いうちは極力安静に。
・痛みとしびれが取れてきたら、麻痺に対するリハビリを行っていく。
 
初診
 
右第3.4.5腰椎椎間関節にステンレス鍼40㎜-20号、
梨状、上殿に50㎜-25号で置鍼20分。
軽刺激から始める。

 
第2回(7日目)
 
畑で草刈りや、肥料をまく作業を2時間ほど行ったとのこと。
痛みとしびれがあるうちは
極力安静をお願いするが、
畑作業は待ってくれないこともあり、必要最低限でお願いをする。
 
治療は前回の内容に、長拇指伸筋に鍼通電を行う。

 
第3回(14日目)
 
MRIを撮り、第1.2腰椎が左に、第4.5腰椎が左右にヘルニアが出ていると
医師に診断された。
 
<痛み>
・右臀部外側に時々鈍い痛み
・右大腿外側は痛みがなくなる
・右下腿外側に時々鈍い痛み
 
<しびれ>
・右脛骨外側は軽減
・右足関節前面(やや外側)はかなり軽減
・右拇指は軽減
 
痛み、しびれについては総合的にPain scale 10→3
ご家族で車による小旅行をしたが、意外と大丈夫だった。
 
治療:臀部の鍼を60㎜-25号に変更。長指伸筋に鍼通電
下腿前面に電気ていしん。足関節の背屈運動を他動で行う。

第4回(21日目)
 
ヘルニア発症時から仕事内容が変わり歩くことが多くなり
(13000歩/日)、
一時的に痛みが強くなることがあった。
足関節の麻痺は前回より3割ほど良い。
 
第6回(28日目)
 
職場の理解を得て、歩く量が少なくなり、痛み・しびれが軽減された。
まったく痛くない日もあった。痛みとしびれが無いときに
足関節背屈のリハビリ運動をしていただく。
治療間隔を2週間に1回にあけていく。
 
第8回(42日目)
 
仕事量が通常に戻り、再び13000歩/日歩くことになったが、
痛みはない。畑作業も
工夫をしながらできている。

リハビリは抵抗を加えて負荷も回数も徐々に増やす。
患者さん自身もトレーニング方法を考案され、
負荷や回数を数値化し、内容をお互いに確認する。

 
第9回(58日目)
 
右足関節の背屈運動時の瞬間的な力はかなりついている。
一方で複数回行うと
左足関節と比較すると、疲れやすい。
治療間隔を1か月に1度にあけていく。

 
第10回(100日目)
 
重い荷物を車に乗せた時に急性腰痛になるが、
下肢症状はなく、足の背屈力も落ちていない。
急性腰痛に対する治療を行う。
第11回(130日目)
 
右足の背屈は2か月前に比べて、大幅に改善した。
(1.7キロのおもり10回から9.4キロのおもり10回が可能に)
筋力の左右差がほとんど感じられない。
 
前半は下肢の痛み、しびれがあり、お仕事による
負担もあったことから
足関節背屈の麻痺に対する
リハビリに入るタイミングを慎重に見極めました。
 
 
痛み、しびれがあるときは「炎症」があり、「炎症」が引くまでは
あまり動きすぎないようにしていただくのですが、
患者さん自身の活動的な気質や、麻痺のこともあり、
適切な運動量を経過をみながら調整していきました。
 
初診時から1か月が経過したころ、仕事量が減り、
痛み・しびれが落ち着きはじめたため、

麻痺のリハビリを少しずつ行いました。
回復につれ、治療の間隔をあけていきました。

また患者さん自身がリハビリ方法を工夫するなど、
かなり意欲的に取り組んでいただきました。

その頃から安定した回復期にはいられたように思えます。
 
途中、急性腰痛がありましたが、早期に回復しました。
麻痺は3か月前後で筋力の左右差がほぼない状態になりました。
 
まとめ
summary
最初に書きましたが、この患者さんは、以前の症例である
「腰椎椎間板ヘルニア-麻痺を伴った症例」
ご覧になり遠方からお見えになりました。
 
症例とご自身の症状が似ていたことが来院動機となりました。
特に麻痺の回復可能性についての部分が大きかったようです。
 
痛み・しびれだけでも大変なところ、
今まで自分自身の意思で動いていた足が動かないのは
相当なショックです。
 
痛み・しびれは程度の差がありますが、多くの方が経験されています。
一方、麻痺はほとんどの方にとって経験のない症状です。
 
初診時だけでなく、その後もそのショックは簡単には消えず、
なかなか足が思うように動かない
現実に直面すると、
本当に動くようになるのかと思われていたことでしょう。
 
回復に一定程度の時間が必要と説明されていても、
回復が緩やかな時や停滞した時には誰しも不安になります。
 
そのような時に、同様の症状の患者さんの回復経過や
日常生活の工夫などが大きな支えとなります。
(患者さんの個人的な情報はもちろん話しません)
 
この患者さんも本当にリハビリには意欲的でした。
 
リハビリや鍼灸で現実に回復していく事実と、他の患者さんの
症例が患者さんの回復期間を支えてくれました。
 
今後も記録をとり、丁寧に症例を積み重ねていきたいと思います。
 
 
 
 
 

腰椎椎間板ヘルニア-適切な過ごし方

過ごし方

 

「ヘルニアになった時に、どう過ごせばいいの」

 

  • 本当にヘルニア?
  • ヘルニアになったら運動したほうがいいの?
  • いつまで安静にしていればいいの?
  • どんな姿勢で休めばいいの?
  • 回復にどのくらいの期間がかかるの?

 

腰椎椎間板ヘルニアによる「坐骨神経痛」は足の痛み、
しびれが「強く」出るのが特徴です。


症状が強いため、不安も強く、様々な質問が寄せられます。
当院でよく聞く質問と、それに対する回答を書いています。

 

本当に「腰椎椎間板ヘルニア」?

一方で、時おり「ヘルニアなんです」とスタスタと
歩いてお見えになる患者さんがおられます。

「ヘルニア」にしては随分軽そうにみえるので、
よく話をきいてみると、
病院で「ヘルニアですね」と言われたものの、
「坐骨神経痛」などの下肢症状もなく、しゃがんだり、
たちあがったりの動作もそれほど制限がないことがよくあります。

これはいったいどういうことなのでしょうか。

 

「腰椎椎間板ヘルニア」の画像所見と臨床症状

画像所見で「ヘルニア」が認められても、無症状の方が
一定数おられることがわかってきています。

以前NHKでも検証されていましたのでご覧になられた方も多いと思います。

これは画像所見に意味がないということではなく、
画像所見でヘルニアが認められても、
一方は強い坐骨神経痛に苦しむ方、
もう一方は少し腰が重いかなと感じる程度の方と、
大きく分かれてしまうということです。

画像所見が臨床症状と一致しない例と言えます。

「坐骨神経痛」という下肢症状、前かがみなどで増悪すること
、咳、くしゃみでひびくことなどの臨床症状と画像所見が一致して
ヘルニアの可能性が強くなります。

画像所見だけでなく、臨床症状を病歴で確認することが重要と言えます。

画像診断だけでなく、症状が本当に「腰椎椎間板ヘルニア」と
一致しているのかも含めて、病態把握による診断と適切な対応は
常につながっていると感じています。

前置きが長くなりましたが、ここでの「腰椎椎間板ヘルニア」は
坐骨神経痛などの臨床症状がある方を対象としています。

 

「腰椎椎間板ヘルニア」とは

「腰椎椎間板ヘルニア」は腰、臀部、下肢へとつながったようなしびれ
、痛みである神経症状(坐骨神経痛)が典型的です。

発症時において、患者さんは動作時だけでなく安静時も症状があり、
やっとのことで来院され、足を引きずっておられたり、
お話を伺っている時もその表情は相当つらそうです。

坐っているのもつらく、立ち上がるのも痛みの恐怖でおそるおそるです。
その症状の強さから、仕事を休まざるを得ないことも珍しくありません。

 

 

toilet

 

「尿がでない、出にくい場合はすぐに病院を受診して下さい」

特に尿が出にくくなったりするときは、すぐにでも病院を受診する必要があります。

膀胱につながる神経に問題がある可能性が考えられるからです。

当院にお見えになる患者さんで、上記のような強い症状をお持ちの方は年に1.2名です。
尿が出にくいなど、病院の受診を最優先する症状の時は、
鍼灸治療の前にすぐに病院受診を促しています。

 

「腰椎椎間板ヘルニア」になったときの過ごし方

今までヘルニアの患者さんを診てきて、一定の適切な過ごし方があると感じています。

  1. 絶対安静(一般的には痛いほうを上にして横向きで休みます)
  2. 動いて治るという性質のものではないこと
  3. 長時間同じ姿勢でいないこと

 

「急性腰痛」で「下肢症状」があるときは安静

1の「絶対安静」についてですが、
「急性腰痛においては安静にしすぎることが痛みの持続期間を長引かせることがある」
という研究があります。

しかしながら「腰椎椎間板ヘルニア」と「急性腰痛」は
同じ腰の痛みはありますが、下肢症状の有無などの病態の違いがあります。

腰椎椎間板ヘルニアの時は、痛みが少し落ち着くまでは
安静にされることをお勧めします。

ヘルニアの好発年齢である20-30代の男性では、高齢者のように
安静によって生じる筋力低下からの歩行困難になる可能性は限りなく低いと思います。

 

「運動」はタイミングが大切

2では「動いて治る性質のものではないこと」を
ぜひ知っていただきたいと思います。

「腰の筋力が弱っているからだ」「腹筋を鍛えれば腰痛を防げる」と思い、
運動でなんとか治そうとされた方もいました。

結果的に症状が強くなったことがほとんどでした。
特に少し良くなってきた時に「運動」を始める方が多く、
「運動だけは今は時期ではありません」と伝えています。

筋力を鍛えることは悪くありませんが、発症時や症状が続いているときに
「運動で痛みをとる」というのは適切なタイミングとは思えません。

症状のないときに「予防」の観点でなさることには意味があるかもしれません。

 

3の「長時間同じ姿勢でいないこと」はヘルニアに限らず、
腰痛全般の予防として共通することです。

腰椎椎間板ヘルニアは症状が激しいため、とにかくあらゆることを
試したくなる方が多いように思えます。

お気持ちはわかりますが、何かをすることで悪化し、
症状のある期間が長くなることもあります。

腰・下肢に症状があるものは「腰椎椎間板ヘルニア」以外にもたくさんあります。
動いた方がいいものもあれば、動かないほうがいいものもあります。

病態の違いは過ごし方の違いにつながると思います。

 

ヘルニアの急性期の鍼灸施術

痛みが強い急性期に鍼灸治療を希望される方には、
ごくごく弱い、また浅い鍼しかしておりません。

強い刺激の鍼は必要がないと考えています。
それは治療効果の観点からだけでなく、安全面や予後の観点からも
それが妥当だと判断しています。

急性期の腰椎椎間板ヘルニアの場合は 急性腰痛(ギックリ腰)の時ほど、
劇的な鍼灸治療の効果は期待できませんが、それでも楽になる方はおられます。

しかしながら患者さんからは、急性期はそれなりに強い痛み止めなどもほとんど効かない、
それくらい症状が強いというお話もよく聞きます。
実際に私もそのように感じています。

病院での受診も終え、緊急性のある症状がなく、それでもまだ腰下肢に痛みや
しびれ、違和感などが残るといった患者さんが比較的多くおみえになられています。

とりわけ、臀部や下肢症状がなかなか改善せず、薬で変化が見込めない方が中心です。

あまり長期にわたって症状が続くと、特に末梢のしびれなどは
症状が固定化することがあります。

こういった症状に対しては、経験的に早期に治療をすると、
しびれの程度・範囲などが少なくなるように思えます。

 

time

 

 

「痛みの記憶」が落ち着くには時間が必要です 

ヘルニアの患者さんを拝見していると、急性期の激しい痛みの記憶から、
しばらくの間は強い不安があるように見受けられます。

実際の「痛み」や「しびれ」はほぼ消えていても、
「また再発するんじゃないか」「動いても大丈夫だろうか」
「予防のために運動やストレッチをしていいのだろうか」など様々な心配があります。

こういった不安や心配については、治療者側が経過を拝見して
「もう大丈夫ですよ」と安心や、保証を提示してもその効果は限定的です。

時間の経過とともに、患者さんがすこしずつ生活の中で
自信をつけていく機会が増えていくにつれて、不安も消えていくようです。

たとえば、「友人と外出して、思いのほか歩いたけどなんともなかった」
「旅行後も痛みがでなかった」「運動量が徐々に増やせている」など

こうした経験が痛みの記憶を徐々に減らしてくれます。

逆に自宅に閉じこもっていると、外部からの刺激が少なく、
身体にばかり意識がいってしまいますので、
少しずつ外に出られることをおすすめしています。

ヘルニアの急性期の治療が1か月から2か月以内に終了して、
それからちょっとした腰や足に対する違和感などで3.4か月に1回くらいの割合で
来院されることはありますが、患者さんが自信をつけてくると、
それもほとんどなくなります。

ヘルニアの「痛みの記憶」に対しては、適切な過ごし方と一定の時間が必要で
あることを知っていただきたいと思います。

 

 

 

腰椎椎間板ヘルニア-右足に力が入らない-麻痺を伴った症例

麻痺を伴う腰椎椎間板ヘルニア

 

腰椎椎間板ヘルニアで右足に力が入らない

痛みだけでなく、自分の意志どおりに体の一部を動かせなくなることは、
かなり不安が強くなると思います。

腰痛椎間板ヘルニアの患者さんで「痛み」「しびれ」を訴える方は多いのですが、
「麻痺」については鍼灸院での頻度はあまり多くありません。


ヘルニアによる麻痺は中枢性の麻痺と違って、
時間はかかりますが少しずつ回復していくことが多いように思います。

今回は麻痺を伴った腰椎椎間板ヘルニアの鍼灸症例をご紹介いたします。

 

ヘルニアに関してはこちらもご参考になさってください。

 

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております。

 

麻痺を伴う腰椎椎間板ヘルニアの鍼灸治療症例

 

患者:40代、女性、右足のしびれと麻痺

説明モデル腰下肢痛で長患いの知人がいる。
      将来わたしもなるのではという不安がある。
      手術はしたくない。

受診動機:痛みやしびれもつらいが、足の麻痺にショックを受けている。

現病歴

3週間前に右坐骨神経痛になる。原因はよくわからない。
すぐに近隣の整形外科を受診。

レントゲン、MRIでL5/S1の腰椎椎間板ヘルニアと診断。
仙骨神経ブロックを2度受ける。

1週間前に2度目の受診をし、右足首が上に上がらないことを医師に伝えたところ、
マヒがあるので一応大きな病院へ紹介をされ、数日前に受診した。

医師からは発症後3日以内でないと、ヘルニアによる麻痺の手術は
効果が未知数と言われる。

発症から3週間経過しての手術は結果も保証できないとのことだったので、
鍼灸での治療をすることに決めた。

この3週間は右腰、臀部、大腿後側、下腿前側、母趾にかけて
痛みとしびれが強かった。

現在は、右臀部、腓骨周囲、足首、母趾に立位、歩行、
仰向けでで特に痛みとしびれを感じる。
母趾の伸展、足関節の背屈ができないことがつらい。

座位では足関節背屈可だが、立位では不可。一昨日まで座薬を使用、
昨日から使っていない。ロキソニンを服用(2回/日)。

今朝は調子が良いほう。家事も何とかやっている。
洗濯物を干すのに階段を上がるのが大変。鍼灸治療経験あり。

 

一般健康状態:喫煙・飲酒なし。

面接バイタルサイン:食欲(正)、睡眠(横向きなら眠れる)、
体重変化なし。発熱なし

既往歴腰椎椎間ヘルニア(4年前)

 

身体診察

腰部圧迫での放散痛はない。梨状、陽陵泉、足三里の圧迫による放散痛はある。
右足関節背屈5度程度、母趾はほとんど動かない。
爪先立ちは可、踵立ちは不可。SLRは陰性

鑑別診断

総腓骨神経損傷:総腓骨神経の上位である臀部や腰部にも
症状があったため除外  母趾以外の足指に症状がない

 

診断腰椎椎間板ヘルニア

医師は画像などからL5/S1ヘルニアと診断しているが、
踵立ち(L4、L5)ができないこと、知覚障害が母趾(L5)であること、
足関節背屈、足趾背屈(L5)障害がある。

以上からL4/L5のヘルニアと判断した。

 

治療方針

痛みとしびれがとれてきてから、筋力低下に対するリハビリを始める方針。
タイミングが早すぎる運動でヘルニアが悪化しないように慎重に進める。

患者さん自身も、自分でできることは何でもするとリハビリに意欲的であった。

 

 

鍼灸治療とその経過

 

鍼灸治療とその経過

第1回

右上側臥位にて、右第4.5腰椎椎間関節、仙腸関節、
大腸兪、関元兪、梨状、上臀、足三里、陽陵泉に置鍼20分

 

第2回(4日目)

初診時と比較して、立位での痛みは減少。


歩き始めは大丈夫だが100mほどで動きにぎこちなさがでて、
さらに歩くと臀部、腓骨、足関節周囲がつっぱってくる。

ロキソニンは2回/日服用。足三里、豊隆の圧迫で足関節、母趾にひびく。
治療は前回同様。

 

第3回(8日目)

歩行時の痛みが減り、腓骨周囲の痛みもほぼない。ロキソニンもやめた。
現在は足の甲のしびれ、母趾のしびれが残っている。

足関節の背屈(座位のみ可、立位時不可)では初動はいいが、力がまだなく、
左右差があり、MMTは2。前脛骨筋、長腓骨筋、長母趾伸筋にパルス15分を行う。

 

第4回(15日目)

足首の感覚は正常になる。歩行時の痛みはないが、
階段でののぼりはぎこちなさを感じる。足全体を持ち上げている感じ。
つまずきはない。

腓骨下部の触診で母趾にしびれを誘発する。母趾の背屈動作は力がないが、
足関節は背屈時の可動域において左右差が少なくなる。
右腓骨筋下部にパルスを追加。長母趾伸筋のパルスは刺激を感じるようになった。

 

第5回(22日目)

中距離、長距離の歩行になると足がパタンパタンしてくる。
片足立ちが10秒ほどしかできない。

足関節、母趾のリハビリを当院で方法を伝え、
各100回、自宅で毎日行ってもらう。

 

第6回(29日目)

片足立ちが20-30秒に。入浴後踵立ちが少し可能。
歩いていると股関節がブランブランする感じ。

ガクッとならないが、なりそうな感じ。長距離、階段がまだ大変。
少しずつ歩いてもらうことにする。

 

第7回(36日目)

細切れに1週間で10㎞歩いた。かなり歩けたことで自信がついたとのこと。
足のパタンパタンが減る。階段もあまり意識しないようになる。

ただ、物をもつと歩きにくい。以前から訴えている、足の「パタンパタン」、
股関節の「ブランブラン」の意味を考え、下肢全体のMMTを計測。

右下肢外転が著明に弱いことがわかった。中臀筋の筋力強化のため、
下肢外転運動を自宅でやっていただくことにした。

 

第8回(47日目)

臀部の筋力トレーニングは腰に負担がかかり中止。
歩行中心のトレーニングに変更をする。

 

第9回(55日目)

ショッピングセンターで3時間歩けたり、趣味のスポーツもできてきたので、
1か月に1回の受診間隔で様子をみる。

 

第11回(85日目)

足の「パタンパタン」、股関節の「ブランブラン」とする感じがなくなり、
気になるのは拇指の疲労感程度、歩行もできている。
長拇指屈筋への治療を加える。

歩行訓練で臀部の筋力が回復してきたと考えられる。

 

第12回(115日目)

足腰ともに調子が良い。拇指は歩くと少し疲れるが、さほどではない。
拇指の感覚も少しずつではあるが戻ってきた。足関節の背屈は左右差がほとんどない。

外が暑いので、自宅の階段を使って歩くトレーニングの代わりをしている。
症状と日常生活動作が落ち着いているので、治療を終了とした

 

 

症例のポイント

今回の症例では、「痛み」「しびれ」を最優先にし、
「麻痺」のリハビリのタイミングについては慎重に判断した。

「腰椎椎間ヘルニア」で痛みが強いときに運動をすると
悪化することが多いからです。

治療としては、鍼灸では腰臀部へ鍼、長母趾伸筋への鍼をメインに、
足関節のリハビリ、歩行、家庭用低周波治療器の活用などを行いました。

反省点は患者さんの訴える「股関節のブランブラン」が
臀部の筋力低下を示唆する病歴であり、
それについてはもう1.2回早めに気づくべきでした。

「麻痺」の治療は時間がかかりますし、確かに未知数のことも多いと思われます。
治療開始のタイミングと治療の中身は大変重要ですが、中枢性の麻痺ではないため、
少しずつ良くなっていく類のものと思っています。

今回は患者さんの意欲が、リハビリの質と量を支え、
特に歩行距離が伸びてきたことが自信につながり、
良い結果につながったのではないかと考えています。

腰椎椎間板ヘルニア 麻痺の回復には運動が有効です

 

腰椎椎間板ヘルニアでは最初は可能な限り安静に(鍼灸症例)

腰椎椎間板ヘルニアと安静

 

腰椎椎間板ヘルニアは発症初期は可能な限り安静にしてください

腰椎椎間板ヘルニアの発症初期は痛みが強く、
安静にしていただくことを強くおすすめしています。

症例を通じて腰椎椎間板ヘルニア対する鍼灸施術をご紹介します。

 

*下記症例は患者さんが特定されないよう内容に変更を加えております

 

患者 
2年前に腰椎椎間板ヘルニアの手術をした53歳、男性が
右腰下肢の痛みを訴えて往診を希望した。

自分では、コルセットをしめすぎたのが原因だと思う。
以前に腰椎椎間板ヘルニアになった痛みと同じ気がする。

 

受診動機   
足腰が痛くなることで、父の介護に支障をきたしているから。

 

現病歴
若いときから腰痛に苦しみ、近隣の病院で痛み止めの注射などを
受けるがよくならなかった。

2年前に大学病院で 「腰椎椎間板ヘルニア」と診断を受け、
骨を削る手術を受けた。
それ以降、腰の痛みは再発していない。

今回、3日前から急に右腰部から右下肢後側にかけて痛みとしびれが始まった。
コルセットをきつくしめすぎたのが原因だと思う。

10年前から寝たきりの父を介護している。
床ずれを悪化させない為、体位変換を行っているが、
前かがみにならないよう注意しているので、介護が原因とは思わない。

立ち上がるときに電気が走るような痛みがあり、
大腿後側から下腿後側、そして足底へとつながった
しびれと痛みを感じる。

腰より、足のほうが痛い。

坐ってすぐは痛まないが、10分くらいすると、腰が痛み始める。

朝、布団から起き上がるのにそれほど時間はかからない。
動いてしばらくしても、楽にはならない。
咳、くしゃみで痛みが再現する。足先に冷感がある。

患側(右)を上にして横向きになるのが楽である。
鎮痛剤(ナロンエース)を服用し、湿布を貼っているといくらか楽になる。

夜間痛、安静時痛、原因不明の体重減少はない。
発症後3日間、入浴し、湯船に浸かっている。

 

 一般健康状態

食欲(正)、睡眠(父の介護のために、夜はあまり寝ることが出来ない)
発熱なし。タバコは吸わない。アルコールは嗜まない。排便、排尿は正常。 

既往歴・家族歴

他に特記することなし。

身体診察

身長 165cm 体重 68㎏  
BMI 22 血圧 計測していない 

第2-第5腰椎上に手術痕あり。腰部に強い圧痛はない。

下腿後外側に圧痛あり。

診断  腰椎椎間板ヘルニア

根拠  

腰から下肢にかけてデルマトームに沿った痛み、神経根症状がある。

下腿まで痛みが放散している。

咳、くしゃみなどが響く。

腰痛よりも下肢痛の方が強い。

徐々にではなく、急に発症している。(発作性)

鑑別診断

1:腰部脊柱管狭窄症:急性に発症しているので除外

2:仙腸関節障害:デルマトームにそった痛みがあるため除外

3:梨状筋症候群:腰痛を伴っているため、除外。

 

腰椎椎間板ヘルニア 鍼灸治療症例

 

腰椎椎間板ヘルニア鍼灸施術とその経過 

主訴である腰下肢の症状軽減を治療目標とした。

 第1回

初診であることや、ヘルニアの可能性が高いため、
軽刺激で様子をみる。 

全てステンレス鍼40㎜-18号を使用。患側上位の側臥位にて
L4.5椎間関節、 大腸兪、関元兪 上胞肓、殿圧に直刺、15分置鍼。

坐位にて外大腸に単刺。 灸治療はせず

生活指導は安静を優先し、動いて治るものではないことを伝えたが介護の為
難しい様子であった。お尻が落ち込む車のシートに注意すること。
入浴は湯船厳禁。

ヘルニアは時間がかかり、治療には1ヶ月ほど要することを伝えた。

第2回(3日目)

3日前に比べ、楽にはなっている。大腿部の痛み、しびれはなくなった。
一方で、下腿後側から足底のしびれ、足先の冷感に変化はない。

起床時の立ち上がりで、腰に電撃様の痛みがはしる。
前回治療後、車を1時間半運転したあとに、再度痛くなった。
SLR、Crossed  SLR、左右共に、陰性。

腹臥位にてL3,4,5椎間関節、大腸兪、関元兪、上胞肓、殿圧、
足三里、陽陵泉,下腿圧痛部に置鍼。下腿のみ灸頭鍼。

腰部は直接灸各1壮。坐位にて外大腸に単刺。
前屈、後屈、足踏みで腰に痛みは感じない。

第5回(9日目)

下腿の痛み、しびれは変わらない。
車の運転が困難な為、タクシーを利用したとのこと。

トイレに行くときの立ち上がり、歩行は初診時に比べ早くなっている気がする。

治療部位は変更せず。大腸兪、関元兪、殿圧は60㎜24号で直刺、6cm刺入。
置鍼15分。直接灸を3壮。L4,5棘側外方5㎜に40㎜-18号で単刺。

安静にしていただくため、ヘルパーを依頼することを提案したが、
過去にヘルパーに来ていただいた経緯から拒否された。

最終的には、介護があり、安静にはなかなかできなかったが、
約1か月半で腰下肢症状については消失した。


ベッドの右側からばかり体位変換を行っていたようなので、
左右交互にバランスよくされることを提案し終了した。

 

症例のポイント

診断において、病歴ではヘルニアを第一に疑いましたが、
年齢、理学所見からはヘルニアの可能性が低く、
悩ませる症例でしたが、経過からもヘルニアの
可能性が高かった症例です。

今回の症例では患者さんが腰痛の原因は
「コルセット」と考え、
「介護」とは
考えていないことがあります。

「介護」が原因とは必ずしも言い切れませんが、
10年という長い期間、繰り返す腰下肢症状などからも
腰に負担がかかっていることがわかります。

患者さんが考える「原因」と、
治療者が考える「原因」に違いがある場合は、
患者さんの考えを尊重しながらも、
過去のヘルニアの患者さんの経験なども
お話して理解を得られるようにしています。

しかしながら、現実問題として
「介護」という避けられない状況があります。


どのように原因を認識してもらい、
安静を保っていただくかについての難しさは感じました。

少なくとも、炎症が強い時期の入浴は避けていただくようお願いし、
納得いただけました。できることから、はじめていくしかありません。

以前に、緩解経過をたどっていたヘルニアの患者さんが、
安静を徹底できず悪化した経験があること。

ヘルニアは椎間関節性腰痛のように短期で治療効果が
現われない病態であること。

以上から、ヘルニアの治療では病態と生活指導(安静)の十分な説明と、
患者さんの理解が重要であると再認識いたしました。

 

高齢者の腰椎椎間板ヘルニア 高齢者特有の問題点

高齢者の腰椎椎間板ヘルニア 高齢者特有の問題点

 

高齢者の腰椎椎間板ヘルニアは腰下肢症状以外にも
目を向ける必要があります

 

 腰椎椎間板ヘルニアは若年男性に多く発症する腰の病気です。
今回は高齢者の腰椎椎間板ヘルニアの症例を紹介いたします。

高齢者は腰下肢症状だけでなく、
症状による活動量の低下、不安などにも目を向ける必要があると考えます。

*下記症例は患者さん個人が特定されないに変更をよう加えております

 

高齢者の腰椎椎間板ヘルニア-鍼灸治療症例

 

患者:70代、女性

主訴:左腰、殿部、大腿後側、下腿外側、外くるぶしの痛み、しびれ

受診動機

変形性膝関節症の注射を先月強いものに変えたところ
膝の痛みが強くなった。

その1週間後に左腰下肢症状が出たので、怖くなった。その後、注射はしていない。

病歴

1年前から変形性膝関節症に対して週1回の注射を整形外科で受けている。
状態が良くならないので、
1か月前に膝の注射を変更したところ、
膝の痛みが増した。

3週間前から左腰、臀部、大腿後側、下腿外側、
外くるぶしに痛みとしびれが出た。足の指には症状はない。

膝の注射のせいで、今回の腰下肢症状がでたと思っている。
怖くなったのでその後、注射はしていない。
痛み止めの薬、湿布などは使っている。

現在、膝は注射直後よりは痛くないが、動作時の痛みは変わらず続いている。
腰下肢の症状は三週間前と変わらず。

つらい。このまま歩けず、寝たきりになってしまうことが怖い。

横になっていると症状は少し和らぐ、動きはじめや歩行中はつらい。
前かがみになったり、座ったりしても楽にはらない。
後ろに反ると少し痛む。お小水、お通じに問題はない。

夜間痛なし、発熱なし、体重減少、腹痛なし。大きな病気の既往なし。

腰下肢症状がでてからは、友人との趣味の会合も休み、
ほとんど外出していない。
独居で、食料品も宅配を利用している。
家事はなんとか自分でできている。食欲あり、睡眠は正常。

テレビ番組で内臓が原因で起こる腰痛もあると聞き、それも心配。

 

身体診察

腰椎椎間関節3.4.5では圧痛はあるが、下肢への放散痛はない。
臀部、梨状では下肢への放散痛がある。

SLR,Crossed SLR ともに陰性

 

除外鑑別

 腰部脊柱管狭窄症:間欠跛行がないこと。前かがみ、座位でも楽にならないこと
 椎間関節性腰痛:膝から下に下肢症状がある
 悪性腫瘍など:1か月前から痛み、しびれの程度が悪化していないこと。
 (進行性ではないこと)、
体重減少がないこと。夜間に痛みがないこと

 心因性:食欲、睡眠が正常。腰下肢症状が神経根に沿ったものであることなど矛盾がないため。

 

診断

 腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛(L5)
 ・高齢者のヘルニアでは後屈で痛みが再現すること。
 ・神経根に沿った下肢症状があること。
 ・高齢者の腰椎椎間板ヘルニアではSLR,Crossed SLRなどが陰性になることがり、
  若年者とは違いがあること。
 ・前屈ではなく、後屈で症状が誘発されることもあるのが高齢者のヘルニアの特徴のひとつであること。

 

治療とその経過

まず、膝の注射と腰下肢症状との関連や、寝たきりなどの不安が強いため
以下のことを説明いたしました。

①膝の注射による痛みと今回の腰下肢症状は、タイミングとしては
前後関係で考えてしまいそうですが、因果関係は可能性としては低いこと。
なぜなら膝への注射で腰や臀部に症状がでることは考えにくいから。

②椎間板ヘルニアは、自然と吸収され時間の経過とともによくなっていくこと、
悪化しないこと。
鍼灸治療では約1か月ほどの治療期間となること。

③あまり安静にしすぎていると、腰だけでなく、身体や心にもよくないこと。
運動が及ぼす様々な効能を説明。

④内臓からの痛みについては、病歴(夜間の痛み、体重減少がないことなど)から
可能性は低いことを伝えるが、心配であればかかりつけの
内科医に確認してくださいと伝える。

⑤変形性膝関節症の症状と今回の症状は原因が違うので、
それぞれの症状の経過が違うことを伝えた。

 

 初診

左上側臥位にて、寸6-4番鍼にて第4.5椎間関節、大腸兪、関元兪、上胞肓、
梨上、足三里、陽陵泉に1センチ刺入、置鍼15分。
お灸は以前に他院で合わなかったため、鍼のみで治療を行う。

2回目(5日目)
治療後は痛みも減り、よく眠れた。痛み、しびれなどは10→8 
内科で内臓性の腰痛ではないかをご自身で確認をとられて、
画像所見からもヘルニアだと診断される。

3回目(10日目)
痛みがましになったため、近隣を少し歩き始める

4回目(15日目)
布団を干したり、掃除機をかけてもそんなに気にならなくなってきた
腰下肢症状に変化がみられたので、もう歩けなくなるのではないかという不安は減り、
膝のほうに関心が向き始める。

経過が順調なので、治療内容に変化はなし。

5回目(22日目)
痛み、しびれなどは10→3-4となる。友人との趣味の会合を再開。
変形性膝関節症の治療も並行。

膝のセルフケアをしていただく。
(熱を持っているときは冷やす、動きはじめは軽く関節をゆらしてから、動き始めるなど)

6回目(29日目)
腰下肢の痛み、しびれは10→1となる。
変形性膝関節症の治療に移行する。日々の散歩を再開、暑さを避けるため早朝に。
膝のアイシングを覚えていただいてから、熱を持たなくなり、痛みも軽減してきた。

高齢者の腰椎椎間板ヘルニア 症例を終えて

高齢者の腰椎椎間板ヘルニアの症例を終えて

 

腰下肢症状は、1か月で落ち着きました。

変形性膝関節症については、変形が強いながらも、
アイシングや散歩中心の運動、膝のお皿のモビライゼーションなどを
覚えていただき、コントロールできつつあります。

独居の高齢者は、今回のようなことがきっかけに、ひきこもってしまうことがあります。
筋力低下だけではなく、社会とのつながりも急激に減ってしまうことで
心の問題も危惧されます。

症状に対する不安や、孤独感により心身に悪影響を与えることがあります。

「腰下肢症状の痛みが減ってきた」という実感が不安を減らしてくれました。

また「安静にしすぎるのはむしろ身体に有害」という、
患者さんにとっては聞きなれないことを理解していただくのには少し時間が必要でした

私の言葉だけでなく、「腰痛の専門書や」「一般向けの解説書」などを
実際にみていただくことで、この方についてはご納得いただき、
ご自身の病気と日常生活のケアについての理解を深めていただくことができました。

その結果、アイシングなどを上手に使いながら、散歩を再開され、
友人との会合も再開できました。なんとか日常生活への
道筋はつけることができたかと思っています。

 

 参考文献

・「高齢者の腰痛 診断-問診・診察のポイント」 Monthly Book Orthopaedics 22-1-8 2009
・「高齢者腰椎椎間板ヘルニアの臨床所見と病態」 日本腰痛会誌 11:137-142 2005
・「腰痛」 菊池臣一 医学書院
・「ひざ痛を治す 正しく動かす 元気に歩く」 NHK出版