腰椎椎間板ヘルニアでは最初は可能な限り安静に(鍼灸症例)

腰椎椎間板ヘルニアは発症初期は可能な限り安静にしてください

腰椎椎間板ヘルニアの発症初期は痛みが強く、安静にしていただくことを強くおすすめしています。

症例を通じて腰椎椎間板ヘルニア対する鍼灸施術をご紹介します。

*下記症例は患者さんが特定されないよう内容に変更を加えております


患者 
2年前に腰椎椎間板ヘルニアの手術をした53歳、男性が右腰下肢の痛みを訴えて往診を希望した。自分では、コルセットをしめすぎたのが原因だと思う。以前に腰椎椎間板ヘルニアになった痛みと同じ気がする。

受診動機  
足腰が痛くなることで、父の介護に支障をきたしているから。

現病歴
若いときから腰痛に苦しみ、近隣の病院で痛み止めの注射などを受けるがよくならなかった。2年前に大学病院で 「腰椎椎間板ヘルニア」と診断を受け、骨を削る手術を受けた。それ以降、腰の痛みは再発していない。

今回、3日前から急に右腰部から右下肢後側にかけて痛みとしびれが始まった。コルセットをきつくしめすぎたのが原因だと思う。10年前から寝たきりの父を介護している。
床ずれを悪化させない為、体位変換を行っているが、前かがみにならないよう注意しているので、介護が原因とは思わない。立ち上がるときに電気が走るような痛みがあり、大腿後側から下腿後側、そして足底へとつながったしびれと痛みを感じる。腰より、足のほうが痛い。
坐ってすぐは痛まないが、10分くらいすると、腰が痛み始める。
朝、布団から起き上がるのにそれほど時間はかからない。動いてしばらくしても、楽にはならない。
咳、くしゃみで痛みが再現する。足先に冷感がある。患側(右)を上にして横向きになるのが楽である。

鎮痛剤(ナロンエース)を服用し、湿布を貼っているといくらか楽になる。夜間痛、安静時痛、原因不明の体重減少はない。発症後3日間、入浴し、湯船に浸かっている。


 一般健康状態
食欲(正)、睡眠(父の介護のために、夜はあまり寝ることが出来ない)発熱なし。タバコは吸わない。アルコールは嗜まない。排便、排尿は正常。 

既往歴・家族歴
他に特記することなし。

身体診察
身長 165cm 体重 68㎏BMI 22 血圧 計測していない 第2-第5腰椎上に手術痕あり。腰部に強い圧痛はない。
下腿後外側に圧痛あり。

診断  
腰椎椎間板ヘルニア

根拠  
①腰から下肢にかけてデルマトームに沿った痛み、神経根症状がある。
②下腿まで痛みが放散している。
③咳、くしゃみなどが響く。
④腰痛よりも下肢痛の方が強い。
⑤徐々にではなく、急に発症している。(発作性)

鑑別診断
1:腰部脊柱管狭窄症:急性に発症しているので除外
2:仙腸関節障害:デルマトームにそった痛みがあるため除外
3:梨状筋症候群:腰痛を伴っているため、除外。

腰椎椎間板ヘルニア鍼灸施術とその経過 
主訴である腰下肢の症状軽減を治療目標とした。

第1回
初診であることや、ヘルニアの可能性が高いため、軽刺激で様子をみる。 全てステンレス鍼40㎜-18号を使用。患側上位の側臥位にてL4.5椎間関節、 大腸兪、関元兪 上胞肓、殿圧に直刺、15分置鍼。坐位にて外大腸に単刺。 灸治療はせず。
生活指導は安静を優先し、動いて治るものではないことを伝えたが介護の為難しい様子であった。お尻が落ち込む車のシートに注意すること。入浴は湯船厳禁。ヘルニアは時間がかかり、治療には1ヶ月ほど要することを伝えた。

第2回(3日目)
3日前に比べ、楽にはなっている。大腿部の痛み、しびれはなくなった。
一方で、下腿後側から足底のしびれ、足先の冷感に変化はない。起床時の立ち上がりで、腰に電撃様の痛みがはしる。前回治療後、車を1時間半運転したあとに、再度痛くなった。
SLR、Crossed  SLR、左右共に、陰性。
腹臥位にてL3,4,5椎間関節、大腸兪、関元兪、上胞肓、殿圧、足三里、陽陵泉,下腿圧痛部に置鍼。
下腿のみ灸頭鍼。腰部は直接灸各1壮。坐位にて外大腸に単刺。前屈、後屈、足踏みで腰に痛みは感じない。

第5回(9日目)
下腿の痛み、しびれは変わらない。車の運転が困難な為、タクシーを利用したとのこと。トイレに行くときの立ち上がり、歩行は初診時に比べ早くなっている気がする。

治療部位は変更せず。大腸兪、関元兪、殿圧は60㎜‐24号で直刺、6cm刺入。置鍼15分。直接灸を3壮。L4,5棘側外方5㎜に40㎜-18号で単刺。安静にしていただくため、ヘルパーを依頼することを提案したが、過去にヘルパーに来ていただいた経緯から拒否された。最終的には、介護があり、安静にはなかなかできなかったが、約1か月半で腰下肢症状については消失した。

ベッドの右側からばかり体位変換を行っていたようなので、左右交互にバランスよくされることを提案し終了した。 

症例のポイント

診断において、病歴ではヘルニアを第一に疑いましたが、年齢、理学所見からはヘルニアの可能性が低く、悩ませる症例でしたが、経過からもヘルニアの可能性が高かった症例です。
今回の症例では患者さんが腰痛の原因は「コルセット」と考え、「介護」とは考えていないことがあります。「介護」が原因とは必ずしも言い切れませんが、10年という長い期間、繰り返す腰下肢症状などからも腰に負担がかかっていることがわかります。
患者さんが考える「原因」と、治療者が考える「原因」に違いがある場合は、患者さんの考えを尊重しながらも、過去のヘルニアの患者さんの経験などもお話して理解を得られるようにしています。

しかしながら、現実問題として「介護」という避けられない状況があります。
どのように原因を認識してもらい、安静を保っていただくかについての難しさは感じました。少なくとも、炎症が強い時期の入浴は避けていただくようお願いし、納得いただけました。

以前に、緩解経過をたどっていたヘルニアの患者さんが、安静を徹底できず悪化した経験があること。ヘルニアは椎間関節性腰痛のように短期で治療効果が現われない病態であることを伝えました。

以上から、ヘルニアの治療では病態と生活指導(安静)の十分な説明と、患者さんの理解が重要であると再認識いたしました。

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