「ヘルニアになった時に、どう過ごせばいいの」
- 本当にヘルニア?
- ヘルニアになったら運動したほうがいいの?
- いつまで安静にしていればいいの?
- どんな姿勢で休めばいいの?
- 回復にどのくらいの期間がかかるの?
腰椎椎間板ヘルニアによる「坐骨神経痛」は足の痛み、しびれが「強く」出るのが特徴です。症状が強いため、不安も強く、様々な質問が寄せられます。
当院でよく聞く質問と、それに対する回答を書いています。
本当に「腰椎椎間板ヘルニア」?
一方で、時おり「ヘルニアなんです」とスタスタと歩いてお見えになる患者さんがおられます。「ヘルニア」にしては随分軽そうにみえるので、よく話をきいてみると、病院で「ヘルニアですね」と言われたものの、「坐骨神経痛」などの下肢症状もなく、しゃがんだり、たちあがったりの動作もそれほど制限がないことがよくあります。
これはいったいどういうことなのでしょうか。
「腰椎椎間板ヘルニア」の画像所見と臨床症状
画像所見で「ヘルニア」が認められても、無症状の方が一定数おられることがわかってきています。以前NHKでも検証されていましたのでご覧になられた方も多いと思います。
これは画像所見に意味がないということではなく、画像所見でヘルニアが認められても、一方は強い坐骨神経痛に苦しむ方、もう一方は少し腰が重いかなと感じる程度の方と、大きく分かれてしまうということです。画像所見が臨床症状と一致しない例と言えます。
「坐骨神経痛」という下肢症状、前かがみなどで増悪すること、咳、くしゃみでひびくことなどの臨床症状と画像所見が一致してヘルニアの可能性が強くなります。画像所見だけでなく、臨床症状を病歴で確認することが重要と言えます。
画像診断だけでなく、症状が本当に「腰椎椎間板ヘルニア」と一致しているのかも含めて、病態把握による診断と適切な対応は常につながっていると感じています。前置きが長くなりましたが、ここでの「腰椎椎間板ヘルニア」は坐骨神経痛などの臨床症状がある方を対象としています。
「腰椎椎間板ヘルニア」とは
「腰椎椎間板ヘルニア」は腰、臀部、下肢へとつながったようなしびれ、痛みである神経症状(坐骨神経痛)が典型的です。発症時において、患者さんは動作時だけでなく安静時も症状があり、やっとのことで来院され、足を引きずっておられたり、お話を伺っている時もその表情は相当つらそうです。坐っているのもつらく、立ち上がるのも痛みの恐怖でおそるおそるです。その症状の強さから、仕事を休まざるを得ないことも珍しくありません。
「尿がでない、出にくい場合はすぐに病院を受診して下さい」
特に尿が出にくくなったりするときは、すぐにでも病院を受診する必要があります。
この場合、膀胱につながる神経に問題がある可能性が考えられるからです。
当院にお見えになる患者さんで、上記のような強い症状をお持ちの方は年に1.2名です。
尿が出にくいなど、病院の受診を最優先する症状の時は、鍼灸治療の前にすぐに病院受診を促しています。
「腰椎椎間板ヘルニア」になったときの過ごし方
今までヘルニアの患者さんを診てきて、一定の適切な過ごし方があると感じています。
- 絶対安静(一般的には痛いほうを上にして横向きで休みます)
- 動いて治るという性質のものではないこと
- 長時間同じ姿勢でいないこと
「急性腰痛」で「下肢症状」があるときは安静
1の「絶対安静」についてですが、「急性腰痛においては安静にしすぎることが痛みの持続期間を長引かせることがある」という研究があります。
しかしながら「腰椎椎間板ヘルニア」と「急性腰痛」は同じ腰の痛みはありますが、下肢症状の有無などの病態の違いがあります。腰椎椎間板ヘルニアの時は、痛みが少し落ち着くまでは安静にされることをお勧めします。
ヘルニアの好発年齢である20-30代の男性では、高齢者のように安静によって生じる筋力低下からの歩行困難になる可能性は限りなく低いと思います。
「運動」はタイミングが大切
2では「動いて治る性質のものではないこと」をぜひ知っていただきたいと思います。「腰の筋力が弱っているからだ」「腹筋を鍛えれば腰痛を防げる」と思い、運動でなんとか治そうとされた方もいました。
結果的に症状が強くなったことがほとんどでした。特に少し良くなってきた時に「運動」を始める方が多く、「運動だけは今は時期ではありません」と伝えています。筋力を鍛えることは悪くありませんが、発症時や症状が続いているときに「運動で痛みをとる」というのは適切なタイミングとは思えません。症状のないときに「予防」の観点でなさることには意味があるかもしれません。
3の「長時間同じ姿勢でいないこと」はヘルニアに限らず、腰痛全般の予防として共通することです。腰椎椎間板ヘルニアは症状が激しいため、とにかくあらゆることを試したくなる方が多いように思えます。お気持ちはわかりますが、何かをすることで悪化し、症状のある期間が長くなることもあります。
腰・下肢に症状があるものは「腰椎椎間板ヘルニア」以外にもたくさんあります。動いた方がいいものもあれば、動かないほうがいいものもあります。病態の違いは過ごし方の違いにつながると思います。
ヘルニアの急性期の鍼灸施術
痛みが強い急性期に鍼灸治療を希望される方には、ごくごく弱い、また浅い鍼しかしておりません。強い刺激の鍼は必要がないと考えています。それは治療効果の観点からだけでなく、安全面や予後の観点からもそれが妥当だと判断しています。急性期の腰椎椎間板ヘルニアの場合は 急性腰痛(ギックリ腰)の時ほど、劇的な鍼灸治療の効果は期待できませんが、それでも楽になる方はおられます。
しかしながら患者さんからは、急性期はそれなりに強い痛み止めなどもほとんど効かない、それくらい症状が強いというお話もよく聞きます。実際に私もそのように感じています。病院での受診も終え、緊急性のある症状がなく、それでもまだ腰下肢に痛みやしびれ、違和感などが残るといった患者さんが比較的多くおみえになられています。とりわけ、臀部や下肢症状がなかなか改善せず、薬で変化が見込めない方が中心です。
あまり長期にわたって症状が続くと、特に末梢のしびれなどは症状が固定化することがあります。こういった症状に対しては、経験的に早期に治療をすると、しびれの程度・範囲などが少なくなるように思えます。
「痛みの記憶」が落ち着くには時間が必要です
ヘルニアの患者さんを拝見していると、急性期の激しい痛みの記憶から、しばらくの間は強い不安があるように見受けられます。実際の「痛み」や「しびれ」はほぼ消えていても、「また再発するんじゃないか」「動いても大丈夫だろうか」「予防のために運動やストレッチをしていいのだろうか」など様々な心配があります。
こういった不安や心配については、治療者側が経過を拝見して「もう大丈夫ですよ」と安心や、保証を提示してもその効果は限定的です。時間の経過とともに、患者さんがすこしずつ生活の中で自信をつけていく機会が増えていくにつれて、不安も消えていくようです。
たとえば、「友人と外出して、思いのほか歩いたけどなんともなかった」「旅行後も痛みがでなかった」「運動量が徐々に増やせている」など。こうした経験が痛みの記憶を徐々に減らしてくれます。
逆に自宅に閉じこもっていると、外部からの刺激が少なく、身体にばかり意識がいってしまいますので、少しずつ外に出られることをおすすめしています。
ヘルニアの急性期の治療が1か月から2か月以内に終了して、それからちょっとした腰や足に対する違和感などで3.4か月に1回くらいの割合で来院されることはありますが、患者さんが自信をつけてくると、それもほとんどなくなります。
ヘルニアの「痛みの記憶」に対しては、適切な過ごし方と一定の時間が必要であることを知っていただきたいと思います。