腰椎椎間板ヘルニア-右足に力が入らない-麻痺を伴った鍼灸症例

腰椎椎間板ヘルニアで右足に力が入らない

痛みだけでなく、自分の意志どおりに体の一部を動かせなくなることは、かなり不安が強くなると思います。腰痛椎間板ヘルニアの患者さんで「痛み」「しびれ」を訴える方は多いのですが、「麻痺」については鍼灸院での頻度はあまり多くありません。

ヘルニアによる麻痺は中枢性の麻痺と違って、時間はかかりますが少しずつ回復していくことが多いように思います。
今回は麻痺を伴った腰椎椎間板ヘルニアの鍼灸症例をご紹介いたします。

ヘルニアに関してはこちらもご参考になさってください。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております

麻痺を伴う腰椎椎間板ヘルニアの鍼灸治療症例

患者
40代、女性、右足のしびれと麻痺

説明モデル
腰下肢痛で長患いの知人がいる。将来わたしもなるのではという不安がある。手術はしたくない。

受診動機
痛みやしびれもつらいが、足の麻痺にショックを受けている。

現病歴
3週間前に右坐骨神経痛になる。原因はよくわからない。すぐに近隣の整形外科を受診。レントゲン、MRIでL5/S1の腰椎椎間板ヘルニアと診断。仙骨神経ブロックを2度受ける。1週間前に2度目の受診をし、右足首が上に上がらないことを医師に伝えたところ、マヒがあるので一応大きな病院へ紹介をされ、数日前に受診した。

医師からは発症後3日以内でないと、ヘルニアによる麻痺の手術は効果が未知数と言われる。発症から3週間経過しての手術は結果も保証できないとのことだったので、鍼灸での治療をすることに決めた。

この3週間は右腰、臀部、大腿後側、下腿前側、母趾にかけて痛みとしびれが強かった。

現在は、右臀部、腓骨周囲、足首、母趾に立位、歩行、仰向けでで特に痛みとしびれを感じる。母趾の伸展、足関節の背屈ができないことがつらい。座位では足関節背屈可だが、立位では不可。一昨日まで座薬を使用、昨日から使っていない。ロキソニンを服用(2回/日)。今朝は調子が良いほう。家事も何とかやっている。洗濯物を干すのに階段を上がるのが大変。鍼灸治療経験あり。

一般健康状態
喫煙・飲酒なし。

面接バイタルサイン
食欲(正)、睡眠(横向きなら眠れる)、体重変化なし。発熱なし

既往歴
腰椎椎間ヘルニア(4年前)

身体診察
腰部圧迫での放散痛はない。梨状、陽陵泉、足三里の圧迫による放散痛はある。右足関節背屈5度程度、母趾はほとんど動かない。爪先立ちは可、踵立ちは不可。SLRは陰性

鑑別診断
総腓骨神経損傷:総腓骨神経の上位である臀部や腰部にも症状があったため除外  母趾以外の足指に症状がない。

診断腰椎椎間板ヘルニア
医師は画像などからL5/S1ヘルニアと診断しているが、踵立ち(L4、L5)ができないこと、知覚障害が母趾(L5)であること、足関節背屈、足趾背屈(L5)障害がある。以上からL4/L5のヘルニアと判断した。


治療方針
痛みとしびれがとれてきてから、筋力低下に対するリハビリを始める方針。タイミングが早すぎる運動でヘルニアが悪化しないように慎重に進める。患者さん自身も、自分でできることは何でもするとリハビリに意欲的であった。

鍼灸治療とその経過

鍼灸治療とその経過

第1回
右上側臥位にて、右第4.5腰椎椎間関節、仙腸関節、大腸兪、関元兪、梨状、上臀、足三里、陽陵泉に置鍼20分

第2回(4日目)
初診時と比較して、立位での痛みは減少。

歩き始めは大丈夫だが100mほどで動きにぎこちなさがでて、さらに歩くと臀部、腓骨、足関節周囲がつっぱってくる。ロキソニンは2回/日服用。足三里、豊隆の圧迫で足関節、母趾にひびく。治療は前回同様。

第3回(8日目)
歩行時の痛みが減り、腓骨周囲の痛みもほぼない。ロキソニンもやめた。現在は足の甲のしびれ、母趾のしびれが残っている。足関節の背屈(座位のみ可、立位時不可)では初動はいいが、力がまだなく、左右差があり、MMTは2。前脛骨筋、長腓骨筋、長母趾伸筋にパルス15分を行う。

第4回(15日目)
足首の感覚は正常になる。歩行時の痛みはないが、階段でののぼりはぎこちなさを感じる。足全体を持ち上げている感じ。つまずきはない。腓骨下部の触診で母趾にしびれを誘発する。母趾の背屈動作は力がないが、足関節は背屈時の可動域において左右差が少なくなる。右腓骨筋下部にパルスを追加。長母趾伸筋のパルスは刺激を感じるようになった。

第5回(22日目)
中距離、長距離の歩行になると足がパタンパタンしてくる。片足立ちが10秒ほどしかできない。足関節、母趾のリハビリを当院で方法を伝え、各100回、自宅で毎日行ってもらう。

第6回(29日目)
片足立ちが20-30秒に。入浴後踵立ちが少し可能。歩いていると股関節がブランブランする感じ。ガクッとならないが、なりそうな感じ。長距離、階段がまだ大変。少しずつ歩いてもらうことにする。

第7回(36日目)
細切れに1週間で10㎞歩いた。かなり歩けたことで自信がついたとのこと。足のパタンパタンが減る。階段もあまり意識しないようになる。ただ、物をもつと歩きにくい。以前から訴えている、足の「パタンパタン」、股関節の「ブランブラン」の意味を考え、下肢全体のMMTを計測。右下肢外転が著明に弱いことがわかった。中臀筋の筋力強化のため、下肢外転運動を自宅でやっていただくことにした。

第8回(47日目)
臀部の筋力トレーニングは腰に負担がかかり中止。歩行中心のトレーニングに変更をする。

第9回(55日目)
ショッピングセンターで3時間歩けたり、趣味のスポーツもできてきたので、1か月に1回の受診間隔で様子をみる。



第11回(85日目)
足の「パタンパタン」、股関節の「ブランブラン」とする感じがなくなり、気になるのは拇指の疲労感程度、歩行もできている。長拇指屈筋への治療を加える。歩行訓練で臀部の筋力が回復してきたと考えられる。

第12回(115日目)
足腰ともに調子が良い。拇指は歩くと少し疲れるが、さほどではない。拇指の感覚も少しずつではあるが戻ってきた。足関節の背屈は左右差がほとんどない。外が暑いので、自宅の階段を使って歩くトレーニングの代わりをしている。症状と日常生活動作が落ち着いているので、治療を終了とした

症例のポイント

今回の症例では、「痛み」「しびれ」を最優先にし、「麻痺」のリハビリのタイミングについては慎重に判断した。「腰椎椎間ヘルニア」で痛みが強いときに運動をすると悪化することが多いからです。

治療としては、鍼灸では腰臀部へ鍼、長母趾伸筋への鍼をメインに、足関節のリハビリ、歩行、家庭用低周波治療器の活用などを行いました。反省点は患者さんの訴える「股関節のブランブラン」が臀部の筋力低下を示唆する病歴であり、それについてはもう1.2回早めに気づくべきでした。

「麻痺」の治療は時間がかかりますし、確かに未知数のことも多いと思われます。治療開始のタイミングと治療の中身は大変重要ですが、中枢性の麻痺ではないため、少しずつ良くなっていく類のものと思っています。

今回は患者さんの意欲が、リハビリの質と量を支え、特に歩行距離が伸びてきたことが自信につながり、良い結果につながったのではないかと考えています。

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