胸の痛み:鍼灸院での危険な兆候を除外する3つの質問と落とし穴

胸の痛み:鍼灸院での危険な兆候を除外する3つの質問と落とし穴

先日、隔月で参加している勉強会では
「胸痛」の症例が提示されました。   この症例での「胸痛」は「危険な胸痛」ではなく、
数回の鍼灸施術で改善したものでした。   「胸痛」は第一に心筋梗塞や狭心症、大動脈解離などの危険な疾患が原因と考えられる症状です。   危険な疾患が考えられる場合には、鍼灸をする前に、病院を早急に受診していただかないといけません。

「胸痛」を訴える患者さんが鍼灸院に来院した場合

一般的に「胸痛」を訴える方のほとんどは、まずは病院を
受診しますが、まれに「鍼灸院」を最初に受診される方がおられます。
「過去にほかの症状が鍼灸治療で治ったから」、「病院が嫌いだから」、
「それほど症状が激しくないから」など様々な理由がありますが、
患者さんを守るためにも危険な疾患の除外・鍼灸適応の判断が必要となります。  

当院では数年前に、「腰痛」で診ていた患者さんが「心不全」になりました。
早急に病院受診を促し、病院での適切な対応により早期に回復されたケースでした。
その時、患者さんは「風邪かな、たいしたことないよ」と
おっしゃっていました。

しかしながら、普段とは違うぜーぜーとした「喘鳴」、仰向けで休むより座ってるほうが楽といった「起坐呼吸」、脚が急にむくむなど、「心不全」の症状がでていました。
 
普段の状態を診ていたため、「いつもと違う」といった
感覚もすぐに病院を勧めた理由だったかもしれません。  
やはり、危険な兆候には注意をはらわなくてはいけません。

「胸痛」を自覚された患者さんは、まずは病院を
受診されることを強くお勧めします。

病院の受診は必須、さらに3つの問診

「胸痛」を訴える代表的な疾患である心筋梗塞や狭心症は
中高年の男性に多いと言われています。
年齢、性別は重要な要素です。
そして、心臓疾患の有無を問診で確認します。

  1)痛みは胸骨の裏かどうか
2)労作で誘発するか
3)安静で消失するか
 の3つ。  

ちなみにこの3つの質問が60歳代、男性ですべて「イエス」で
あれば90%の確率で冠動脈疾患が疑われると言われています。  
「歩くと胸の痛みが強くなりますか」「食事によって誘発しますか」「休んでいるときはおさまりますか」
などなるべく具体的に聞くようにしています。

「胸痛」を診るときの注意すべき「落とし穴」

そもそも「胸痛がある」「冷や汗をかくほど苦しい」「うずくまる」といった
心疾患を疑わせる症状の時は、患者さんが鍼灸院に来院される確率はかなり低いでしょう。
(パニック障害などは除いて)自覚症状として、「これはちょっとおかしい」「これは苦しい」といった感覚が働き、病院を受診するからです。

問題は「胸痛」がないけれども、鍼灸院でみるべき状態ではないときがあります
「心疾患」を疑うときに、2つほど落とし穴があります。

落とし穴① 「胸痛」がない心臓疾患があります

「胸痛」がないからといって、安心できるわけではありません。
明確に「胸痛」を訴えない場合にも慎重になる理由があります。
「痛みのない心筋梗塞」が22-35%といった報告があり、
「胸痛」がないからといって「心筋梗塞」を完全には除外できません。
さらに心筋梗塞の患者さんで初診時の心電図において正常な人が
30%いる報告もあり、病院では問診、聴診、心電図、
血液検査、胸部レントゲンなどで総合的に判断されます。
このように非典型的(胸痛がないなど)な心臓疾患が
一定の割合で存在します。

以下の症状は心疾患の症状の一部です。

「なんとなく重い」
「ムカムカする」
「息苦しい」
「押される感じ」



これらの症状だと「食べ過ぎ」や「過労」「ストレス」かなと思われたり
症状の程度がそれほどではない場合、見過ごされやすい可能性があります。
明確に「胸が痛いです」と訴えられたときと、
上記の症状だけ伝えられた時では、施術者側の「心疾患」を疑うセンサーの感度が
変わりやすい点で、「見落とし」という「落とし穴」があります。

落とし穴② 「関連痛」

もうひとつの落とし穴は「関連痛」です。
「関連痛」は原因部位と異なるところに痛みが発生します。
心臓に問題があっても他の部位に痛みがでるのです。
最近は「心臓が悪くて、肩こりがすることがあるらしいね」と
話される患者さんもおり、一般に広まりつつある情報です。
「左の肩こり」といった情報もありますが、左右どちらか、
また両方にでることも多いので、右側だから安心と
いうものでもありません。


首・歯・喉・歯・鼠径部など心臓から半径30センチ以内は関連痛を否定できません。
「首や肩、鼠径部痛」などは鍼灸院での日常的な訴えと重なることも十分予想されます。
体動や呼吸、圧痛部位の小ささなどは筋肉・骨が原因の可能性を高めますが、
安静時の「関連痛」は要注意です。さらに、高齢であったり、脂質異常症、糖尿病、高血圧の既往や喫煙歴などの
リスクも考えるべきでしょう。当院では下記のレッドフラッグ(危険な兆候)がないかを確認しています。

胸痛のレッドフラッグ(危険な兆候)

・突発、進行性 、安静時、夜間の胸痛
・呼吸苦
・発熱
・労作
・動悸
・息切れ
・関連痛
・背部痛
・発汗
・冷汗
・失神
・下腿浮腫


・嘔気・嘔吐
・便が黒い
・貧血

・既往:循環器疾患(不整脈など)の有無、糖尿病など

・バイタルサイン
・血圧の左右差の計測

病院で危険な胸痛を除外されている場合、
また「肋間神経痛」や「帯状疱疹後神経痛」などによる「胸痛」は
鍼灸院で日常的に対応しています。  
病院でいろいろ調べても原因がわからない、
でも心臓や消化器、呼吸器などには問題がない場合は
危険な兆候は限りなく低いと考えられます。
 そういった「胸痛」は、鍼灸でお役にたてることがあるかもしれません。  

 

関連記事

PAGE TOP