兎眼を伴う顔面神経麻痺の鍼灸症例

兎眼を伴う顔面神経麻痺の鍼灸症例

 顔面神経麻痺による「兎眼」(まぶたを閉じれず白目になってしまう状態)により運転ができなくなった症例を紹介いたします。

*下記症例は患者さん個人が特定されないよう変更を加えております

患者:40代 女性


病歴


3週間前、歯を磨いているときに、右舌の感覚がないことに気づき、
口が開きにくく、右目が見えづらくなる。

翌日右顔が下がり、病院(脳神経外科・内科)を受診。
「顔面神経麻痺(ベル麻痺)」と診断され、1週間ステロイドの飲み薬を処方される。

改善が見られず、他院(耳鼻科)を受診。1週間毎日、点滴でステロイドの投与を受ける。

その後、ビタミン剤の処方を受け、1ヶ月後に再受診予定。

現在、目がもっともつらい。右目が見えづらく、運転ができない。右目が閉じれず、
乾燥し、痛む。また左目の負担が大きく、視力の低下がある。

眼科では目を保護し、顔面神経麻痺が治れば視力が回復すると言われる。

表情では「あいうえお」の「いー」が最もやりにくい。涙が自然に流れてくる。
発症時、味覚は半分程度落ちていたが、現在は少し回復。
ドライヤーの音が以前よりうるさく感じる。入浴後は調子が良い。


事務の仕事はパソコンを使い、目に負担が多く、休んでいる。
睡眠時間が短い時もある。

糖尿病などの既往はない。


所見

安静時も表情は非対称性。力を入れても閉眼不可でわずかに動く程度。
口角に力を入れても非対称性が明らかである。
目は兎眼(まぶたが閉じれず、白目が見える)が認められる。

施術方針


発症からステロイドの服用・点滴にもかかわらず、目を中心に症状の改善が見られない。
また表情筋だけでなく、目、耳、味覚など複数部位に症状がみられる。


程度が重いと判断し、最初は週に2回の施術を行う方針。


施術とその経過

初診

右上側臥位にて、後頸部・側頸部・目・頬・口部などの顔面神経走行部位に置鍼。
電気ていしんも同様。
「翳風」に電気温灸器syoukiで温熱刺激を加える。
施術後は顔のはれぼったさ、違和感が軽減し楽になったとのこと。

セルフケアとして入浴時や顔を温めて、顔のマッサージ、顔の筋肉を動かす
リハビリのプリントを渡して自宅で行っていただく。

第2回(4日目)

顔の右側が患側だが、左目を中心に左側全体も疲労感がある。右側をメインに
しながらも、左側も施術を行う方針。

自宅でのセルフケアはかなりしっかり行なっている。
前回の施術に加え、電気ていしんにて眼輪筋・上唇挙筋・口輪筋・頬筋などに
筋収縮を加える。左側は電気ていしんのみ行う。


第3回(8日目)

目が少し閉じれるようになってきた。セルフケアにローラー鍼を使っていただく。



第4回(13日目)

味覚・舌の感覚は発症時から3割回復。ドライヤーの音は日によって気にならない日もある。



第5回(17日目)

味覚・聴覚過敏は5割回復。兎眼が少なくなってきた。
回復傾向にあるため、施術頻度を週に2回から1回とする。
鍼の刺激感が苦手なため、電気ていしんを中心とする。


第6回目(22日目)

一時的に仕事をするが、目の負担が大きく目が見えにくくなる。
目は常につらい。目を閉じてるつもりだがシャンプーの時に目に入ってしまい、しみる。
味覚は7割回復。聴覚過敏は8割回復。
ペットボトルで水をのんでもこぼさなくなった。

仕事でのパソコン使用やテレビなどの画面を見ることが負担になっている。
表情筋は低い出力でも筋収縮が出る。


第7回目(30日目)

仕事を休んでいることもあり、前回の目の突然の悪化はなく、調子が良い。
味覚、聴覚、表情筋の動きはかなり改善している。
目を閉じる力がまだ弱いのでマッサージよりも目の筋肉の運動療法を中心にしていただく。
「あいうえお」の「いー」も問題なく可能。



第8回(50日目)

前回の施術から期間が空いたが、セルフケアの成果もあり目の調子が良く、
運転ができるようになる。

第9回(72日目)

疲労時に違和感が少しあるが、セルフケアで対応できる安心感がある。
見た目にも左右差は感じられないので終了した。

施術を終えて

ステロイド内服、点滴でも回復が乏しく、発症から既に3週間が経過していること。
表情筋も見た目の左右差が強く出ており、兎眼、聴覚過敏、味覚減退、
舌の感覚異常など症状が複数出ていたことから「高度の麻痺」に該当すると思われました。

これまで経験した中でも難度が高い症例でした。

施術経過では味覚、聴覚、表情筋は比較的順調でしたが、
最も辛い「目」は、仕事やストレスで再度悪化するなど一進一退の時期がありました。

一方で、初診時から患者さんのセルフケアへの取り組みは一貫して
根気よく続けていただきました。

院内の施術だけではここまでの回復はなかったかもしれません。
セルフケアの粘り強い継続による結果だと思われます。

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