左腕の痛み-胸郭出口症候群牽引型(鍼灸施術症例)

左腕が痛い:胸郭出口症候群牽引型(鍼灸施術症例)

肩こりや、腕の重だるさの原因となる「胸郭出口症候群」という病気があります。
実は「胸郭出口症候群」にはタイプがいくつかあります。
今回はそのタイプを判断するのに、時間がかかってしまった反省症例です。

*この症例は患者さん個人が特定されないよう内容に変更を加えております。

胸郭出口症候群-牽引型:鍼灸施術症例

患者
48歳、男性
7,8年前から続く左腕の痛みを訴えて来院した。25年前に前腕外側を叩かれて打撲したのが原因だと思っている。毎年冬になると痛くなるが、今年は特に痛いので何とか治したい。

主訴 左腕の痛み

現病歴
25年前に前腕橈側部(外側)をかなりの強さで叩かれた。7,8年前から、毎年冬にだけ左肩外側から上腕後外側、前腕橈側部にかけてズーンとした痛みがある。今回は3ヶ月前から寒くなり、例年より今年の冬は痛みが強い。動いていると気にならないが、じっとしていると痛みを感じる。仕事は建設業だが、力仕事はあまりしない。仕事中ではなく、休憩時間につらくなる。入浴や温湿布で楽になる。温湿布は就寝中もしている。病院には行っていない。マッサージはその時だけ楽になる。随伴症状は左後頚部から左肩にかけてこりがある。うがい、シャツの着脱で痛みはない。上肢のしびれ、重だるさはない。手指にしびれはない。夜間痛はない。 

一般健康状態
食欲、睡眠、排便、排尿は正常。体重の変化はない。2,3日前から風邪気味で体温はよくわからない。アルコールは1日に焼酎を2,3合、日本酒を1合。タバコは1日に15本。風邪のため、葛根湯を服用。


既往歴 
特記すべきことなし。
家族歴
特記すべきことなし。

身体診察 身長160cm 体重62,3  ルーステスト(-)上肢の外転(正)頚部後屈・左回旋による上肢の痛み(+)右回旋(-)左前腕橈側、左上腕後外側、ツボ「三頚、四頚」に圧痛が検出された。 握力40kg(左右とも) 

初診診断   頚椎症性神経根症

根拠          

  1. 頚部の動きで腕の痛みが再現するため。
  2. 頚椎の椎間関節に圧痛がある。
  3. 鑑別診断            

胸郭出口症候群

  1. 上肢の痛みの性状が「重だるさ」ではない。
  2. ルーステストが陰性である。

肩関節疾患 

  1. シャツの着脱で痛みがない。
  2. 上肢外転が可能である。
  3. 施術とその経過

鍼灸施術
第1回
主訴である上肢の痛みを経過の指標とする。
全てステンレス鍼、40㎜18号を使用。ツボ「天柱、風池、三頚、四頚、扶突、曲池」に直刺、置鍼10分。「五頚、六頚」は単刺。百会に糸状灸3壮。他、全身施術。生活指導は、就寝時に頚部にタオルを巻く、頚部まで湯船につからない、低反発の枕はさけるよう伝えた。また、だるさが出る可能性も伝えた。

第3回(10日目)
Pain Scale(上肢の痛み) 10→8 施術内容は変更せず。背臥位から坐位になった時に上腕後外側に痛みが出る。頚に負担がかからないか確認したところ、仕事中にヘルメットを着用していた。

第4回(14日目)痛みの程度に変化がない。上腕部に「重だるさ」が加わる。坐っているときに腕を下に垂らすと、上腕後外側に痛みが再現される。
背臥位でも胸に手を置くと楽になるが、ベッドに垂らすと痛みが再現される。
以上の事から、見直しを行った。

再診断:「胸郭出口症候群 牽引型」
根拠         

  1. 上肢下垂位で痛みが誘発する。
  2. 胸に手を置くと楽である。
  3. 性状に「重だるさ」が加わっている。
  4. 圧迫型はルーステスト(-)の為除外できる。

身体診察
軽いダンベルを上肢下垂位で保持すると症状が増悪。「兪府」「屋翳」「中府」のツボ圧痛が認められる。「 兪府」「屋翳」「中府」に切皮で置鍼15分の施術を追加。買い物袋などを下げないようにしてもらう。

第5回(17日目)
Pain Scale 8→7 施術後、坐位で痛みが再現しない。

第7回(26日目)
Pain Scale 7→6 坐位で、手を下に垂らしても上腕に症状が現われない。前腕も気にならなくなってきた。

第8回(31日目)
仕事後もピリピリした感じがない。ツボ「扶突」の鍼は上肢にひびくように刺鍼、20分置鍼。

第10回(42日目)
Pain Scale 6→0 施術は前回同様。

第11回(48日目)
痛みがない状態を維持しているため施術を終了する。 

症例のポイント

  1. 病歴ではなく所見を重視すると誤診につながる。
  2. 頚部の動きで上肢症状が誘発されても頚椎症性神経根症とは診断できないことがある

考察

施術回数は10回42日目で症状消失。「圧痛、頚部の動き」といった所見だけで診断したためで、再診断までに時間がかかっています。

病歴で、「休憩中に腕を上げているのか」「重い荷物を持った時はどうなのか」「腕を組むと楽なのか」などを確認しておけば早期に胸郭出口症候群・牽引型の診断ができ、適切な施術、生活指導が十分可能な反省症例でした。

一般的に胸郭出口症候群は牽引型の方が、圧迫型より施術回数がかかる傾向があるように思えます。

腕を引っ張られるような日常動作、「買い物袋、ごみ袋をさげる、散歩中の犬にひっぱられる、腕をおろしている」としびれるなどの症状があった場合は胸郭出口症候群・牽引型の可能性を疑います。
この記事の最初の写真のように「肘を伸ばした状態、さらに荷物をもった状態」が負担となりますので、お気を付けください。

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