過去の症例が患者さんを支えた腰椎椎間板ヘルニア(麻痺)の1症例

腰椎椎間板ヘルニア(麻痺)の鍼灸症例

以前、当院の症例「腰椎椎間板ヘルニア-麻痺を伴った症例」をホームページに掲載いたしました。このたびご紹介する患者さんはこの症例をご覧になり、同様の症状で来院されました。この過去の1症例が患者さんの回復までを支えてくれたように思えます。


*下記症例は患者さん個人が特定されないよう一部内容に変更を加えております

患者
50代、男性

主訴
右腰下肢痛、しびれ、麻痺

受診動機
病院以外でなにかできることがないかと調べたところ、「麻痺」に関する自分自身と同じ症状を見つけたので来院した。

現病歴
10日前、立っていた時に右腰に痛みを感じた。痛みで眠れず、どの体勢になっても痛みが緩和されない。右足にしびれがある。つま先が上がらない、踵歩きができない。
昨日、整形外科を受診。レントゲンでは腰の骨が減り、椎間が減少し、ヘルニアが神経を圧迫している可能性があると診断された。

病院ではリハビリとして、21-22㎏の重さで牽引、マイクロ波で10分ほど温めている。ロキソプロフェン、レパミド、メチコバールを服用している。現在、眠れないほどではなくなった。笑う、咳をする、くしゃみでは痛みは感じない。
仕事も可能、歩くとまぎれるが、じっとしていると痛みを感じる。

歩いて途中で休むことはない。また休んで症状が消えることはない。
痛みは右臀部、右大腿外側、右下腿外側(腓骨に沿って)しびれは、右脛骨外側、右足関節前面(やや外側)、右拇指にある。腰にはあまり痛みを感じない。右つま先があがらないことに不安を感じる。

腰椎椎間板ヘルニアの症状

身体診察
感覚障害:右拇指のみMMT:1-2(関節運動は多少起こるが、重力を除去しても可動域全域ではない)右腰椎椎間関節、臀部など坐骨神経の走行に沿って複数個所に圧痛、下肢への放散痛が認められた。足背動脈、後脛骨動脈の拍動は触知可


診断と根拠

腰椎椎間板ヘルニア・坐骨神経に沿った痛み・しびれ・間欠跛行がない

方針
・痛みとしびれが強いうちは極力安静に。
・痛みとしびれが取れてきたら、麻痺に対するリハビリを行っていく。

初診
右第3.4.5腰椎椎間関節にステンレス鍼40㎜-20号、梨状、上殿に50㎜-25号で置鍼20分。
軽刺激から始める。

第2回(7日目)
畑で草刈りや、肥料をまく作業を2時間ほど行ったとのこと。痛みとしびれがあるうちは極力安静をお願いするが、畑作業は待ってくれないこともあり、必要最低限でお願いをする。治療は前回の内容に、長拇指伸筋に鍼通電を行う。

第3回(14日目)
MRIを撮り、第1.2腰椎が左に、第4.5腰椎が左右にヘルニアが出ていると医師に診断された。

<痛み>・右臀部外側に時々鈍い痛み・右大腿外側は痛みがなくなる・右下腿外側に時々鈍い痛み

<しびれ>・右脛骨外側は軽減・右足関節前面(やや外側)はかなり軽減・右拇指は軽減痛み、しびれについては総合的にPain scale 10→3ご家族で車による小旅行をしたが、意外と大丈夫だった。

治療:臀部の鍼を60㎜-25号に変更。長指伸筋に鍼通電下腿前面に電気ていしん。足関節の背屈運動を他動で行う。


第4回(21日目)
ヘルニア発症時から仕事内容が変わり歩くことが多くなり(13000歩/日)、一時的に痛みが強くなることがあった。足関節の麻痺は前回より3割ほど良い。

第6回(28日目)
職場の理解を得て、歩く量が少なくなり、痛み・しびれが軽減された。まったく痛くない日もあった。痛みとしびれが無いときに足関節背屈のリハビリ運動をしていただく。
治療間隔を2週間に1回にあけていく。

第8回(42日目)
仕事量が通常に戻り、再び13000歩/日歩くことになったが、痛みはない。畑作業も工夫をしながらできている。リハビリは抵抗を加えて負荷も回数も徐々に増やす。患者さん自身もトレーニング方法を考案され、負荷や回数を数値化し、内容をお互いに確認する。

第9回(58日目)
右足関節の背屈運動時の瞬間的な力はかなりついている。一方で複数回行うと左足関節と比較すると、疲れやすい。治療間隔を1か月に1度にあけていく。

第10回(100日目)
重い荷物を車に乗せた時に急性腰痛になるが、下肢症状はなく、足の背屈力も落ちていない。急性腰痛に対する治療を行う。

第11回(130日目)
右足の背屈は2か月前に比べて、大幅に改善した。(1.7キロのおもり10回から9.4キロのおもり10回が可能に)筋力の左右差がほとんど感じられない。前半は下肢の痛み、しびれがあり、お仕事による負担もあったことから足関節背屈の麻痺に対するリハビリに入るタイミングを慎重に見極めました。

痛み、しびれがあるときは「炎症」があり、「炎症」が引くまではあまり動きすぎないようにしていただくのですが、患者さん自身の活動的な気質や、麻痺のこともあり、適切な運動量を経過をみながら調整していきました。

初診時から1か月が経過したころ、仕事量が減り、痛み・しびれが落ち着きはじめたため、麻痺のリハビリを少しずつ行いました。回復につれ、治療の間隔をあけていきました。

また患者さん自身がリハビリ方法を工夫するなど、かなり意欲的に取り組んでいただきました。その頃から安定した回復期にはいられたように思えます。途中、急性腰痛がありましたが、早期に回復しました。

麻痺は3か月前後で筋力の左右差がほぼない状態になりました。

まとめ

summary

最初に書きましたが、この患者さんは、以前の症例である「腰椎椎間板ヘルニア-麻痺を伴った症例」をご覧になり遠方からお見えになりました。症例とご自身の症状が似ていたことが来院動機となりました。

特に麻痺の回復可能性についての部分が大きかったようです。痛み・しびれだけでも大変なところ、今まで自分自身の意思で動いていた足が動かないのは相当なショックです。
痛み・しびれは程度の差がありますが、多くの方が経験されています。一方、麻痺はほとんどの方にとって経験のない症状です。

初診時だけでなく、その後もそのショックは簡単には消えず、なかなか足が思うように動かない現実に直面すると、本当に動くようになるのかと思われていたことでしょう。

回復に一定程度の時間が必要と説明されていても、回復が緩やかな時や停滞した時には誰しも不安になります。そのような時に、同様の症状の患者さんの回復経過や日常生活の工夫などが大きな支えとなります。(患者さんの個人的な情報はもちろん話しません)この患者さんも本当にリハビリには意欲的でした。

リハビリや鍼灸で現実に回復していく事実と、他の患者さんの症例が患者さんの回復期間を支えてくれました。

今後も記録をとり、丁寧に症例を積み重ねていきたいと思います。

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