アキレス腱の痛みと鍼灸

アキレス腱の痛みと鍼灸

アキレス腱はふくらはぎの2種類の筋肉が腱となり、踵にくっついています。
アキレス腱の痛みには専門的には「アキレス腱炎」「アキレス腱周囲炎」
「アキレス腱付着部症」などがあります。

原因は外傷や使いすぎによるものがほとんどです。
ここでは、前半にアキレス腱を大切に使うために注意すること、
後半はアキレス腱を痛めた患者さんの具体的症例から対処法と予防策、そして当院の施術法などを紹介いたします。

運動を長く楽しむために

当院のある埼玉県春日部市内牧地区ではウォーキングや、ランニングをされている方をよくみかけます。内牧公園など、歩くと気持ちがいい場所がたくさんあります。

春日部市でも北と南では随分と印象が違うように思えます。歩く目的は、気分転換や健康維持はもちろんのこと、膝の痛みの予防、筋力低下防止など、みなさん様々なようです。
気温がグッと下がっているときは、無理をせず体を温め、十分な防寒をなさっていただきたいと思います。急な気温の低下や歩きすぎなどで、いわゆる「古傷が痛む」と訴えて来院される方がいらっしゃいます。

学生時代に、陸上競技や、柔道などに打ち込んでおられて、アキレス腱を傷めたり、肉離れをされた方は多いようです。普段は気にならないけれども、「痛み」というよりは「違和感」「不快感」「十分に伸びきらない」といった表現をよく耳にします。実際に傷めたときの処置でその後の経過は随分と変わりますが、すでに随分と時間が経ち、あきらめている方も少なくありません。

以前、10年以上前にアキレス腱断裂の手術をされた40代、男性の患者さんは、ご自身でストレッチなどをされていました。しかし、仕事が終わる午後になるといつも「違和感」を感じていました。
休日の犬の散歩でも日によってはコースを短くすることもあったようです。
当初の来院目的は寝違いの施術だったのですが、アキレス腱の施術も併行し、ストレッチの方法なども確認することで、気にならない程度までもっていくことができました。

個人差はありますが、手術をされた側の足はは自然と血行が悪くなるようで、反対側と比較すると冷えていることも多く、筋肉の緊張も強いようでした。
鍼灸では直接アキレス腱に関わる筋肉の緊張をとりながらも、お灸で深部を温めます。手術をされた部分はどうしても元の組織よりは弱くなり、皮膚などの突っ張りなどもあり、動きの制限や血行不良を引き起こすと考えているからです。

おそらく触ると冷えていることがほとんどです。さらに、違和感をかばう為、他の部位にかかった負担をとる目的で反対側の下肢や腰なども併行して施術をします。
まずはご自身の体の状態を、運動前にチェックされることでウォーミングアップやストレッチの中身も変わってきます。
筋肉の張りや、力の入り具合、伸び具合などを確認し、ケアすることで長く運動を楽しむことができると思います。それでもどうしてもうまくいかない時などに鍼灸のことを思い出していただければと思います。


マラソンによるアキレス腱の痛み(症例)

こちらの症例は患者さん個人が特定されないように変更を加えております。
患者:50代、男性
主訴:アキレス腱の痛み

現病歴
マラソン大会に出場するために日々、近隣の公園を走っている。最近気分を変えようとコースを変え(コンクリートでした)、調子が良いためいつもより長い時間走っていた。
4日前から左のアキレス腱に痛みがでてきた。1日休むと痛みは減ったが、また走ると痛みが増してあまり走ることができない。今では歩いたり、アキレス腱を伸ばしたりすると痛む。
自分では湿布をしてみたがあまり効果がない。腰痛はなく、アキレス腱の痛み以外の下肢症状はない。

身体診察
アキレス腱上に複数箇所の圧痛とアキレス腱の外側にも圧痛が認められた。足関節の背屈で痛みが増したが、底屈では痛みは増さない。回外・回内では痛みは増悪しない。また周囲の靭帯、足底腱膜には痛みは認められない。

左右のアキレス腱を比較して、腫れについては差がない。熱は少し持っているが、それほど強い印象はない。
全体的に左殿部、左ハムストリングス、左下腿三頭筋の緊張が右に比べ強く、圧痛も左に多い。


初診時の診断と根拠
・アキレス腱炎とアキレス腱周囲炎
①アキレス腱上と周囲に圧痛、自覚痛があること ②足関節の背屈で痛みが増悪すること


除外診断
・アキレス腱付着部症:腫れがほとんどないこと
・足底腱膜炎:足底腱膜に圧痛がない
・後距踵靭帯の炎症:圧痛がないこと、回内位で痛みが再現しないこと


アセスメント
急に運動量が増したこと、コースを変えたことなどが今回のアキレス腱の痛みにつながっていると考えた。またアキレス腱だけでなく、左殿部から下肢にかけて緊張が強く、左右差があることも原因の一つと考えられる。アキレス腱の痛み、炎症をとるだけでなく、痛みを再発させない予防策についてもしっかりと伝える。

施術部位
解剖学的な観点から以下の部位に筋緊張の緩和と痛みの除去を目的に鍼とストレッチを行った。
①アキレス腱と直接関係する下腿三頭筋
②アキレス腱とその周囲
③ハムストリングス、殿部、腰部(特に左)
④拮抗筋である脛
⑤足底筋膜
施術後は痛みは10→2歩行時やふくらはぎを伸ばした時の痛みはかなり軽減された。


対処法と予防策
急な痛みの時は湿布よりもしっかりと氷水や保冷剤などで冷やすこと。テーピングなどでの固定により動きを制限すること。運動量を減らしたり休むことの必要性を伝えた。痛みが減ってきたら、ふくらはぎだけでなく、殿部や下肢、足底のストレッチを。また筋緊張に左右差があるので靴や練習方法、フォームの見直しなども大事な要素になることを話しました。

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