「膝の外側が痛い」「走る習慣がある」はランナーズニーの可能性があります 。
今回はランナーの方に多い「腸脛靭帯炎・ランナーズニー」の原因と対策についてお伝えします。
ランナー初心者の方にもセルフケアを紹介していますので、ぜひご覧ください。
目次:「腸脛靭帯炎・ランナーズニーの原因と対策」
- 腸脛靭帯炎・ランナーズニーについて
- 腸脛靭帯にかかわる解剖
- 腸脛靭帯の働き
- 腸脛靭帯炎・ランナーズニーの原因
- セルフケア
- 腸脛靭帯炎・ランナーズニーへの対策
- 鍼灸院でのアプローチの一例
腸脛靭帯炎・ランナーズニーについて
「繰り返す膝の曲げ伸ばし+背景=膝の外側の痛み」
ランニングなど、繰り返す膝の曲げ伸ばし(屈曲・伸展)で腸脛靭帯と大腿骨(太もも)との間で摩擦がおきます。
摩擦の結果、大腿骨外側上顆付近、腸脛靭帯と深部にある脂肪組織に炎症がおきます。
そして膝から大腿の外側に痛みを感じます。これが「腸脛靭帯炎・ランナーズニー」と言います。 繰り返す動作の他に、以下のような背景があると腸脛靭帯炎を誘発しやすくなります。
- 筋肉の柔軟性の低下・異常な緊張
- O脚や足部の回内などのアライメント(姿勢や骨の整列具合)
- シューズの問題
- 練習量の増加
- ランニングにおける環境(傾斜・下り坂)などが考えられます。
腸脛靭帯に関わる解剖
腸脛靭帯は太ももの外側にあります。大腿筋膜張筋という筋肉からはじまって、
脛骨という脛の骨の外側についています。
腸脛靭帯の浅層、深層によって、膝蓋骨、脛骨と別々に付着しているとも言われています。
大腿筋膜張筋は骨盤の一部である腸骨からはじまっています。
腸脛靭帯の緊張には解剖学的に様々な筋肉のつながりが関係しています。
他の筋肉の状態が腸脛靭帯の緊張につながる一例として、大腿四頭筋のひとつである外側広筋は大腿筋膜張筋におおわれています。
深部にある外側広筋が緊張すると内圧が上がり、大腿筋膜の緊張につながり、結果として腸脛靭帯の緊張につながることがあります。 大腿筋膜張筋は外側広筋だけでなく、中殿筋、縫工筋、腸骨筋、大殿筋、筋膜で連結しており、これらの筋肉も立体的に様々な筋肉と連結しているので互いに影響をうけます。
筋肉の偏りのある緊張状態が続くことにより、アライメントへの影響が予想されることから腸脛靭帯だけでなく、関連する筋肉の状態を確認する必要があります。 どの筋肉が腸脛靭帯の緊張に影響を与えているかにより、治療部位やセルフケアの中身も変わってきます。
腸脛靭帯の働き
腸脛靭帯は膝の曲げ伸ばし(屈曲・伸展)の働きがあります。 そして膝を曲げる(屈曲)と、下腿が内側にねじられ、腸脛靭帯は前内下方に引っ張られます。 その結果、腸脛靭帯の緊張が強くなります。
腸脛靭帯炎・ランナーズニーの原因
以上のように腸脛靭帯周辺の解剖や働きから、
- 繰り返す膝の曲げ伸ばしによる脂肪体との「摩擦」
- 膝を曲げることで下腿が内側にねじられ、腸脛靭帯にかかる「牽引ストレス」
- 関連する筋肉の過緊張による腸脛靭帯の「二次的緊張」
そして、これらの負担を強くする具体的状況が、先ほどあげたものになります。
- 筋肉の柔軟性の低下・異常な緊張
- O脚や足部の回内などのアライメント(姿勢や骨の整列具合)
- シューズの問題
- 練習量の増加
- ランニングにおける環境(傾斜・下り坂)
セルフケア
- 安静
- 十分なウォームアップ
- ストレッチ:腸脛靭帯以外の過緊張している筋肉を中心に
- 道路の傾斜・下り坂
- フォームのチェック:ストライドが広すぎないか
- シューズ(O脚だと小指側に体重がのり、腸脛靭帯に負担)
- 練習量の再考
腸脛靭帯炎・ランナーズニーへの対策
腸脛靭帯や大腿筋膜張筋だけへのアプローチでは、簡単には改善しにくい印象があります。ランナーの方はトレーニング量も多く、またフルマラソンに挑戦している方も増えています。
当院では腸脛靭帯、大腿筋膜張筋そのものと、関連する筋肉、特に殿筋群、腸腰筋の緊張を取ること。筋肉と筋肉の間の溝を意識して緩めるようにしていきます。また腸骨前面には多くの筋肉の起始部があり、緊張やむくみなどで鼡径部付近まで硬くなっています。くるぶし付近がむくんでいたりすることもあります。
患者さんのセルフケア、練習や体調のフィードバックをいただいてアプローチ方法を検討、変更して臨んでいます。特に疲労回復については、情報をさらに発信していきたいと思っています。
鍼灸院でのアプローチの一例
30代、男性、会社員、左膝外側部痛半年後のマラソンに向けて、練習を始めるが10㎞程度で左膝外側部に痛みが生じる。
腰痛(-) 臀部痛(-) しびれ(-)
パトリックテスト(-) グラスピングテスト(+)
初診
腸脛靭帯炎として施術開始。 横向きで左臀部・腸脛靭帯の緊張部位・むくみを中心に電気治療器・温灸器・数本の鍼・マッサージを行う。初診のため、軽刺激。
2回目
15㎞で痛み。練習量が増え20㎞を走るようになる。左臀部に時折りチクっとした痛み。脛に張った感じがある。施術範囲を広げ、脛、鼡径部の浮腫みを取ること。動きの乏しい足指・膝のお皿の動きがでるように。2回目からは腰から足指までの全ての緊張を施術対象とする。
3回目
臀部の痛みは消失。腸脛靭帯の付着部にまだ顕著な緊張。この部位のみ鍼を使う。
4回目
マラソン2週間前のため、練習量減。腸脛靭帯の付着部を念入りにゆるめ、右下肢も浮腫みをとり左右のバランスの調整。疲労感軽減を目的とした施術。マラソン当日、左膝外側の痛みなく完走。
練習量が増えてくると、下肢全体に浮腫みや疲労感がでてきます。練習を継続できるよう、浮腫みを取りつつも、腸脛靭帯に関わる直接・間接的な筋緊張を取ることを意識して施術しました。
市民マラソンの盛り上がりなどもあってか、ここ最近は性別、年齢を問わず走る方が増えています。当院の近隣の内牧公園、北春日部周辺の田畑でも多くのランナーを目にします。春日部市は大凧マラソンもありますね。ランナーの皆さんにはケガ無く、楽しんでいただきたいと思います。
参考文献
- 運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学(医学書院)
- 骨格筋の形と触察法(大峰閣)
- ネッター解剖学アトラス(南江堂)