足関節捻挫の後遺症と鍼灸症例

足関節捻挫の後遺症

足関節の捻挫はスポーツ、階段の踏みはずしなどでよくおきる頻度の高いものです。特に足関節を内側にひねることで、外くるぶし周囲の靭帯が損傷します。

痛み、腫れ、内出血、関節が不安定になるなどの症状により、歩行に支障をきたします。
捻挫の初期では、安静、冷やす、圧迫、挙上といった「RICE処置」を適切に行います。

そして骨の損傷がないかを確認し、レントゲンをとります。
受傷してから一刻もはやくこの処置を行うかが大切です。湿布などよりも、氷嚢や氷水などでしっかりと冷やすことが肝心です。「初期の捻挫」は骨折の確認のためなどもあり整形外科、その後に接骨院を訪れる方が多いようです。

そのため、当院では受傷直後の捻挫の患者さんはあまり来院されません。今回ご案内するのは「初期の捻挫」ではなく、受傷から数か月経過した「捻挫の後遺症」についてです。

足関節捻挫の後遺症と鍼灸施術

捻挫の後遺症は主に「痛み」「足関節の不安定性」があるといわれています。
日常生活よりも、より負荷のかかる動作、姿勢で「痛み」が出ます。
特に「痛み」について、下記2名の患者さんの鍼灸施術の症例を通じてご案内いたします。

足関節捻挫の鍼灸症例


(患者さん個人が特定されないよう内容に変更を加えています)

患者①:10代、男性、サッカー部
主訴:右足関節の痛み

病歴
4か月前に、サッカーの試合中に右足関節をひねった。整形外科にて「足関節内反捻挫」と診断。骨には異常はない。湿布などを処方され、自宅でRICE処置を行った。受傷後1.2か月で良くなると思っていたが、3週間後に大切な試合があるのに痛みがまだある。現在日常生活には支障はない。
特にサッカーのインステップキック(強く、遠くへボールを飛ばすキックで、足首を伸ばし、足関節にボールをのせて蹴る)で足首が痛くて蹴れない。ダッシュからの方向転換で痛みがある。

身体診察
圧痛部位は「踵腓靭帯」に認められ、特に足関節内反位でコリコリした硬結を確認。「前距腓靭帯」「後距腓靭帯」「前脛腓靭帯」「後脛腓靭帯」には所見は認められない。
自動、他動による足関節の内反、外反では痛みは感じない。

鍼灸施術の中身と経過
初診
右上側臥位にて「踵腓靭帯」、前脛骨筋、腓骨筋に50㎜4番鍼にて鍼通電。「前距腓靭帯」「後距腓靭帯」に単刺などを行うが、足関節自体は軽くなるものの、インステップキックでは痛みが残る。

2診
「踵腓靭帯」への鍼を太めのものに変更し、鍼通電。刺激が強くならないよう、揉捻を念入りに、刺入を慎重に行う。施術直後インステップキックは蹴れる。ただ、怖さもあるため、まだ100%の力では蹴れない。

3診
前回施術後完全ではないが、80%ほどの力でインステップキックは蹴られるようになった。施術は前回同様、数日後に試合のため終了とする。2週間、計3回の施術となりました。試合には無事出場となりました。

足関節の捻挫による後遺症の痛みに対しては、あまり細い鍼だと効果が乏しいとケースがあります。それでも初診時は様子を見る意味も含め、比較的弱めの鍼から始めています。

患者②:30代、男性
主訴
左足関節の痛み

病歴
2か月前に左足関節の捻挫、ご自身でRICE処置を行い、1週間後には普通に歩けるようになる。趣味で行っている格闘技の「キック」のインパクトの際に痛みがでる。接骨院で週に3回電気治療を行うが、短期・長期ともに効果を実感できない。
「キック」だけでなく、「そんきょ」の姿勢でも痛みがあり、「正座」のように足関節が伸ばされて体重が載る姿勢が維持できない。歩行は大丈夫だが、下り坂では痛みや違和感を感じる。

身体診察
「前距腓靭帯」に圧痛が認められる。足関節内反位で触診するとより著明に確認できる。少しむくみもある。他の靭帯については所見が認められない。前脛骨筋、腓骨筋が患側の左側に緊張が強くみられる。

鍼灸施術の内容と経過
初診
以前に他の症状で鍼の経験があるため、「前距腓靭帯」に60㎜8番鍼、前脛骨筋、腓骨筋に50㎜4番鍼にて鍼通電を行う。外果付近のむくみには電気ていしんを使用。
施術後「そんきょ」「正座」を試してみるが、
楽にはなっているものの「正座」はまだできない。
自宅でせんねん灸を靭帯周囲に行っていただく。

2診
施術内容は前回同様で行うが、足関節内反位で単刺。さらに正座が数秒は可能のため、その姿勢で単刺を行う。自宅灸は引き続きお願いする。

3診
施術内容は前回同様。足関節内反位や正座などで靭帯をより浮きだたせて伸ばした状態での鍼が効果的と考えられる。そんきょ、正座はできるようになる。
8日間、計3回の施術となりました。
患者さんが鍼の経験があり、刺激量と施術効果の説明について納得いただきました。また接骨院での経過が芳しくなく、格闘技での負担が決して軽いものではなかったため、太めの鍼で施術をいたしました。また自宅でのお灸なども回復を促した要因ではないかと思っています。


患者③:10歳以下、男性
主訴:右足関節外側の痛み

病歴:1か月半前にサッカーで受傷。1か月安静にし、練習を休む。日常生活、歩行、ランニング、ダッシュでは痛みがない。インステップキックのみで痛みがある。10日後に大事な試合がある。

身体診察:右足関節内反位で前距腓靭帯周囲に痛み。
前距腓靭帯に最大圧痛。後距腓靭帯も圧痛が少し。
左に比べ、右腓骨筋に著明な緊張。
外果周囲に浮腫みが認められる。

鍼灸施術の内容と経過
方針:患者さんの年齢が10歳以下であり、鍼灸経験もないため弱刺激から始める。

1回目
外果周囲のむくみ、腓骨筋の緊張緩和のため、微弱な電気ていしんを使用。電気温灸器も併用。10分程。臥位での足関節内反位での痛みが5割ほど軽減
前・後距腓靭帯に細い鍼で2本置鍼。臥位での足関節内反に対する抵抗運動で痛みがわずかに残る。自宅でうつ伏せでゲームをする習慣があったため、足関節が底屈位にならないようにアドバイスを行う。練習ではインステップキックをまだ蹴らない
練習後はアイシングをする
腓骨筋をさする程度のマッサージは良いが、
靭帯は触らないように伝える。

2回目
靭帯の圧痛はわずか。
臥位での内反位では痛みなし。腓骨筋の緊張も左右差がない。
施術は前回同様。施術後、インステップキック8割までは痛みなし。

3回目
練習時にインステップキックを行ったが痛みなし。
1か月安静にしていたため、練習の疲れで
ふくらはぎにだるさがある。
前回の施術に加え、ふくらはぎのだるさに対し、
電気ていしんとオイルマッサージを加える。
初診時から10日間でしたが、痛みなく試合には出られました。
①②の症例と違い、10歳以下の患者さんのため、太い鍼を使うわけにもいきませんでした。受傷後1か月間、安静にしていただいたき、当院来院後の10日間、アドバイスやセルフケアをしっかり行っていただいたことが回復への大きな要因かと思います。
捻挫受傷後、無理に練習や試合に出たりなどは本当に避けていただきたいと思います。

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