ぎっくり腰(急性腰痛)-鍼灸症例からの病態と回復

 

ぎっくり腰(急性腰痛)-(鍼灸症例)

ぎっくり腰になった時、痛みをなんとかしたいという思いから、
いろんなことをしたくなります。

予防と同じくらい、なってしまった後の過ごし方がとても大切です。

ぎっくり腰になったときは「温めることだけは避けてください」とぜひお伝えしたいと思います。その理由は入浴により、炎症が強くなるからです。その結果、

  • 入浴は心地よいが、その後に痛みが増す可能性がある
  • 回復期間がのびる
  • 鍼灸の施術回数が増えてしまう

これらについて、鍼灸の症例を通じてより具体的にご案内いたします。
また、ぎっくり腰の病態と回復期間については後半になります。


下記症例は患者さん個人が特定されないよう、内容に変更を加えております


ゴルフでぎっくり腰になった鍼灸症例

患者
70代、男性、連日のゴルフの後、急に腰と足が痛くなった。
普段より多いペースでゴルフをしてしまったのもあるが、足裏の魚の目が原因で歩き方が悪くなったのだと思う。昨年冬に運動のあと、生まれて初めて急性腰痛になりつらい思いをしたので今回も心配になった。


病歴
2日前のゴルフ後の夕方に急に腰が痛んだ。しかし翌日もお付き合いのためにゴルフの約束があり参加したが、状態は芳しくない。
立ち上がり時に左足にも痛みがでてきた。しびれはない、夜間の痛みはない、体重の変化、発熱もない。
前かがみや、立ち上がり、体を右から左に向けた時に腰の下のほうに痛みを感じる。自分では1か月前からできた魚の目も歩き方に影響し腰痛に関係していると考えている。

拝見したところ、痛みのある部分を圧迫してもそれほど痛みはなく、また足にもひびかない。熱を持った感じもない。骨折を疑う所見もありませんでした。
足に症状があるので坐骨神経痛の可能性は捨てきれませんが、施術後には立ち上がりの痛みや、動作による痛みは8割ほど軽減できました。

ここでまずは一安心ですが、この患者さんは習慣的に温泉に通われています。昨年の急性腰痛の際も、温泉をお勧めできる状態ではない旨をお伝えしたのですが、施術前後に温泉に行き悪化された経験がおありです。

今回はなんとか納得していただきました。ソファーよりも、椅子でお休みになり、日常生活は普通に送る、就寝時は横向きでお休みなるよう伝えました。

2回目にお見えになったときは腰・足の痛みもほぼ気にならず、自転車で来院されました魚の目も、近隣の病院で処置されていました。早期の治療によって坐骨神経痛がでなかったのはよかったと思います。回復期間などから考えると炎症の程度がそれほど強くなかったのかもしれません。鍼灸施術もそうですが、そのあとの過ごし方にひとつのポイントがあります。

温泉に入る猿

ぎっくり腰と温泉

温泉は慢性的な腰痛には効果的だとは思いますが、急性の腰痛ではしばしば悪化された患者さんを拝見します。他にもすでに温泉旅行に行く計画が決まっており、その直前に腰痛を発症した患者さんがおられ、温泉旅行の初日に違和感を感じたそうです。

急性の腰痛では、発症時から時間の経過とともに炎症が強くなっていきます。炎症が強くなっている時に、入浴をして温めるとさらに炎症が強くなります。
入浴をどうしても希望される方は、できる限りシャワーなどですまされるようお勧めします。急性腰痛の場合は、くれぐれも温めて治そうとなさらないでください。

同じ腰痛でも、急性と慢性では生活上の対応が異なります。

立ち上がり時にぎっくり腰になった鍼灸症例

患者:40代、男性
病歴
昨日夕方、立ち上がった時に、急に腰の中心部が痛くなった。ぎっくり腰は2回目。
以前、他の鍼灸院で1週間ほどで改善した。

痛みは現在も昨日と同じくらい。しゃがんで、立ち上がるときに痛い。前にかがむと痛い。腰から下にしびれはない。
昨晩は入浴し、眠れた。市販の塗り薬、鎮痛剤、コルセットを使った。
食欲正常、体重の増減なし。

身体診察
両側の第4腰椎椎間関節を中心に発赤、熱感、圧痛が認められる。第5腰椎、左第3腰椎椎間関節にも圧痛。うつ伏せは可能。
下肢症状もないため坐骨神経痛を呈するヘルニアなどは考えにくい、自覚痛・圧通部位から「急性の椎間関節性腰痛」と考えた。

鍼灸施術
急性であり、身体診察で炎症所見が認められるため、40㎜-18号の鍼で第3.4.5腰椎椎間関節、仙腸関節、上胞肓に浅刺、置鍼10分ほど。置鍼中に痛みが減ってきた。

座位にて、前かがみを確認。仙骨下部に少しつっぱり感が残る程度。第4腰椎椎間関節に単刺。前かがみ、しゃがみこみ、立ち上がりなどをチェックして痛みはない。
帰宅後は無理をせず、入浴はさけ、シャワーで様子を見るよう伝える。



振り返り
今回の「ぎっくり腰」に対しての鍼灸治療の結果は、患者さんには非常に喜んでいただき、その点は非常にうれしく思います。
しかしながら鍼施術1回で回復というよりは、少ない回数で改善する「病態」であったといったほうが適切だと思います。トイレまではっていけないような方もおられる一方で、鍼灸院に自力で来院できる方もおられます。前者のような状態では一定の施術回数と時間が必要です。
患者さんは前日に入浴をされていたのが、炎症を強くした要因の一つかもしれません。
急に痛めたときはなるべく温めないのがよろしいかと思われます。


急性腰痛(ぎっくり腰):病態と回復期間の関係


急性腰痛、いわゆる「ぎっくり腰」において痛む部位・程度は様々です。
「痛みで立ち上がれず、トイレにもはっていくレベル」から「歩いて来院できるレベル」まで、同じ「ぎっくり腰」でも違いがあります。
痛みの部位、程度によって回復期間が違います。下記の症例は「関節」の痛みで、車で来院されたケースです。

長時間のパソコン作業でぎっくり腰になった鍼灸症例

患者
40代、男性、
「長時間のパソコン作業が原因で腰に負担がかかったのだと思う」「明日、外せない用事があるためなんとかしたい」

主訴
急性腰痛


病歴
2日前に長時間のパソコン作業をした後に、左腰に痛みを感じた。
痛むところは左腰、第3腰椎椎間関節と、左仙骨外縁。痛みはズキンとした刺すような感じ。くしゃみ、笑う、ふりむくなどの動作で痛みが強くなる。
昨日の朝には腰がつったような感じがした。市販の痛み止めを服用したが、あまり効果がない。
痛み以外では、左ふくらはぎ外側にしびれが少しある。お尻、太腿、足の指などには症状はない。夜間の痛み、安静時の痛みはない。お小水、お通じは正常。発熱、体重の増減もない。これまでに大きな病気はなく、健康診断も正常。
15年前にもぎっくり腰になった経験がある。鍼治療の経験はない。



身体診察
家族に車で送ってもらい来院。車から当院までは腰に手をあてて、自力で歩いてこられた。左腰部に少し熱感あり。圧痛は左第3.4椎間関節、PSIS、仙骨外縁、上胞膏に認められる。

鑑別診断とその理由
ふくらはぎ外側のしびれがあるが、下肢のほかの部位にしびれや痛みなどがないため、ヘルニアの可能性は低いと考えた。
ふくらはぎのしびれは、仙腸関節の影響と判断した。痛む部位から、第3.4椎間関節と仙腸関節による関節の痛みと判断した。

施術とその経過
腹臥位にて第3.4.5椎間関節、仙腸関節、外胞膏、気海兪、大腸兪に寸6-4番鍼で置鍼1センチ、10分を行った。その後座位にて、第3腰椎椎間関節、仙腸関節に単刺を行った。
治療後、歩行中に腰に手をあてることなく、ふりむく動作も痛みなくできた。ふくらはぎのしびれも消えた。翌日の用事にはなんの支障もなく行けた。


急性腰痛に関する説明の一例

鍼治療を始める前に、患者さんには以下のように説明をしてご納得いただきました。
「ふくらはぎにしびれがあるので、ヘルニアの初期症状の可能性は捨てきれませんが、
現在の症状から判断すると関節の痛みが原因と思われます。急性腰痛で関節の痛みは比較的早く良くなります。
明日以降に下肢症状の範囲がひろがったり、痛みが強くなった場合はヘルニアの可能性がありますので、その際は1か月ほど回復までに期間がかかるかもしれません。」

「ヘルニア」は痛みやしびれが強く、腰から足の指まで坐骨神経に沿った神経痛があります。また鍼施術を1度したくらいでは、今回の様に症状が劇的に改善しません。
「椎間関節性腰痛」では通常膝から下には症状はでません。
「仙腸関節性腰痛」では下肢症状はありますが、坐骨神経に沿った神経痛ではありません。

急性腰痛も様々なタイプがありますが、今回は「関節」が原因だと思われた腰痛でした。
自力で歩行できており、下肢症状の範囲がせまく、痛みはありながらも、1度の鍼治療で改善された結果を考えると、程度としては軽度の急性腰痛だと思われます。
関節が原因でも炎症が強い場合は、治療期間が長引きますし、炎症が強いときの入浴をは回復を遅くします。
今回のように「ぎっくり腰」が1回で改善する場合もありますが、私は下記のように考えています。

「患者さんの状態(病態)」×「適切な施術」×「悪化させない生活」=「回復期間」

最後に

  • ぎっくり腰の時は、温めないようにしてください
  • 病態によって回復期間は様々です
  • ヘルニアのように下肢症状があるものとの区別が必要です。

参考記事
ゴルフでぎっくり腰になったときにしてはいけないこと
「ぎっくり腰」になった時に知っておいてほしいこと   
     

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