「間質性膀胱炎」・「膀胱痛症候群」と鍼灸

間質性膀胱炎」の患者さんがお見えになることがあります

「間質性膀胱炎」の既往がある方がまれにお見えになります。
鍼灸院では日常的に扱う病気ではありません。
稀な病気の場合、患者さんの方が様々な医療機関を経て鍼灸院に来院されるケースがほとんどですので、積極的に症状や、これまでの治療とその経過を教えていただきます。

間質性膀胱炎」とは

下記「日本間質性膀胱炎研究会」の引用となります。

主な症状は、膀胱痛、頻尿・夜間頻尿、尿意亢進、残尿感などである。膀胱痛は、膀胱に尿がたまった時や冷えた時のほか、刺激物の摂取や精神的なストレスでも悪化する。痛みが周囲に広がることもある。症状が強いと、日常生活に多大の障害が生じる。

日本間質性膀胱炎研究会

患者さんからは「痛み」もそうですが、それによる精神的負担が相当強そうな印象を受けます。

間質性膀胱炎の患者さんを取り巻く背景

診断がつきにくいこと、原因がわからないこと、いろんな治療を試したが効果がないことで困っている背景があります。治療法は多様で、抗うつ薬が効いている方もおられました。診断をつけにくい病気であることから2019年の「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群ガイドライン」では膀胱鏡の所見がなくても、他の疾患を除外した上でそれでも膀胱が痛い人を治療の対象としています。

鍼の治療を受けていた患者さん

ある患者さんは「間質性膀胱炎」に対して、病院での治療と並行して既に鍼治療の経験がありました。この後に紹介する「仙骨部」への鍼刺激でした。当院に来院されたときは、症状は時折あるものの安定した状態でした。

「間質性膀胱炎と鍼灸」の論文では

「間質性膀胱炎」「膀胱痛症候群」に対し鍼灸はどうやってアプローチしているのか、調べてみました。

①Acupuncture for female bladder pain syndrome: a randomized controlled trial 
(女性の膀胱痛症候群に対する鍼治療:ランダム化比較試験 )PMID: 35691037  

*電気鍼・通常の鍼ともに最悪の痛みは軽減、電気鍼は痛みによる日常生活の影響と骨盤底筋の圧痛を軽減した。6週間で改善傾向。


②Complete response to acupuncture therapy in female patients with refractory interstitial cystitis/bladder pain syndrome (難治性間質性膀胱炎/膀胱痛症候群の女性患者における鍼治療による奏功事例)PMID: 28326514 

*週に2回、計10回の鍼施術を受けた間質性膀胱炎の患者の様々な指標に改善が見られた。3カ月目の治療反応は良いが、6か月目、12ヶ月目は反応が鈍くなっている。


③Efficacy of electroacupuncture nerve stimulation therapy for interstitial cystitis/bladder pain syndrome(間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する鍼電気神経刺激療法の有効性)
PMID: 31099215 

*腹部と仙骨部への治療。薬剤治療群との比較。治療6ヵ月後の総有効率は観察群で87.5%(28/32例)


④Effect of electroacupuncture on expression of p-ERK1/2 and c-fos in spinal dorsal horn in rats with interstitial cystitis(間質性膀胱炎ラットの脊髄後角における p-ERK1/2 および c-fos の発現に対する鍼電気治療の効果)PMID: 34085459 

*次髎・会陽 (30 Hz、1 mA) に 20 分間、1 日 1 回、連続 3 日間施術し鎮痛効果が得られた:ラットの研究


⑤Effectiveness of acupuncture and moxibustion therapy for the treatment of refractory interstitial cystitis (難治性間質性膀胱炎に対する鍼灸治療の有効性)PMID:27319132

*日本の論文:次髎、中髎に電気鍼 次髎、下髎に灸頭鍼。膀胱水圧拡張術後の効果を継続するための方法としての鍼灸治療。


⑥Effects of electroacupuncture on refractory interstitial cystitis/bladder pain syndrome: A one-year follow-up case report(難治性間質性膀胱炎/膀胱痛症候群に対する電気鍼治療の効果:1年間の追跡症例報告)PMID: 38072764 
*次髎、中髎、会陽、三陰交を使い、1か月間12回の施術で1年間症状の軽減が継続


⑦頻尿・膀胱炎モデルラットに対する鍼刺激に関する効果機序の解明(明治国際医療大学)
*下腹部より仙骨部の鍼の方が排尿間隔が延長する結果:ラットの研究


論文を調べた結果


「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群」に対しての鍼灸治療は、仙骨部への電気鍼治療が多いようです。

効果が出るまでは1か月半から3か月がひとつの目安になり、ケースによっては効果が長期で持続しています。(ハンナと非ハンナで異なるとも聞きます)
もともと難治な病気であり、特効薬もまだない状況です。論文では効果のある例が報告されていますが、鍼灸をすれば即座に全てが改善するほど単純な病気ではないでしょう。同じ疾患名でも鍼灸が効果的な状態とそうでない状態があると思われます。

しかしながら、このような先行研究を参考にし、まずは参考論文⑤のように他の治療法に貢献できる選択肢のひとつとして鍼灸がお役に立てればと思います。
「侵襲性」という患者さんにかかる身体的な負担が少ない点が鍼灸の利点ではないでしょうか。

当院での施術とその経過


実際に当院ではそれほど事例がまだ多くありませんが、仙骨部への電気鍼、陰部神経刺鍼、脛骨神経刺鍼を軸に取り組んでいます。悪化することはなく、膀胱痛の程度、排尿回数の減少などは見られます。

先行研究のように、完全ではないにしろ鍼による施術が症状改善につながっている
印象があります。

参考文献


「ねころんで読める排尿障害」 (高橋悟著 メディカ出版 刊)

関連記事

PAGE TOP