膝内側の痛み-鵞足炎
高齢者の膝の痛みといえば「変形性膝関節症」が有名です。
膝の内側には靭帯や半月板など様々な組織があります。
今回は「鵞足炎」と思われた症例を紹介いたします。
「鵞足(がそく)」とは3つの筋肉の腱が脛の骨の内側に付着する部位です。
3つの筋肉「縫工筋」「薄筋」「半腱様筋」で、
「鵞足」に炎症がおきることを「鵞足炎」といいます。
*下記症例は患者さん個人が特定されないよう、変更を加えています。
鵞足炎の鍼灸症例
患者:70代、女性
主訴:右膝内側の痛み
これまで膝が痛くなったことがないので、歩けなくならないか不安。
病歴
3日前、車による旅行で長時間座っていたところ、右膝の内側が痛くなった。
足をひねったり、外傷はない。腰痛や下肢のしびれはない。
歩行や膝の曲げ伸ばしが痛い。
自宅の2階に上がるのも痛く、這って上がるくらい。
動かなければ痛みは軽減される。
夜間痛なし。外傷なし、発熱なし。
普段は散歩や、体操教室などに参加している。
既往
腰椎圧迫骨折(4年前)
膝の痛みはこれまで経験がない。
所見
膝周囲の発赤・腫れは認めれない。内側側副靭帯、関節裂隙に圧痛なし
鵞足部に強圧痛・軽度の熱感あり
縫工筋遠位部に圧痛薄筋に圧痛多数
半腱様筋遠位部に圧痛
伏在神経絞扼部位の圧痛は不明瞭
腓腹筋内側頭・半膜様筋緊張あり
膝蓋下脂肪体に圧痛なし
患者の体型はやせ型。
身体診察
膝関節伸展+内旋:疼痛・クリック音なし
伸展+外旋:疼痛・クリック音なし
鑑別診断
・変形性膝関節症:急性であり、
・半月板損傷:外傷歴がなく、身体診察から否定的
初診
車で座っていただけで、なぜ膝の痛みがでたのか疑問に思い、
追加の質問をしたところ、右足だけあぐらをかくような肢位で座っていた。
鵞足部(特に縫工筋)が長時間緊張する肢位と考えられた。
これまでの当院来院歴から、患者は鍼が苦手で、お灸を好む。
今回は病態から、弱刺激である「電気ていしん」の使用をご理解いただいた。
病歴と所見から「鵞足炎」を想定して施術。
腹臥位にて半膜様筋と腓腹筋内側頭の緊張部位に電気ていしんを行う。
仰臥位にて大腿内側から膝内側にかけて、さらに鵞足部の緊張除去に電気ていしんを行う。残存している緊張部位に紫雲膏灸。
立位時には痛み無し、KTtape(キネシオテーピング)を
大腿内側部から鵞足部にかけて貼る。
1週間後に車で長時間移動する用事がある。
第2回(4日目)
右膝内側の鵞足炎については7割改善。
左脛の前側・外側が右足をかばっていたせいか少し痛む。右膝は前回同様の施術を行う。左に半膜様筋、腓腹筋内側頭にも緊張が確認でき、脛と同様電気ていしんにて施術。
第3回(8日目)
左右膝とも問題なく、車の長時間移動後でも歩くことができた。
施術を終えて
急性の膝の痛みであり、外傷歴がなく、「あぐら」という病歴、
「鵞足部」の所見から「鵞足炎」と思われる症例でした。
参考文献には、腓腹筋の筋力低下があると、鵞足構成筋の過剰収縮により、
付着する下腿筋膜の緊張を強くし、鵞足炎をおこしやすくする記載がありました。
「鵞足炎」はスポーツをしている方に多いといわれていますが、
高齢による筋力低下も今回の背景にあったかもしれません。
参考文献
・「運動機能障害のなぜ?がわかる評価戦略」 工藤慎太郎 著 医学書院 刊
・「膝関節拘縮の評価と運動療法」 橋本貴幸 著 運動と医学の出版社 刊