鍼のひびき(得気)-その効果の是非
鍼のひびき(得気)は鍼灸治療をお受けになった方であれば、どなたも経験があるかと思います。上の写真の水面の「波紋」のような性状はひびきのひとつのイメージでしょうか。
鍼の「ひびき」については、はじめての方は驚かれる方もおられたり、「ひびき」そのものについてのご質問も多いことから少し書きたいと思います。
鍼の「ひびき」って何?
「ひびき」は「痛み」とはまた違う独特の感覚です。ズシンと重い感じ、電気が走る感じ、末端までつながる感じ、広がる感じなど患者さんは様々な表現をなさいます。
患者さんによって「ひびく」感覚を好まれる方、好まれない方など様々です。関西の患者さんは鍼のひびきを好み、関東の患者さんは好まない傾向があるとも聞きます。
鍼灸は関西や四国でより普及していた背景と関係しているかもしれません。
中国では、鍼の「ひびき」を治療において意図的に発生させることも多く、その「ひびき」の有無が治療効果につながると考えているそうです。
鍼の「ひびき」は効果がある?ない?
鍼灸師の間でも「ひびかないと効果がない」という意見と、「ひびかなくても効果がある」という意見があります。わたしはどちらもあるという立場です。
「ひびいた方が効果が高い」と、私自身が思うのは、頸椎症性神経根症や胸郭出口症候群などの上肢症状や、変形性腰椎症や梨状筋症候群などから起きる坐骨神経痛などの下肢症状です。
頸や胸郭に原因があって、手や腕にしびれや痛み、重だるさなどがあるときには、原因となるところに鍼をするとひびくことがあります。
また「ひびき」がでるようにピンポイントで鍼を刺入し、操作します。
腰やお尻に原因がある坐骨神経痛も同じように鍼をすることで、足先やふくらはぎなどに鍼のひびきを伝えることができます。
このような症状の場合、症状部位にひびいたほうが、その後の経過が良いように感じています。
先ほどもお話ししたように、はりの「ひびき」は独特なので好まれる方と、好まれない方がおられます。初診時から意図的にひびかせることはあまりありませんが、症状が強い場合、治療経過で症状に変化がでにくい状態になったときなどでは意図的に「ひびき」を与えることがあります。
治療点の探し方
実際には、患者さんの訴えから診たてをし、そこから訴えの原因と思われるところを推察し、触り、確認をしていきます。原因部位に指で圧を加えると、症状が再現したり、強くなった場合は治療点として考えます。
こちらが見て、触り「ここに何かあるな」と感じたときに、患者さんも「そう、それ」と感覚が一致するところはいわゆるツボではなくても解剖学的に重要な場所だったり、治療点となります。
両者で一致したところは、本当に必要なポイントです。
たとえば、足の三里というツボに鍼をしたときに、指先までじわーと響く感覚、足の指にしびれがある患者さんには「そこが悪かったんだ、そういう風にひびかせてくれるとなー」とおっしゃる方もおられます
時には、「こっちもあるんじゃないか」と患者さんに教えていただき、相互に確認しながら治療することは少なくありません。こういったやりとりが、治療をよりスムーズに、効果的にしていると考えています。わたしにとって貴重な機会でもあります。
一方で患者さんが気づいてなくても臨床上で重要なところは治療点に加えています。
鍼治療の経験がある患者さんでも、症状があるところにひびくような鍼、つまりご自身が原因だと思う場所にしっかりとあたるような鍼をされたことがなかったということをたびたび耳にします。
鍼のひびきの有無が効果に影響するかどうかはまだまだ不明な部分が多いのは確かです。鍼がひびいいたという気持ちの満足もあるかもしれません。しかしながら、ひびく鍼を行ってから、症状の改善が見られた患者さんも多く経験しています。
今回は「鍼のひびき」について経験にもとづいてお伝えいたしました。
2019年現在、鍼に慣れてない患者さん、患者さん自身が鍼のひびきを好まない方には、ひびかないように、鍼以外の手段を使うことが増えました。
2013年には「顔面神経麻痺」に対する鍼灸治療では、鍼の「ひびき」があった方が、なかったほうよりも機能回復が良好であるといった研究が報告されています。
よろしければ併せてご覧ください。